東京の安いビジネスホテルに「朝食」が付いていないワケ

  • 宿泊・ホテル
東京の安いビジネスホテルに「朝食」が付いていないワケ

\ この記事を書いた人 /

カベルナリア吉田のプロフィール画像

カベルナリア吉田

紀行ライター、ビジネスホテル朝食評論家

ライターページへ

出張や小旅行などでお世話になるビジネスホテル。朝食付きのプランがあったり、素泊まりがあったりとその選択肢はさまざまですが、その朝食メニューが意外と面白いといいます。紀行ライターで、ビジネスホテル朝食評論家のカベルナリア吉田さんに解説してもらいましょう。

ここ10年で進化したビジホ朝食

 こんにちは。ビジネスホテル朝食評論家のカベルナリア吉田です。というか本業は、ただの「紀行ライター」です。取材先で頻繁にビジネスホテル(以下「ビジホ」)に泊まり、とにかく朝食をガッツリ食べるので、それを記録するようになりました。

時にはこんな豪華なビジホ朝食にありつけることも(画像:カベルナリア吉田)



 ビジホ朝食に興味を持ち始めたのは2008(平成20)年ごろ、那覇にできたばかりの今や全国チェーンの「T」に泊まったのがきっかけでした。

 まずロビーで食べることにビックリ。そしてメニューはおにぎり、味噌汁、ゆで卵……以上! それまでホテルの朝食は、専用のレストランで食べる種類豊富なバイキングが普通だと思っていたので、驚きました。

 1泊6000円前後で朝食が含まれているのだから、不満を言ってはいけないと思いつつ、最初は抵抗がありました。狭いロビーで、正直言ってわびしい朝食目当てに並ぶ自分を、「僕も堕ちたもんだな」と思ったことも。

 でもその後は「T」を筆頭に全国にビジホが急増し、各ホテルとも競い合うように朝食の内容が良くなっていきました。「T」でもサラダやウインナーが出るようになって。すると抵抗もなくなり、ビジホ朝食の光景を「社会現象として面白い」と思うようになり、記録するようになりました。

 ある日ふと「東京のビジホの朝食は、どんな感じだろう?」と思いました。僕は東京在住で、わざわざ都内でビジホに泊まらないので、朝食事情も知らない。なので、朝食をとるためだけに都内のビジホに泊まってみたら――予想外の驚きが待っていました。

意外に寂しい?東京のビジホ朝メシ事情

 宿泊日を決め、ブッキングサイトで「安い順」でホテルを検索すると、星の数ほど物件情報が出てきました。だけど大半がゲストハウス! 外国人観光客向けでしょうが、東京の宿がこんなにゲストハウスだらけとは、東京に住んでいながら知りませんでした。

オカズがもうちょっとほしいかなー(画像:カベルナリア吉田)



 そして、東京には1泊6000円程度の朝食付きホテルがない! 素泊まりはあっても、朝食付きがないんです。やっと見つけた上野のホテルは、朝食はサービスではなく、別途1000円の和朝食。とにかく泊まり、朝食をいただいてみました。

 炊きたての東北のお米が絶品で、おいしかったです。ただし「急増するインバウンド(訪日外国人)に、日本の朝食を味わってもらおう」という狙いもあるようですが、朝食会場にいたのは日本の年配の出張サラリーマンばかり。

 ホテル目の前に全国チェーンのコーヒー店があり、モーニングセットが300円台。コンビニエンスストアとチェーンの牛丼屋も近く、手軽な朝食に事欠かない状況です。

 だからいくらご飯がおいしくても、1000円を出して食べる人は少数派。これではたぶんホテル側も、人と場所を手配して朝食を提供しても割に合わないでしょう。朝食付きビジホがなかなか見つからない理由が、わかった気がしました。

 オリンピックを控え、観光客の増加が予想される東京ですが、ビジホ朝食の現状はやや寂しいかも。コンビニや牛丼屋で朝食にありつけますが「おもてなし」という点から見ると、物足りない印象も受けましたね。

郷土色を出そうと頑張る地方都市のビジホ

 一方で地方に行くと、朝食に地元の名物を盛り込み、頑張るホテルが多いと感じます。

 玉子焼き、ウインナーなど定番オカズと並び、愛媛県ならジャコ天、岡山県ならママカリ、沖縄県ならチャンプルーが出るといった具合で。北海道では朝からイクラやホタテが出てきたり、新潟や東北はご飯がおいしいビジホが多いですね。

 名物とは別ですが、西日本はご飯のオカズにソース焼きそばが出るビジホが多くてビックリ。でも地元の人いわく「珍しいことじゃない」そうで、意外な食文化の違いに驚きつつ感心しました。

 無機質な印象が強いビジホ朝食ですが、郷土色や土地柄を随所に感じ、旅情が湧く場面は意外に多いと思います。最近も出張で広島のホテルに泊まったら、朝食のオカズに焼きそばが出てきて「西日本に来たんだなあ」としみじみ思いました。頭の中を一瞬、鬼束ちひろさんの『いい日旅立ち 西へ』が流れたことも、付け加えておきましょう。

ビジホ朝飯に「日本のいま」が見える

 ビジホ朝食のさまざまな場面に「日本の縮図がある」と感じます。例えば開始時の行列。7時開始なら6時50分ごろ、宿泊客のビジネスマンが会場に集まりだします。そして配膳台に料理が並び始めますが、誰も先頭に立って並ぼうとはしません。先頭に立つのはみっともない、はしたないと、たぶん誰もが思っているんですね。

洋食派ならトーストモーニング(画像:カベルナリア吉田)



 でも誰かがついに先頭に立つと、次の瞬間その後ろにダーッと大行列ができるんです。これは「目立ってヒンシュクを買いたくない、だけど流れに乗り遅れ損はしたくない」という、日本人特有の気質の表れじゃないでしょうか。

 最近はここに中国人ほかインバウンドの皆さんが乱入し、日本人が絶妙な間合いで作りだす暗黙のルールを、グチャグチャにかき乱します。行列無視、コンビニ総菜を持ち込み大声で大宴会!

 一方で「ベジタリアンミールを出せ!」と騒ぐ欧米人を見たことも。こんな場面に遭遇するたび、外国人受け入れでアタフタ混乱する「最近の日本」そのものだなと思ってしまいます。

 ほかにも、残飯を下膳棚(さげぜんだな)にブチまける団塊オヤジや、無表情でスマホに没頭しつつ食べる「感情を捨てた?」若者がいたり。老若男女を問わず「自分のペース」を最優先する人が増えた、現代日本社会の縮図がここにあるなとつくづく感じます。

 起き抜けで、寝ぼけまなこをこすりつつ向かうビジホ朝食会場では、一般のレストランよりも「素の自分」が出やすいのかもしれませんね。

 などいろいろ感じるビジホ朝飯ですが、とにかくどこに泊まっても、朝からガッツリ食べる人が多い。これはいいことです。朝食をしっかり食べられるのは、心身ともに健康な証拠。モリモリ食べる大勢の「同志」を見るたびに、日本の未来はけっこう明るいんじゃないかとも思います。
 
 今日、朝ご飯は食べましたか? 味気ないと思いがちなビジホ朝食も、見方を変えれば楽しくおいしくなります。今度ビジホに泊まる時、今までよりも朝食をじっくり味わっていただけたら、うれしいですね。

関連記事