お化け屋敷から複合現実(MR)まで 加速する「ホラーイベント」人気、その魅力とは?

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お化け屋敷から複合現実(MR)まで 加速する「ホラーイベント」人気、その魅力とは?

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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夏といえばホラー。近年はVRを利用したお化け屋敷なども登場し、人気を集めています。ホラーがコンテンツとして確立した背景や、多くの人を惹きつける理由とはどのようなものでしょうか。レジャー市場の調査分析を行う「文殊リサーチワークス」の中村圭さんが解説します。

90年代後半から「Jホラー」が確立

 夏が近づきホラーの季節がやってきました。

2000年代からホラー映画盛況時代が到来した(画像:写真AC)



 近年、お化け屋敷やホラーイベントなど、ホラーコンテンツを使用した集客施策が活発です。特にホラーが注目を集めるようになったのには1990年代後半頃、『リング』(鈴木光司、角川書店)や『死国』(坂東眞砂子、角川書店)など、ホラー小説が映画化され大ヒットしたことが挙げられます。

 国内ホラー作品は一大ジャンルとして確立し、「Jホラー」と呼ばれ、2000年代から玉石混交のホラー映画盛況時代が到来します。

 また、書籍では『新耳袋 現代百物語』(木原浩勝・中山市朗、角川書店)シリーズなどの怪談本ブームや都市伝説本ブームが発生し、ホラーコンテンツの認知度が確実に上昇しました。

 2000年頃からの流れに加えて、2010年頃には『シロメ』(監督:白石晃士、主演:ももいろクローバー)などアイドルが主演のB級ホラーが数多く制作され、ファンの裾野が広がりました。

 そのような一連の動向が現在のメジャータイトル増加に繋がっています。『ほんとにあった!呪いのビデオ』(製作:株式会社ブロードウェイ、株式会社パル企画、日本スカイウェイ)シリーズなど、いわゆるフェイクドキュメンタリー作品も人気です。スタッフが実際に投稿者に話を聴きにいくなど、ドキュメンタリーさながらに進行していくもので、前述の作品をきっかけに映像製作会社から製作されるフェイクドキュメンタリーが爆発的に増加しました。

 2010年前後にはインターネットラジオで怪談を語る「怪談ラジオ」や、リアルで集まって怪談を語り合う「怪談オフ会」などが活発に行われ、怪談ブームが到来しました。さらに携帯電話で読める「ケータイ小説」でもホラーコンテンツの投稿が増え、『王様ゲーム』(金沢信明<ぱっくんちょ>、モバゲータウン)のようなデスゲーム系の作品が人気となり、アニメや漫画にも展開されています。

動画サイトでリアルタイム恐怖を共有

 ここ数年ではニコニコ動画に専用チャンネルが設けられ、ホラー映像作品に触れる機会が多くなっています。前述のフェイクドキュメンタリーのレーベルが有料チャンネルを開設したり、一般人や芸能人による怪談や心霊スポット実況チャンネルが配信されたりしています。

動画配信によって、リアルタイムで恐怖を共有できるようになった(画像:写真AC)



 また、夏休み期間には毎日ホラー映画やフェイクドキュメンタリーが配信され、ネット上でリアルタイムに恐怖を共有するメディアが確立されています。

 その他にも動画サイトにおいてはRPG作成ソフトの「RPGツクール」を使用したホラーゲームが多く投稿され、中でも『青鬼』(noprops)は映画や漫画、アニメ、スマホアプリなどにクロスメディアされ人気を得ています。このようにホラーコンテンツは拡大する方向性にあります。

体験型イベントが多様化。開発・集客効率のメリットも

 近年はホラーコンテンツを活用したイベントやアトラクションなど集客施策としてのホラーが多く登場し、人気を博しています。

 2015年以降、さまざまな新しい形態のホラーイベントが出てきていますが、2000年代からのホラーブームや2010年からの怪談ブームなどを受けて、ホラーのプロデューサーや語り部が増え、企画しやすい環境ができてきたことがひとつの要因と思われます。

 またお化け屋敷は開発サイドからすると、絶叫系のジェットコースターのようないわゆるスリルライドと比較して投資コストが低い、コンテンツを変更してリニューアルができる、スペースを問わないし場所も柔軟に対応できる、インドアで雨天でも稼働できる、ウォークスルー型ならば定員効率が高いなど、開発効率、集客効率のメリットがあります。

 特に注目されるのは、既存の施設や空間を使用したお化け屋敷・ホラーイベントです。住宅街の空き家にお化け屋敷を常設している「方南町お化け屋敷 オバケン」(杉並区方南町)などがそうです。

 また、ホラーの世界はVRとも相性がよく、MR(複合現実)を活用した施設「TYFFONIUM」(江東区ダイバーシティ東京プラザ)では、モンスターが出る廃墟を巡るアトラクション「CORRIDOR」も話題となっています。お化け屋敷は常設施設が増えてきており、座敷を靴を脱いで回る「怨霊座敷」(文京区東京ドームシティ)などが人気です。

 それ以外にもリアル脱出ゲームや謎解きゲーム、ゾンビと追いかけっこする「ファンラン」(楽しみながらランニングするイベントのこと)や大がかりなハロウィンイベントなど、場所や既成概念にとらわれなくなってきています。

ホラーコンテンツの真の魅力とは?

 ホラーコンテンツの魅力の背景にあるものはなんでしょうか? 

 恐怖の娯楽性については脳科学や心理学の分野で研究され、解明されてきています。脳の恐怖と快楽をつかさどる働きや、恐怖による瞬間的な危機回避行動によって、身体や精神が興奮・高揚することが快感やストレス発散につながっているとされています。

ホラーのダークファンタジーな世界観に惹かれる人も。写真はイメージ(画像:写真AC)



 しかしホラーの魅力はそれだけではありません。ホラーにはストーリーがあり、独特の世界観があります。世界中に存在し、伝統や因習がらみのものが多いことから、その地域の風土や歴史が色濃く反映されます。ダークファンタジー的な世界観に惹かれる人も少なくないでしょう。

 ホラーはおおむね生活圏や旅行先など、想像できる行動範囲を舞台とした恐怖です。現実に投影しやすく、よりリアルな恐怖といえます。例えばホラーを見たあとに子どもが電気を消して寝られないなど、恐怖が持続する効果もあります。スリルライドのような爽快さはありませんが、より奥行きのある恐怖だといえるでしょう。

 このような特性を持つホラーコンテンツはさまざまな集客装置に活用されやすく、ホラーの集客装置であるお化け屋敷やホラーイベントは単なる恐怖の体験だけではなく、世界観の体験装置といえます。

 体験型のレジャーが人気ですが、お化け屋敷などホラー系アトラクションは空間全体で感覚に訴え、まさに世界観の中に入っていくもので、現代の体験ニーズに合致しているといえます。

 近年、「ホラ女」と呼ばれる女性ファンが増えています。ここ数年でホラーコンテンツの供給が増え、体験型イベントなど様々な場所でホラーに接する機会が増えたことがありますが、現在の状況は潜在的なファンが顕在化することによって「ホラー好きの女子」というカテゴリーが社会的に認知されたということと思われます。

 女性ファンが増えることによって話題が拡散しやすく、集客が拡大しやすい状況ができており、今度もホラーコンテンツを活用したアトラクションやイベントが増えていくと考えられます。今年もプロデューサーが工夫をこらしたお化け屋敷やイベントが開催されます。皆さんも足を運んでみてはいかがでしょうか。

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