彼女たちはなぜタピオカに並ぶのか? 「盛り」から紐解く女の子の謎

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彼女たちはなぜタピオカに並ぶのか? 「盛り」から紐解く女の子の謎

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久保友香

メディア環境学博士

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近年、大ブームのタピオカミルクティー。店舗に長蛇の列をなす光景はもはや日常です。そんなタピオカミルクティーに女の子たちはなぜ並ぶのでしょうか。メディア環境学博士の久保友香さんが「盛り」の観点から解説します。

女の子たちの謎行動を紐解く鍵

 今、どこの街でも、タピオカミルクティー店に並ぶ女の子たちの行列を見かけます。私は正直言って、タピオカミルクティーをそれほどおいしいと思いません。とくに、東京は江戸時代から営業する老舗和菓子店からフランスの有名パティスリ―の支店まで、これだけおいしいお菓子があふれているのに、なぜ彼女たちはタピオカミルクティー店ばかりに集中しているのでしょうか。

女の子たちに大人気のタピオカミルクティー(画像:写真AC)



 最近では男性誌やインターネット上で、「タピオカミルクティーのカロリーは、実はハイカロリーで有名な某ラーメン店のラーメンのカロリーより高い」とか、「タピオカミルクティー店を経営しているのは、実はブラックな企業が多い」など、批判的な記事も増えています。そのため、女の子たちの行動を不可解に思っている大人は、どうやら私だけではなさそうです。

 日本の女の子たちはこのように、大人たちには不可解な行動をとることがあります。それらの謎行動を紐解く時、キーになるのが、「盛り」という概念です。私は2019年4月、『「盛り」の誕生―女の子とテクノロジが生んだ日本の美意識―』(太田出版)という、日本の女の子たちの「盛り」という行動が、なぜ誕生し、どう発展していったかを解説した本を上梓しました。読者の反応からわかったのは、女の子たちにとって「盛り」は当然である一方、男性や大人は、彼女たちの「盛り」の目的をまったく理解していなかったことです。

 例えば、1990年代半ば、東京の渋谷の女の子を中心に、日焼けサロンで“黒肌”に、髪を脱色して“茶髪”やさらには“金髪”にすることが盛んになりました。また2000年代半ばには、プリクラ写真の上で目を大きくする“デカ目”加工することがさかんになりました。彼女たちはなぜそのようなビジュアルをしたのだと思いますか? その目的が決して「美人」になることでないことは、皆さまもおわかりだと思います。

女の子たちはなぜ「盛る」のか?

 女の子たちの「盛り」の目的を解説するため、一度、1990年代半ばまで歴史を遡ります。私はその頃、東京の千代田区にある私立の女子校に通う高校生でした。高校2年生の頃、私の同級生の中にも、肌を少し黒く、髪を少し茶色くする女の子が現れました。

 それは後に男性誌で「コギャル」などと呼ばれ、大人から批判されるスタイルに近いもの。当時、全国的に売れている女の子向けファッション誌に載っている流行とは違っていました。彼女はなぜ黒肌や茶髪にしたのでしょうか。後で聞くと「渋谷の女の子たちがやっていたから」と応えました。

ポケベル全盛期、公衆電話には長蛇の列ができた(画像:写真AC)



 その頃ちょうど一般の高校生の間に“ポケベル”が普及し始めていました。それまで、学校の枠を超えた仲間を作りたい子は、朝から学校をさぼってたまり場に通い、「不良」とみなされるようなこともありました。しかしポケベルの登場により、昼間は学校にいながらポケベルでつながり、放課後に街で集まればよくなり、東京の各街に、学校の枠を超えた高校生たちのコミュニティが生まれました。その中の、渋谷を拠点とする高校生コミュニティの女の子たちが、黒肌で茶髪にしていました。

 そのコミュニティに早くから属していた別の友人によると、黒肌に茶髪がベースですが、手首に巻くミサンガや、ルーズソックスの長さやたるみなど、細部の流行は常に変化していて、「その瞬間のイケてるビジュアルをしているかどうかで、仲間かどうかを見分けていた」ということでした。

 学校を共有しない高校生たちは、そのイケてるビジュアルを共有することで、コミュニティを形成していました。私の同級生の女の子は、その渋谷を拠点とする高校生コミュニティに属したいために、まずベースとして黒肌や茶髪にしていたのです。

 コミュニティ内のみで共有するイケてるビジュアルが、全国的なファッション誌に載っている流行と異なるのは当然です。また黒肌に茶髪という大人に嫌われるビジュアルをしたことで、大人は彼女たちをひと塊に「コギャル」など批判することはあっても、細部に干渉しづらくなりました。女の子たちは細部の流行を次々と変化させて楽しみ、むしろ大人が批判するほど、彼女たちの結束力は高まっていきました。

 実はこの時点でまだ、「盛り」という概念は生まれていませんでした。その後、“プリクラ”が登場し、プリクラのシールを交換したり、シールを張った「プリ帳」を見せ合ったりすることで、渋谷の“リアル”な高校生コミュニティは、プリクラ写真を通じて“バーチャル”にも繋がるようになりました。

 黒肌、茶髪をベースとするイケてるビジュアルは、校則の厳しい学校に通う女の子はリアルにはできませんでした。しかしプリクラ写真の上でバーチャルにイケてるビジュアルになることを目指し、ストロボの光や化粧を駆使する子たちが現れ、その行動が「盛り」と呼ばれようになりました。つまり「盛り」の目的は、女の子たちが学校の枠を超えてつながり合うための、バーチャルなビジュアルコミュニケーションだったです。

世界へ広がる「盛り」コミュニケーション

 その後、女の子たちのバーチャルなコミュニケーションは広がります。“ガラケー”が普及し、ガラケーでアクセスするインターネットサービスが増え、2000年代半ば頃からは「デコログ」のような女の子向けの“ブログ”サービスの利用が増えます。そこで女の子たちは、ガラケーカメラで自撮りした顔写真で、アイメイクの情報交換をさかんに行うようになり、デカ目の「盛り」を共有する、女の子たちだけの全国規模のコミュニティが生まれました。

かつて普及したガラケー(画像:写真AC)



 なぜ目に注目が集まったのでしょうか。それはガラケーの小さなカメラで捉えるのに、「目のような小さな対象が最適だった」ことがあります。また同じ頃、インターネット通販が普及し、全国どこでも同じようにつけまつげやカラコンなどのデカ目になるための道具が手に入るようになったこともあります。

 そして今 “スマホ”が普及し、写真に特化した“SNS”のインスタグラムが普及しました。そこではスマホの高性能のカメラを使って、顔などだけでなくシーン全体を撮影した写真を見せ合うことが盛んです。

 写真に映える場所(インスタ映えスポット)へ行ったり、写真に映える物(インスタ映えアイテム)を持って撮影したりなど、シーンの「盛り」を共有するコミュニティが生まれ、それは国境を超えるようになっています。

 タピオカミルクティーは、まさにシーンの「盛り」の重要アイテムです。台湾が発祥と言われていますが、今では、日本や韓国、中国など、どこでも手に入ります。女の子たちはインスタグラムでタピオカミルクティーの写真を投稿する時、日本語の「#タピオカ」のみならず、中国語や韓国語、英語など各国語でタピオカミルクティーを表すハッシュタグを添え、国境を超えてバーチャルなコミュニケーションを行っています。

 そしてそれは、かつて渋谷で黒肌、茶髪にしていた「コギャル」同様、大人から嫌われるくらいが好都合。大人たちが批判するほど、彼女たちの結束は強まっていていると考えられます。

 かつて学校の枠を超えた仲間を作りたい若者は、学校をさぼってたまり場に通わなくてはならず、「不良」とみなされたりしましたが、今ではタピオカミルクティーを手に持って写真を撮れば、“学校”どころか“国”の枠も越えて、仲間を作れようになっているのです。

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