シェルガーデン「ザ・ガーデン自由が丘」の自由が丘本店が閉店――「シェル」とは実は〇〇のことだった!

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シェルガーデン「ザ・ガーデン自由が丘」の自由が丘本店が閉店――「シェル」とは実は〇〇のことだった!

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若杉優貴

都市商業研究所

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目黒区自由が丘・目黒通り沿いにある老舗高品質スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」の創業店が、2月25日(日)をもって閉店します。今回はザ・ガーデンの創業の秘密とその歴史について、都市商業研究所の若杉優貴さんが解説します。

閉店する自由が丘の老舗スーパー「ザ・ガーデン」、なぜ本店があの場所に?

目黒区自由が丘の目黒通り沿いにある、シェルガーデン(本社:千代田区)が運営する老舗高品質スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」の創業店・本店「ザ・ガーデン自由が丘 自由が丘店」が、今年(2024年)2月25日の営業をもって閉店することを発表しました。

 都内の高品質スーパーの創業店・本店といえば、ライバルともいえる「成城石井」の成城石井成城店(世田谷区)、そして「紀ノ国屋」の紀ノ国屋インターナショナル青山店(港区)がともに駅チカであるのに対し、シェルガーデンの「ザ・ガーデン自由が丘」は自由が丘といえども駅や商店街から少し離れたロードサイドにあることを特徴とします。

 なぜこの場所が1号店となったのでしょうか。今回は、ザ・ガーデンの創業の秘密とその歴史を追います。

半世紀以上の歴史を持つシェルガーデンの老舗高品質スーパー「ザ・ガーデン自由が丘 自由が丘店」。トンガリ屋根と食品オブジェで彩られた特徴的な外観も間もなく見納めに。(写真:若杉優貴)



「シェルガーデン」の「シェル」とは〇〇のこと!

 ザ・ガーデン自由が丘自由が丘店は1966年12月に「シェルガーデン」1号店として開店。当初のシェルガーデンは江戸時代に創業した老舗油卸売「島商」(本社:中央区日本橋)と、同じく江戸時代に創業した老舗食品卸売「国分」(現:国分グループ、本社:中央区日本橋)、そしてガソリンスタンドを運営する英国の「ロイヤル・ダッチ・シェル」グループ(現:シェル)の3社による合弁で、「シェル石油のガソリンスタンドに併設する輸入食品販売店」としてスタートしたものでした。

 「スーパーの社名がどうして貝(シェル)?」と思っていた人も多いかもしれませんが、実はこの「シェル」とはガソリンスタンドの「シェル石油」(日本法人は2019年に出光興産と経営統合・商号消滅)のことだったのです。

シェルガーデンの「シェル」とは「シェル石油」のことだった! 国内から2019年に消えた黄色い看板。懐かしく思う人もいるのでは。(長崎市、撮影:若杉優貴)

 シェルガーデン1号店(現在のザ・ガーデン自由が丘自由が丘店)が出店した場所は、目黒駅方面から等々力方面へと抜ける幹線道路である目黒通り(都道312号線)と、自由が丘駅近くから伸びる学園通りの交差点。2面が道路に面しており、自動車であれば目黒駅方面からも、そして自由が丘駅方面からも比較的アクセスしやすい立地です。

2面が道路に面するザ・ガーデン自由が丘自由が丘店。「もともとガソリンスタンド併設だった」と言われるとその立地にも納得。(写真:若杉優貴)

 シェルガーデンが創業した1960年代当時の目黒通りは、東京オリンピック(1964年)に伴う街路整備が進められた直後。さらに数年後には等々力大橋の完成も見込まれており、目黒区・世田谷区と川崎市中原区・新横浜方面を結ぶ大動脈となることが期待されていました(等々力大橋は完成が遅れており、2030年代開通をめざして現在も工事中)。

 シェルガーデンが1960年代に創業した高品質スーパーでありながら、1号店が駅チカや商店街ではなく「幹線道路沿い」、かつこの目黒通り沿いとなったのには、こういった理由があったといえます。

百貨店系スーパーを経てセブン&アイのスーパーへ

 現在ほど自動車普及率が高くなかった時代、当時珍しかった「輸入食材をロードサイドで販売する」という業態で話題を集めたシェルガーデン。1983年に西友が出資するかたちで「西武セゾングループ」の傘下になると、白金台などに出店していたセゾングループの高品質スーパー「ハウディ西武」との統合を経て店舗網を大きく拡大、さらに全国各地の西武百貨店内(デパ地下)への出店も行われるようになりました。また、本店である自由が丘店もガソリンスタンド併設ではない単独店舗(現在の建物)へと建て替えられました。

 1995年には西武百貨店(現在の「そごう・西武」)が株式の約6割を取得するとともに、店名をシェルガーデンから創業地である「自由が丘」を冠した「ザ・ガーデン自由が丘」に変更。セゾングループ解体後も西武百貨店傘下の「百貨店系高品質スーパー」として営業を続けていました。

「ザ・ガーデン自由が丘」はそごう・西武のデパ地下食品売場としてもおなじみ。 なお、西武池袋本店からは2024年1月31日限りで撤退となりました。(写真:若杉優貴)

 その後、2006年にそごう・西武がイトーヨーカドーの親会社「セブン&アイ・ホールディングス」の傘下となると、セブン&アイのプライベートブランドの導入が行われるなど売場は大きく変化。さらに、セブン&アイのそごう・西武売却を前にした2020年4月にはセブン&アイ・ホールディングスの直接子会社へ移行(そごう・西武は株式の10%を継続保有)。近年はイトーヨーカドーなどセブン&アイ他店とのコラボ店舗も多く見られるようになっています。

2022年には「ザ・ガーデン」とイトーヨーカドーの食品スーパー「ヨークフーズ」のコラボ店舗1号店が誕生。(写真:藤井瑞起)

 経営主体の、そして時代の変化にともないザ・ガーデンの店舗の姿が変わりゆくなかでも、単独店舗として営業を続けてきたザ・ガーデン自由が丘自由が丘店。セブン&アイ傘下となって以降は比較的お手頃な商品も増えた一方で、有機野菜コーナーや充実のワインコーナーなど、個性的な売場は維持されていました。

 その一方で、ザ・ガーデン自由が丘自由が丘店の店舗面積は約900平方メートル。現在のロードサイド型スーパーマーケットとしてはかなり狭く、さらに築約40年の建物は老朽化しており、「郊外立地の高品質スーパー」としては少し見劣りがするようになっていました。

 なお、ザ・ガーデン自由が丘自由が丘店のすぐ近くでは、今年春の開業をめざして「ライフ目黒八雲店」の建設が進められています。こちらは地上2階・地下1階建て、店舗面積は約1,600平方メートル。ザ・ガーデン自由が丘自由が丘店と比べると、かなり規模が大きいことが分かります。

「小型店」が増えるザ・ガーデン――自由が丘店は「最後の単独店舗」だったのに…

 近年、コロナ禍を経て「おうち時間」が重視されるなか、東京都内では高品質スーパーの新規出店やリニューアルが相次いでいます。

 たとえばザ・ガーデン自由が丘店と同じ「高品質スーパーの本店」の代表格といえる「成城石井成城店」は昨年11月に「温故知新」をテーマに全面リニューアルしたばかり。このほか、紀ノ国屋の本店「紀ノ国屋インターナショナル 青山店」も2021年1月に店内に野菜生産工場を設けたほか、同年4月には無人クリーニングサービスを開始するなど、次世代型の高品質スーパーをめざしたリニューアルを進めています。

 一方で、近年のザ・ガーデン自由が丘は、先述したようにセブン&アイグループ他店とのコラボ店舗が増加。昨年11月にはイトーヨーカドー木場店の、今年1月にはイトーヨーカドー大森店の食品売場の一角に高級食材・オーガニック商品等に特化した100平方メートルほどの「高品質食材コーナー」として出店するなど、自由が丘店のような単独店舗ではない、新たな業態の狭小店舗が目立つようになっています。こうした店舗の増加もあり、2024年現在では(他店とのコラボ店舗や駅ビル・百貨店内への出店ではない)ザ・ガーデン自由が丘の単独店舗は本店である自由が丘店のみとなっていました。

JR津田沼駅改札内にある「ザ・ガーデン自由が丘ペリエ津田沼店」。 近年のザ・ガーデンの店舗は、セブン&アイのコラボ店舗や駅ナカなどの狭小店が多くなっていました。(写真:若杉優貴)
2023年11月に開業したばかりの新店舗「ザ・ガーデン自由が丘木場店」。 スーパーではなくヨーカドーの一角に設けられた「1コーナー」といった雰囲気。(写真:ザ・ガーデン公式サイトより)

 都心エリアを中心に高品質スーパーがブームになるなかでの、ザ・ガーデンのアイデンティティーともいうべき最後の単独店「ザ・ガーデン自由が丘自由が丘店」の閉店は少し残念にも思えてしまいます。

 店舗跡の活用方法などは1月時点で発表されていません。目黒通り沿いの好立地だけに、今後の行方が気になるところです。

■シェルガーデン ザ・ガーデン自由が丘 自由が丘店
住所:東京都目黒区自由が丘2-23-1
営業時間:9:30~21:00(土日祝9:30~20:00)

参考
・シェルガーデン(公式ウェブサイト)
https://www.garden.co.jp/
・島商(公式ウェブサイト)
http://www.shimasho.co.jp/

※2024年2月6日情報修正

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