会社員には手帳ブランドでおなじみ 日本初の経営コンサルが作った「産業能率大学」とはどのような大学なのか
ビジネス手帳で有名 9月に入って、2021年の手帳が書店や文具店の店頭に並び始めました。 手帳の種類はさまざまですが、競争の激しいビジネス手帳を1979(昭和54)年から制作・販売しているのが産業能率大学(世田谷区等々力)から派生した株式会社産業能率大学出版部です。手帳は「Sanno Diary(サンノー ダイアリー)」のブランドで広く全国に知られています。 産業能率大学は自由が丘キャンパス(同)に本部と経営学部を、代官山キャンパス(目黒区青葉台)に大学院を、そして湘南キャンパス(伊勢原市上粕屋)に情報マネジメント学部を置いています。 そんな産業能率大学ですが、日本のビジネスの世界ではエポックメーキングな立ち位置にある大学です。 ところで、いち大学にすぎない同大がなぜビジネス手帳を手掛けているのでしょうか。その背景には、経営学者だった創始者の熱き理念がありました。 創始者は日本に近代的な経営概念を導入 産業能率大学の起源は、1925(大正14)年に設立された日本産業能率研究所までさかのぼります。 創始者の上野陽一は東京帝国大学で心理学を学び、アメリカ式の経営や管理方法を大正期の日本に初めて導入。日本初のマネジメント・コンサルタントとなった人物として知られています。 産業能率大学の自由が丘キャンパス(画像:(C)Google) 若い世代に経営や仕事管理を学ばせることが必要と感じた上野は戦時中の1942(昭和17)年、財団法人日本能率学校を立ち上げました。 同校は経済や経営の流れや思想を学ぶ場として、現在のビジネススクールの先駆けともいえる存在でした。 戦後、日本にアメリカのマネジメント思想が一気に導入されていったことを考えると、連合国軍総司令部(GHQ)の統治下であったとはいえ、上野陽一の先見の明(めい)は間違いではなかったと言えるでしょう。 1950(昭和25)年に短期大学、そして1979(昭和54)年に現在につながる四年制大学として開校。今でも経営学やマネジメントに特化した大学を貫いています。 産業能率大学は一般的な知名度は高くはありませんが、他の教育機関とは違った斬新なシステムを導入しています。 下級生の授業で先輩がサポート下級生の授業で先輩がサポート アメリカの大学はチューター(個別指導講師)制度を取り入れていることが珍しくなく、上級生の学生が授業に携わり、教授と下級生のサポートをするシステムが整っています。 日本の大学の多くは、授業で教授陣と学生の間を取り持つ人間を配置していませんが、産業能率大学では上級生を後輩の授業に配置する制度「スチューデント・アシスタント」を導入しています。 産業能率大学の代官山キャンパス(画像:(C)Google) 同大はアクティブラーニングやグループディスカッション形式の授業が多いため、どう進めていけば良いのか分からず戸惑いがちな新入生の悩みを解消する狙いがあります。 社会に出ると後輩を指導することも多くなるため、産業能率大学では学生の卒業後を見据え、在学中からスキルアップを目指しています。 就職率も高く、2019年度卒業生のうち、就職希望者の就職内定率は99.4%となりました。 ここ数年、ジェイアール東日本企画(渋谷区恵比寿南)や野村証券(中央区日本橋)などの人気企業に就職した卒業生も。同大が4年間で学生をいかに育て、伸ばしたかが分かります。 通学生と通信教育課程の生徒数は大差なし 産業能率大学の特徴のひとつとして挙げられるのが、通信教育課程の存在です。 情報マネジメント学部内にある現代マネジメント学科は通信教育課程で、現役のビジネスマンが学び直しを行う機会を提供しています。 通信教育を受けるビジネスマンのイメージ(画像:写真AC) 通学する学部生は3948人(2020年5月1日現在)に対し、通信教育課程に在籍する生徒は3623人になります。 実用的な知識を求める社会人がこれだけ多く受講しているのも、10以上の細かいコースや、現代に沿ったカリキュラム構成になっているためです。 通信教育課程にも力を入れることで、最前線で働いているビジネスマンの声が届きます。 また、大学がビジネスの最前線をリアルタイムで感じることは難しいですが、産業能率大学は通信教育課程の存在によって、学部生の教育にそれらを反映できる強みがあるのです。 デジタルビジネスデザインコースも設置デジタルビジネスデザインコースも設置 2021年度には情報マーケティング学部内に、デジタルビジネスデザインコースを新設することが決まっています。 進歩著しいITビジネスの専門知識を持つ人材育成を掲げ、人出不足が指摘されているデジタル分野に優秀な人材を送り込む考えです。 産業能率大学のウェブサイト(画像:産業能率大学) 源流である日本産業能率研究所時代からぶれることなく、ビジネス畑一筋の産業能率大学は、時代の変化をキャッチしながらさらなる飛躍を遂げようとしています。
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