人口1400万人突破で「ひとり勝ち」状態の東京 一方、消滅可能性都市と呼ばれた豊島区は今
人口が1400万人を突破し、過去最高になることが発表された東京都。とはいえ当然、東京都の中にも人口減少が進んでいる自治体はあります。2014年、「消滅可能性都市」と名指しされた豊島区はその後、どのような施策を展開しているのでしょうか。フリーランスライターの小川裕夫さんがレポートします。なぜ豊島区が「消滅可能性都市」だったのか 日本全体の総人口は、2008(平成20)年をピークに減少へと転じました。 以降、少子化は加速して人口が増加へと転じる兆しはありません。このまま少子化が進めば、2053年に日本の総人口は1億人を割ることが予測されています。 特に人口減少が顕著なのは、地方都市です。平成の30年間に経済が停滞したこともあり、地方都市では主要産業が次々と消えました。 産業が沈滞すれば、雇用は失われます。雇用がなければ、将来のある若者は都心へ出るしかありません。 こうして過疎化・高齢化が深刻化しました。そうした地方の若者たちを受け入れていったのが東京です。それが、いまだ東京都の人口が増えている要因です。 そして、このほど東京都の人口が1400万人を突破し、過去最高になることが発表されました。これは、明らかに東京一極集中の状態です。 ただし、ひと口に東京一極集中と言っても、自治体単位で子細に見ていくと、異なった事情が浮き彫りになります。 2014年、増田寛也元総務大臣を座長とする日本創成会議が「消滅可能性都市」を発表しました。 池袋駅を擁する豊島区が「消滅可能性都市」という報道は2014年当時、衝撃をもって受け止められた(画像:写真AC) 日本創成会議は「2010~2040年にかけて、20~39歳の女性の数が5割以下に少する自治体」を「消滅可能性都市」と定義し、日本全国の896の自治体がそれに当たると試算しました。 日本創成会議がリストアップした896の自治体の多くは、これまでにも繰り返し人口減少・少子高齢化が叫ばれていた地方都市でした。 しかし、驚くことに日本創成会議が列挙した自治体には、東京都豊島区も含まれていたのです。 おばあちゃんの原宿と名門大学が同居する街おばあちゃんの原宿と名門大学が同居する街 東京都豊島区は東京の中心部に位置し、30万人近い人口を擁します。区内にはJR・東京メトロ・東武・西武が乗り入れる鉄道の要となる池袋駅もあり、同駅やその周辺は多くの人が行き交う街で、全国的にもよく知られた東京を代表する繁華街のひとつです。 また区内には多くの企業が本社や支店を構えるほか、個人商店が軒を連ねる商店街もあり、平日・週末を問わずに賑わいます。 「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨地蔵通り商店街も同じ豊島区内。新型コロナウイルス禍でもその賑わいが報道されたほど、普段から買い物客であふれています。 巣鴨で最も有名な「巣鴨地蔵通り商店街」ももちろん豊島区内であり、そのためか高齢者のイメージも強くあるかもしれません。 巣鴨地蔵通り商店街は、お年寄りはもちろん若者にも人気のスポット(画像:写真AC) その一方で、私立の名門と呼ばれる立教大学(豊島区西池袋)や学習院大学(同区目白)をはじめ多数の大学・短大・専門学校がキャンパスを構えているのも豊島区。 そのため、豊島区内で多くの若者を見かけることができます。 そんな活気にあふれる豊島区が「消滅可能性都市」と名指しされたのです。区職員や区民、同区に通勤・通学するビジネスマンや学生たちは、日本創成会議の発表が納得できなかったことでしょう。 名指しされたことに対して、豊島区は日本創成会議に難色を示しました。 しかし、豊島区はすぐに方針転換。「消滅可能性都市」の払しょくに努める取り組みを始めます。それが「女性にやさしいまちづくり担当課」を新設したことです。 日本創成会議が消滅可能性都市をシミュレーションする際、最も重視したのが、20歳から39歳までの女性です。この年齢の女性は、いわゆる出産適齢期にあたります。 当たり前の話ですが、子どもを出産できるのは女性だけ。つまり、将来の人口は適齢期の女性の人口でおおよその予測がつけられるのです。 「消滅可能性都市」を回避するべく、豊島区は若い女性が住みたくなる街、子どもを産みたくなる街、子どもを育てたくなる街に力点を置きました。 そのために、行政に女性目線を盛り込もうとし、女性目線によるまちづくりを目指したのです。その第一歩が、その名もずばり「女性にやさしいまちづくり担当課」の新設だったわけです。 課長ポストの民間起用と、トイレの徹底改修課長ポストの民間起用と、トイレの徹底改修 新設された女性にやさしいまちづくり担当課の課長は、庁内から起用するのではなく、民間から採用しました。新しい発想・視点を取り入れることで、区の行政刷新を図ったのです。 同担当課が、最初に着手した施策はコミュニティづくりでした。もっと平たく表現すると、人が集まれる場づくりです。 人が集まれる場づくりで、真っ先に進められたのが公園の改修でした。豊島区一の繁華街である池袋駅の近隣には、いくつか公園があります。それらの公園を女性や子連れのママが安心して利用できるようにしたのです。 公園の改修で、特に気を使ったのがトイレです。公園にある公衆トイレは、非衛生的で老朽化しているイメージが根強くあります。また、防犯的な面から利用を控えがちな女性もいました。こうしたイメージにより、公園から足が遠のいている区民が多いと判断したのです。 人が集まれる場づくりの第1弾として改修された南池袋公園(豊島区南池袋)は、広大な芝生広場が整備されました。こうした取り組みにより、豊島区民の間で憩いの場として積極的に活用されるようになりました。 南池袋公園は2016年にリニューアルされて開放的な空間に生まれ変わり、人気スポットに(画像:小川裕夫) また、評判を聞きつけた人たちが遠方から押し寄せるようになり、ちょっとしたレジャースポットとして注目されています。 そして、もうひとつ豊島区が力を入れているのが、ワンルームマンションの規制です。豊島区は2004(平成16)年から、単身者向けのワンルームマンションに課税する「狭小住戸集合住宅税(通称:ワンルームマンション税)」を制定しています。 ワンルームマンションは、学生や社会人になりたての若者に住んでもらいやすいというメリットがあります。 先述したように、豊島区内には大学が多く立地し、企業のオフィスなどもたくさんあります。そのため、豊島区内のデベロッパーや地主さんが家賃収入を効率的に得られるワンルームマンションを建てる傾向が強かったのです。 ワンルームマンションが多くなり過ぎると、子育て世帯用の住居が相対的に減少します。つまり、豊島区に多くの若者が居住しても結婚・出産を機に区外へと転居してしまうのです。 これを放置していれば、豊島区の高齢化率が上昇します。長期的な視点に経てば、それは豊島区の人口減少にもつながる話です。 1Rマンションの規制で子育て世代を呼び込み1Rマンションの規制で子育て世代を呼び込み こうした考えから、豊島区は1戸あたり29平方メートル未満の部屋をワンルームと定義し、9戸以上のワンルームがある集合住宅を課税対象にしました。 そして、建設時に1戸につき50万円を納税することにしたのです。 社会状況に応じて住宅事情にも変化があるため、豊島区はワンルームマンション税を5年ごとに見直しています。2010年には、ワンルームマンション税の対象物件が1戸あたり30平方メートル未満へと変更されています。 「消滅可能性都市」と名指しされた際、豊島区には大きな衝撃が広がりました。負のイメージもつきましたが、豊島区はそれをバネにして人の集まれる場づくりやワンルームマンション税といった施策を進めました。 その施策が奏功し、豊島区は順調に人口を増やしています。 人口を増やしている豊島区。休日の池袋は多くの若者で賑わう(画像:写真AC) 人口が1400万人を突破し、ますます東京一極集中が加速しているといわれます。しかし、それは東京都全体の話に過ぎません。 とりわけ人口が集中している東京23区にも、消滅可能性都市から脱却するべく人口増加の施策に取り組む豊島区のような自治体もあります。 「三多摩」と呼ばれる30市町村や、伊豆諸島・小笠原諸島といった離島もあります。 それぞれの自治体は常に悩ましい課題を抱えています。その課題の中には、高齢化や人口減少、地域活性化が急務になっているケースも少なくありません。
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