都内で増える社内運動会、政府も後押し 社員にも会社にもメリットがたくさん
近年、都内の企業による社内運動会が盛り上がりを見せています。いったいなぜでしょうか。取材をすると、その背景にはバブル崩壊以降に日本人が失った「何か」を取り戻そうとする動きがあるのが分かりました。スポーツ推進企業の認定制度が誕生 成人の「週1回以上のスポーツ実施率」が51.5%にとどまっていることを受けて、スポーツ庁では2017年、「スポーツエールカンパニー」の認定制度を設けました。 社員のスポーツ活動を促進する企業を「スポーツエールカンパニー」として認定することで、企業のスポーツ実施率と社会的評価を高めることが目的です。 運動会屋が実施した社内運動会の様子(画像:運動会屋) 対象となるスポーツ活動は、徒歩通勤からスタンディングミーティング、社内運動会まで多岐にわたります。 「社員が元気だと、業務の生産性向上にもつながります。特に社内運動会は、開催日に向けて社内の士気や機運が高まりやすいですね」(スポーツ庁健康スポーツ課) 再び重視される社員同士の「絆」、社員研修にも 社内運動会の企画運営を専門に手掛ける、「運動会屋」(横浜市)という会社もあります。同社代表の米司隆明さんによると、近年、東京都内の企業による社内運動会が増えているといいます。 運動会屋が国内外で開催した運動会の数。都内の企業も同様の推移を見せているという(画像:運動会屋のデータを基にULM編集部にて作成)運動会屋が2017年に社内運動会を手掛けた企業(画像:運動会屋のデータを基にULM編集部にて作成) その理由について米司さんは次のように話します。 「1990年代のバブル崩壊以降、日本型経営の年功序列は否定され、多くの企業が成果主義を導入しました。それに加えて、コンピューターを軸とした業務にシフトしたため、『周囲を蹴落としてでも自分が勝たなければ』と考える社員が増え、また、社員間のコミュニケーションが少なくても仕事ができるようになりました。 (社内運動会の増加は)そうした『ひずみ』に気づく企業が増えてきたからです。2011年に発生した東日本大震災で『絆』が見直されたことも関係しています」 運動会屋が実施した社内運動会の様子(画像:運動会屋) 同社が事業を始めた2007(平成19)年当時、企業の反応は一様に「社内運動会はすでに終わったもの」との認識でしたが、年月を重ねるにつれ、徐々に変化を見せていったといいます。近年では社内運動会に対する要求も、従来からの「楽しさ」重視に加えて、「一定の効果を期待するようになった」とのこと。 「M&A(合併・買収)や中途採用に積極的な企業、社員のダイバーシティー(多様性)推進を掲げる企業の増加がその背景にあります」(米司さん) 運動会屋が実施した社内運動会の様子(画像:運動会屋) 転職市場がこれまで以上に活性化し、さらに社員の「個性」が重要視されるなか、企業が「ソリューションのひとつとして」(米司さん)社内運動会を活用していることが分かります。 「平日に『研修』として行う企業も増えています。会社を業務を止めてまで実施するという姿勢に、現代の企業のあり方を見てとることができます」(米司さん)。 実施規模は平均300人程度で、少ない企業では30人から、全社イベントになると2万人が一堂に会することもあるそうです。 女性限定の競技に「思わぬ効果」も女性限定の競技に「思わぬ効果」も そんな社内運動会ですが、行われる競技は玉入れ、綱引き、大縄跳び、ムカデ競争、大玉送り、リレーなどが定番だといいます。加えて、各企業オリジナルの競技も人気とのこと。 リレー競争も社内運動会で定番の競技のひとつ(画像:グンゼ)「ある銀行の運動会では『お札数え競争』を、ゼネコン企業では『コンクリート固め競争』を行いました。外資系自動車部品メーカーでは入社式に運動会を行い、そこでは安全運転を意識させることを目的に、目隠しをした新入社員が玉転がしを行ったこともあります」(米司さん) そのほかにも、自社サービスのアイデアを競う「ハッカソン」を開催したり、経営者や役員とのコミュニケーションを図るために仮装をしたりと、形態も多様化しているようです。 グンゼの社内運動会における綱引き競技(画像:グンゼ) また、米司さんは社内運動会の運営を通して、あることに気づいたといいます。 「男女混合の競技は、どうしても女性が応援側にまわりがちなのですが、競技を女性限定にするととても盛り上がるんです。これまでおとなしく見ていた女性が、人が変わったように急に本気になったり、リーダーシップを発揮し出したりと。 あとで聞いてみると、学生時代に部活動のキャプテンだったという、意外な側面も見られることもしばしば。まさに『女性活躍推進』の時代にぴったりですよ(笑)」(米司さん) グンゼの社内運動会の集合写真(画像:グンゼ) 運動会の本質は一般的なスポーツの試合のように優秀な人が活躍するのではなく、参加者の誰もが主役になれること。「これは『戦い』ではなく、仲間と力を合わせて一緒に作り上げるものなんです」と米司さんは強調します。 SNSやスマートフォンの発達で間接的なコミュニケーションが広がった現在だからこそ、顔と顔と付き合わせる社内運動会が、さらなる盛り上がりを見せていくでしょう。
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