生活臭ただよう荷物の詰まった「トランクルーム」が品川に突如出現 いったい何?

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生活臭ただよう荷物の詰まった「トランクルーム」が品川に突如出現 いったい何?

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トランクルームに詰め込まれた大量の荷物。これは、「東京という都市の姿」を表現するインスタレーション作品です。一体どのような意味が込められているのでしょう。品川区で開かれている企画展「模型都市東京」の会場で、制作者である東京芸術大学教授の高山明さんにお話を聞きました。

無機質なトランクルームに、大量の荷物

 照明の落とされた薄暗い室内に並ぶ、12のトランクルーム。

 前面を覆う金網越しにそれぞれの内部をのぞき込むと、そこにあるのは衣類や靴、バッグ、フィギュア人形、縫いぐるみ、ノート、古い書籍、DVD、写真立て、ギター、本棚、キャリーケース、マットレス、自転車、椅子、机、その他。誰かがこの中に収めた、所有物の数々。

 大量の物が雑然と詰め込まれたトランクルームがあると思えば、すぐ右隣は空っぽのがらんどう。またその隣は品のいいワンピースと女性用のジャケットが壁につるされていて、床には積み重ねられた段ボールの箱。

あるトランクルームに詰め込まれた大量のおもちゃ。これは一体?(2020年2月18日、遠藤綾乃撮影)



 誰のものとも分からない大量の荷物をただ眺めていると、12の小部屋それぞれが一斉に自分の個性を主張し始めるような、そして次の瞬間には口を閉ざして匿名性のなかにシンと黙り込んでしまうような、不思議な感覚に陥ります。

 そうこうするうち、自然と疑問が浮かんできます。「このトランクルームのあるじたちは、一体どんな人物なのだろう?」「これらの物を使って、どんな生活をしているのだろう?」

荷物の持ち主は、13人の男女

 ここは、品川区東品川にある「建築倉庫ミュージアム」の展示室B。2020年5月31日(日)まで開かれている企画展「模型都市東京」の会場です。

 展示室内に並ぶ12のトランクルームは、高さ220㎝、横幅145㎝、奥行き195㎝の実物大。「101」から「112」までの番号が振られていて、会期中、20代前半から70代の男女12組13人が実際に自分の荷物を出し入れしているのだといいます。

企画展「模型都市東京」の展示の様子(2020年2月18日、遠藤綾乃撮影)



 展示の企画・構成を担当したのは、東京芸術大学の教授で演出家の高山明さん。

 2002(平成14)年に創作・演劇ユニット「Port B(ポルト・ビー)」を結成して以来、インスタレーションと呼ばれる、オブジェや装置を用いた体感型の作品展示を通して、「東京という都市」や「そこに集まる人々」、「現代を生きる彼ら(ひいては鑑賞者である私たち)」の価値観といったものを表現してきました。

 今回の展示が暗喩(あんゆ)する東京の都市像とは、そして荷物の持ち主たちとは一体どのようなものなのか。ヒントは「模型」というキーワードにあるようです。

「東京的なるモノ」としてのトランクルーム

「『模型』とは『オリジナル』を模倣(もほう)したもの、また規格にのっとって作られた同じ形をしたものの集合を指します。東京は、俯瞰(ふかん)的な視点で眺めるとまるで模型の集積のような都市です。何せコンビニやファミレス、ネットカフェ、コインランドリー、そういったものが無数に立ち並んでいますから。とりわけトランクルームは、容積的にも形状的にも、都市における『最もミニマムな模型』と言えるのではないでしょうか」(高山さん)

企画展「模型都市東京」の展示の様子(2020年2月18日、遠藤綾乃撮影)



 確かに東京は、全く同じ外観のコンビニやファミレス、似たような雑居ビルが所狭しと建っていて、上空から見下ろしたら密度ばかりが高いジオラマのような街。

 その「模型」のなかでもトランクルームは、使わない荷物を入れておくスペースという性質上、装飾も個性もありません。オリジナリティーの持ちようがないという意味で、「模型的なるモノ」つまり「東京的なるモノ」の最たる例かもしれません。

「しかしながら当然、その中に入れる荷物も使い方も、利用者によってまるで違います。今回の展示でも、雑然と物が積み上げられた部屋がある一方で無機質なほどに物の少ない部屋がある、その雑多さに驚かれるかと思います。展示を順々に眺めていくうちに、利用者それぞれのライフスタイルやこれまでの半生、人生が少しずつ立ち現れて見えてくるはず。そしてさらには、彼らや私たちのような個々人の集合体こそが『都市の姿』であるということに思い至るのではないかと思います」(高山さん)

「あなたは今、どこにいますか?」

 高山さんによると、トランクルームを利用する13人の多くには共通点があるといいます。それは、「『定住』というスタイルに違和感を持ち、ゆえに移動を繰り返しながら生活をしている」という価値観と暮らし方。

 例えば、東京都内のシェハウスを転々と住み替えている女性、半畳足らずの小さな自作の小屋を生活拠点にしている建築家の男性、世界のさまざまな国を渡り歩く紀行作家、料理配送サービス「ウーバーイーツ」の配達員をしながらいろいろな土地へ移り住んでいく男性。

 一見ばらばらなトランクルームが、次第に奇妙な共通性を持っているように見えてくるのは、そのためなのかもしれません。

展示の企画・構成を担当した高山さん(2020年2月18日、遠藤綾乃撮影)



 各トランクルームの前にはヘッドホンが備え付けられていて、利用者それぞれの人物像を知る手掛かりとなる「インタビュー音声」を聞くことができます。

「今どこにいますか?」という質問とそれに連なる一問一答のインタビューは、対面式ではなく電話越しに行われたのだそう。「今どこにいますか?」という問い掛けとノイズの交じる音声は、その人物が「ここではないどこか」にいること、今まさにどこかを移動しているのだという印象をますます強いものにしています。

東京のオリジナリティー、その正体

 さて、今回の展示から見えてくるのは、「模型的なるもの」に埋め尽くされているはずの東京からにじみ出る「オリジナリティーの正体」です。

 街のオリジナリティーを形作るのは、入れ物(すなわち模型)としてのインフラではなく、そこに集い、自分の生活様式に合わせてその街を使い込んでいく人々であるということ。

 生活の工夫によって、あるいは生活の必要に迫られて、想定とは異なるインフラの使い方をすることで規格・規範からはみ出していく人々が、結果として街にオリジナリティーを与えているのだということです。

やがて「社会常識」もはみ出していく

 そして最後に、なぜ今回の展示のトランクルーム利用者たちは「移動し続ける人」たちだったのか。

「家を買って定住する、とか、結婚して子どもを持つ。そういった従来の『社会規範』に違和感を持つ人が、少しずつ増えてきているように思います。これまで社会で共有されてきた価値観が少しずつ現代に合わなくなってきている、彼ら13人の生き方は、そうした潮流の変化を表しているように感じています」(高山さん)

企画展「模型都市東京」の展示の様子(2020年2月18日、遠藤綾乃撮影)



「模型都市東京」は火曜から日曜の11時~19時開館(月曜休館、祝日の場合は翌火曜休館)。一般3100円、学生2000円、高校生以下1000円。入場時に配布されるチケットと身分証を提示すれば、会期中は何度でも再入場が可能です。

 利用者たちは常時トランクルームの荷物を出し入れしているため、荷物の量や置き位置は常に少しずつ変わっているそう。2度、3度と足を運んだ時に、前回見たときとは違う様子を発見できるかもしれません。

※ ※ ※

 2020年2月28日(金)時点の最新情報によると、建築倉庫ミュージアムは新型コロナウイルス感染拡大の防止のため、2月29日(土)~3月16日(月)まで臨時休館することを決定。また、状況により休館延長も検討するとのことです。

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