100年の歴史をもつ浅草「大釜本店」で日本最古のソース焼きそばを味わう【前編】

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100年の歴史をもつ浅草「大釜本店」で日本最古のソース焼きそばを味わう【前編】

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食文化史研究家

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全国各地で愛されているソース焼きそば。ところが、戦前からソース焼きそばを提供している店は浅草周辺にしか残っていません。そしてそんな浅草最古参の店では、なぜか東京伝統の甘味も提供しています。浅草とソース焼きそばの関係について、著書においてソース焼きそばの歴史を明らかにした食文化史研究家の近代食文化研究会さんが解説します。

日本最古のソース焼きそば店は、浅草周辺に集中

 浅草駅と南千住駅の中間(台東区清川)に位置する、大釜(だいかま)本店。

大釜本店(画像:近代食文化研究会)



 1928(昭和3)年の創業時から、100年近くにわたってソース焼きそばを提供している老舗です。

 ソース焼きそばの歴史を明らかにした塩崎省吾『焼きそばの歴史《上》』(2019年刊)によると、戦前からソース焼きそばを提供している店で現在も現役の店は、大釜本店を含め 3店舗のみ。いずれも浅草周辺に集中しているそうです。

 その一つが、現存する店では東京最古のお好み焼き店、創業1937(昭和12)年の「染太郎」。最寄り駅は浅草駅から徒歩約6分の田原町駅です。

染太郎(画像:近代食文化研究会)

 もう一つが、創業1903(明治36)年の浅草千束町「デンキヤホール」です。

デンキヤホール(画像:近代食文化研究会)

大釜本店で日本最古のソース焼きそばを堪能

 それでは大釜本店のソース焼きそばを食べてみましょう。玉子入り、豚バラ、目玉焼きなど様々なオプションがありますが、最もシンプルな「焼きそば」を注文してみます。

大釜本店の「焼きそば」(画像:近代食文化研究会)

 具はキャベツともやしのみ。トッピングは青のりと、卓上の容器にある紅生姜(しょうが)。

 一見家庭で作るソース焼きそばと同じように見えますが、口にしてみるとこれが全く違います。

 まず麺のコシと香りが違います。ソース焼きそばに使う麺は、近くの製麺所に依頼した特製の専用麺を使用しているそうです。

 大釜本店ではラーメンも提供していますが、ラーメンの麺は浅草開化楼製造。ラーメンとソース焼きそば、それぞれに適した麺を使い分けている、こだわりの店なのです。

 そしてソース焼きそば全体にコクを与えているのが、そこに混ぜ込まれている、ごま油の香り高い揚げ玉(東京では天かすのことを揚げ玉といいます)。

 この揚げ玉、市販されている普通の揚げ玉とは異なります。老舗天ぷら店の揚げ玉を、大釜本店だけが特別にゆずり受けているのだそうです。

老舗天ぷら店の揚げ玉(画像:近代食文化研究会)

 アナゴを始めとした新鮮な魚介類のうま味と、香ばしいごま油をたっぷり含んだ揚げ玉が、他店にはまねできない大釜本店の焼きそばの味を演出しているのです。

甘味処でもある大釜本店とデンキヤホール

 店内に貼られたメニューには、焼きそばやラーメンの他に、アイスクリーム、かき氷、あんみつ、ところてんなどの、東京の古典的な甘味も並んでいます。

 女将である青山久子さんによると、かつての大釜本店は自家製アイスクリームが有名な甘味処でした。ソース焼きそば・ラーメンの専門店というわけではないそうです。

 浅草ソース焼きそば三大老舗の一つである「デンキヤホール」も、甘味処として創業した店。オムレツでソース焼きそばを包んだ名物「オムマキ」は、大正時代に追加されたメニューなのだそうです。

デンキヤホールのオムマキ(画像:近代食文化研究会)

 喫茶店のような店の作りになっているデンキヤホールですが、現在でもゆであずき、みつ豆、アイスクリームなどの甘味を提供しています。

 東京の老舗甘味処には、大釜本店やデンキヤホールのように、ラーメンやソース焼きそばを置く店がしばしば見受けられます。これは、大正時代から昭和初めごろから続く、東京の伝統なのです。

なぜ甘味処でソース焼きそばやラーメンを提供するのか

 「昭和ヒトケタの頃には “甘辛ホール”というのがあって、そこではしるこ、シナそば(著者注:ラーメンのこと)が看板だったんですよ」

 東京の製麺所に勤めていた永野英明さんの証言です(小菅桂子『にっぽんラーメン物語』駸々堂出版1987年刊)。永野さんによると、大釜本店のような甘味とラーメンを出す「甘辛ホール」という店が、昭和初期の東京のあちこちにあったそうです。

 永野さんは「なんとか販路を広げたいと 甘味屋でラーメンを売ったらと思いつき」、営業をかけて回っていました。つまり中華麺が製造過剰になっていたために、製麺所が甘味処に拡販していたのです。その結果、ソース焼きそばやラーメンを出す甘味処が増えていったというわけです。

 浅草は、日本でも最初期に中華麺の製麺所が立ち上がった場所です。浅草の老舗製麺所・来集軒は、明治時代の創業。中華麺製麺が盛んであったために、浅草周辺の甘味処、大釜本店やデンキヤホールもソース焼きそばを出すようになったと思われます。

 それでは、もう一つの浅草ソース焼きそば三大老舗、お好み焼きの「染太郎」はなぜ焼きそばを提供しているのでしょうか?

 そしてそもそも、中華麺にイギリスにルーツがあるウスターソースをかけて炒めるという、ソース焼きそばはいつ、なぜ生まれたのでしょうか? 

「100年の歴史をもつ日本最古のソース焼きそばを浅草「染太郎」で味わう【後編】」に続く(3月27日公開予定)

参考文献:
『お好み焼きの戦前史』

大釜本店
所在地:東京都台東区清川1-29-5
TEL:03-3872-0103
営業時間:11:30~18:00
定休日:木曜
アクセス:JR・つくばエクスプレス・東京メトロ日比谷線 南千住駅

デンキヤホール
所在地:東京都台東区浅草4-20-3
TEL:03-3875-2987
営業時間:11:30~20:00(L.O.19:30)
定休日:水曜
アクセス:つくばエクスプレス 浅草駅より徒歩約10分

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