いくつ覚えてる? 大ブームを駆け抜けた「東京スイーツ」の数々
過去さまざまなブームが出ては消えたスイーツ、今回はその歴史について、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。ブームのはしりはティラミス 近年の商業施設の開発を見ると、スイーツ売り場の位置づけが大きくなっていることがわかります。スイーツの人気は根強く、評判の高い店の前には長蛇の列ができることも珍しくありません。 過去にはその時代を代表するようなブームとなったスイーツが幾つも存在します。スイーツはさまざまな場所で提供され、価格も比較的手ごろなことがブームになりやすい一因と言えるでしょう。また、ブームの形成にはメディアの情報発信が欠かせませんがスイーツは特に女性の関心が高いため、取り上げられやすい傾向があります。 マスメディアが仕掛けたスイーツブームのはしりと言えるのがティラミスでしょう。バブル期の1990年代初期に、当時の「イタ飯ブーム」で急増したイタリアンレストランのデザートとして登場しました。 ティラミス(画像:中村圭) ティラミスはそれまでにはなかった大人っぽい雰囲気のスイーツで、女性情報誌などに大々的に取り上げられたことから一大ブームに拡大しました。 そのうちイタリアンレストランだけでなく、ファミリーレストランや喫茶店、菓子店などでもケーキ枠で提供されるようになり、コンビニスイーツなど食品メーカーの商品開発にも発展しました。ブームは沈静化しましたが、今も幅広い層が楽しめる定番スイーツのひとつとして定着しています。 多様化した消費者の食志向 ティラミスブームの盛り上がりの後、マスメディアや食品メーカーは次々にスイーツブームを仕掛けていきます。 ・ナタデココ ・パンナコッタ ・クレームブリュレ など、「ティラミスの次はこのスイーツが来る!」と、まだ日本で知られていない海外のスイーツが紹介されていきました。 現在はあまり見かけなくなったものもありますが、レストランのデザートやコンビニスイーツなどとして時折見かけるものもあります。この頃は空前のグルメブームで、わが国には次々に新しい食文化が導入され、消費者の食志向が一気に多様化していきました。 さらに、バブル崩壊後は低価格志向が社会全体にまん延し、かつてのように社会を席巻するようなスイーツブームはなかなか起こらなくなっていきました。 激甘アメリカンスイーツも大ヒット激甘アメリカンスイーツも大ヒット そんななか、1999(平成11)年に登場したのが「シナボン」です。 シナボンはシナモンロールの上にクリームチーズソースがどろどろに溶けてのっているあたたかいスイーツで、1個で2000kcal(成人男性の1日分の摂取目安カロリー)を超えるとうわさされた、激甘アメリカンスイーツです。当時はすでに食の健康が言われていたころで、スイーツもカロリーは控えめ、「甘すぎない」が褒め言葉となっていました。 そんな風潮をあざ笑うかのようにシナボンは爆発的な人気を呼び、連日店の前には買い求める人の列が延々とできました。この光景はテレビ局各社に報道され、一気にブームに火が付きます。 並んでいた人のなかには「怖いもの見たさ」的なネタ感覚の人もいたでしょう。この頃からブームになるようなスイーツには極端なインパクトのあるものが出てきます。とにかく、「シナボン」は大型商業施設にも次々に導入され、急速に店舗数を増やしていきました。 2010年ごろからブームが変化 シナボンの盛況はアメリカンスイーツの底力を知らしめ、新たなアメリカンスイーツが次々に上陸、商業施設にテナントとして導入されていきます。 とろける口あたりのドーナツ「クリスピー・クリーム・ドーナツ」、歌いながらアイスを混ぜることも話題となった「コールドストーンクリーマリー」、ハワイの揚げ菓子マラサダの専門店「レナーズ」「グッデイズ・マラサダ」など。 いずれもオープン当初は買い求める人の長蛇の列ができました。シナボンやこれらの店舗は店舗数を増やしていきましたが、やがてブームが去った後は多くが閉店し、シナボンは2009(平成21)年に日本を撤退しています。 2010年ごろからブームの様相が変化してきます。 2010年に原宿にオープンした「エッグスンシングス」(渋谷区神宮前)はパンケーキブームの先駆けとなった店舗です。パンケーキの上にうず高く盛られたクリームの見た目のインパクトが大きく、SNS上でその画像が拡散して話題となりました。 渋谷区神宮前にある「エッグスンシングス 原宿店」(画像:(C)Google) この頃、ブームのけん引役は雑誌やTVからSNSに変わっていきます。まだ「インスタ映え」という言葉がなかった時代ですが、情報拡散にはSNSに載せたくなるような見た目も重要になってきました。 また、パンケーキほどのブームにはなりませんでしたが、カップケーキもカラフルでかわいい見た目が評判になりました。人気海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」に登場した「マグノリアベーカリー」が2010年に原宿にオープンしています(2017年閉店)。 最近はタピオカティーのブームが記憶に新しいでしょう。台湾の人気スイーツで、1杯で角砂糖20個分と言われる甘いスイーツドリンクです。 2013年には本場のチェーン「春水堂」の1号店が原宿にオープン。次々に国内外の新しいブランドが出店、急速に店舗数が増加し、一時期はいたるところに見られました。ミニテーマパークのようなものまで期間限定であったほど。チーズフォームを乗せたり、抹茶を使用したりと、アレンジも人気でしたがブームは沈静化、コロナ禍もあって今は店舗数が減少しています。 都内には今も店舗が存在都内には今も店舗が存在 ブームはどれも同じかもしれませんが、このようなスイーツは特に大きいブームになりやすい反面、メディアの情報拡散が活発で消費者の情報消費も早く、ブームが沈静化すると客足が一気に遠のく傾向があります。 近年、スイーツブームはSNSのコミュニケーションツールとして機能し、ネタとして共有するために消費する傾向も高まっています。これは味わうというより、体験に近くなっているかもしれません。 ここで挙げたスイーツは極端なブームのものであり、もちろん緩やかに人気が継続しているスイーツもたくさんあります。また、ブームは去ったと言っても人気になるだけのことはあるスイーツであり、都内には今も店舗が存在しています。 シナボンは2012年に再上陸し、現在都心では六本木や二子玉川ライズS.C.(世田谷区玉川)などに出店しています。クリスピー・クリーム・ドーナツは池袋ショッピングパーク(豊島区南池袋)や東京ソラマチ(墨田区押上)などに出店、コールドストーンクリーマリーはルミネエスト新宿店(新宿区新宿)やららぽーとTOKYO-BAY(千葉県船橋市)などにあります。 新宿区新宿にあるルミネエスト新宿(画像:(C)Google) マラサダは「レナーズ」が横浜ワールドポーターズ店(神奈川県横浜市)が健在であり、その他にもハワイアンフードの専門店などで扱っています。エッグスンシングスは原宿店などが健在。ブームになったスイーツは「当時のはやりの音楽」のように懐かしく楽しめるものかもしれません。今なら並ばずに購入することが可能です。 皆さんも当時を懐かしんで改めて利用してみてはどうでしょうか。
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