中国人観光客はどうなった? 団体旅行停止から3日後、春節最終日の銀座を歩く
新型コロナウイルスによる肺炎の拡大により、1月27日以降、来日できなくなった中国人団体観光客。このことが日本に与える影響とは。旅行ジャーナリストの内田宗治さんが解説します。3日前には見られなかった光景も 1月27日(月)から、中国人団体観光客が日本へやってこなくなっています。新型コロナウイルス感染拡大にともなう、中国政府の禁止措置によるものです。 その初日にあたる27日の銀座(中央区)の様子を前回「中国人観光客で変わらぬ活況 団体旅行停止 初日の銀座を歩く」でリポートしました。 中国人観光客が大勢国内外を旅行する春節は、1月24日から30日です。27日段階ではすでに中国からの団体ツアーが多数日本へやってきていて、銀座は「爆買い」する中国人観光客でにぎわいを見せていました。 春節最終日にあたる30日、再び銀座を訪れてみました。中国からの団体ツアー停止がどのように影響しているかを見たかったためです。 銀座へ大型観光バスで乗りつけて、スーツケース持参で「爆買い」する光景は、数は減ったがいまだに健在。2020年1月30日撮影(画像:内田宗治) そこでは、3日前には見られなかった光景も繰り広げられていました。 そのひとつは、接客スタッフのマスク着用です。前回の記事でふれたように、27日の高級ブランド店の接客スタッフは、多くの店でマスク着用の人とそうでない人と半々くらい。「お客さまに対して失礼なので、マスクを付けられない」といったことに関して、賛否両論がメディアでも取り上げられていた段階でした。 それがわずか3日後の30日は、どの店もほぼ全員が白いマスクを着用していました。唯一27日に全接客スタッフがマスクを着用していなかった某有名ブランド店でも、約半数の接客スタッフがマスクを付けていたほどです。 少ない消毒用ボトル利用者少ない消毒用ボトル利用者 感染の拡大とともに、武漢からのツアー観光客を乗せたバス運転手の感染が28日に報じられたインパクトが大きかったようです。 銀座の三越(中央区銀座4)、松屋(同3)といったデパートの1階には、高級ブランド化粧品売り場が広がっています。そこの接客スタッフ全員が顔の半分をマスクで隠しながら接客しているのは、私(内田宗治。旅行ジャーナリスト)にはかなり衝撃的でした。中国人観光客の来店が多い中、事態の重大さを端的に示しているからです。 銀座の中央通りの歩道で、買い物をスーツケースに押し込む姿は、春節の風物詩的光景。2020年1月30日撮影(画像:内田宗治) ひとつ気になったことがありました。感染防止において、マスク着用はある程度効果があります。しかし、それ以上に手洗いが重要だと言われています。 デパート内のエスカレーターでは、ほとんどの人が手すりを触っています。そこにウイルスがある場合、その手で鼻や口を触ったらどうなるでしょうか。 各デパートには、入り口の案内カウンターなど何か所かに、手の消毒用ボトルが置かれていました。ボトルの上を押して手に吹きかける一般的タイプのものです。しかし、それを使用している来店客はほとんどいません。置かれていることに気が付いていない人も多いようなので、使用をおすすめします。 銀座には銀座三越の8階にJapan Duty Free GINZA(同4)、東急プラザ銀座の8~9階にロッテ免税店東京銀座(同5)といった大規模な免税店があります。 3日前に訪れた時に比べ、特にロッテ免税店の様相が大きく変わっていました。もともと韓国人観光客の利用も多かったと思われますが、2019年の夏以来、韓国人の訪日観光客が反日感情の高まりとともに激減しています。それに加えて今回の中国人団体ツアーの停止です。 中国人観光客激減で経済的打撃も中国人観光客激減で経済的打撃も 30日の14時頃から約1時間、私はちょっとした買い物をしながら見ていたのですが、接客スタッフが50人近くいるフロアでは、客は常に十数人いる程度です(あくまで上記時間帯の例)。手持ちぶさたの店の接客スタッフだけが目立つ光景でした。 銀座の中央通りでは3日前、特に6丁目付近は中国人団体ツアー観光客が乗り降りする大型観光バスが、道の両側に多いときは合計10台近く停車し、歩道もそのため数か所で混雑、といった状態でした。例年の春節ならではの光景です。 台数は減ったが観光バスが停車して、中国人などの買い物客でにぎわう銀座6丁目付近。2020年1月30日撮影(画像:内田宗治) 今回30日は大型バスの姿が無くなり……といったことを予想していたのですが、意外に3~5台くらい常に見掛けます。スーツケースを持参してこれらのバスで銀座にやってきて(銀座でスーツケースを買う人も多くみかけます)、スーツケースいっぱいに買い物をしている人が多いようです。 どこから来たのか気になって聞いてみると、中国の重慶に今日帰るという団体(中国を26日以前に出発した団体のようです)と台湾の高雄からの団体などでした。 銀座に限らず、中国人観光客が激減して函館(北海道)の朝市が閑散としたなど、同様の事態が各地で起きていることがテレビなどで報道されています。 これまで本媒体で筆者は、政府が標ぼうする「観光立国」政策に対し、そのリスクを認識する重要性を述べてきました。 繰り返しとなりますが、観光は典型的な平和産業で、戦争、テロ、流行病、経済恐慌が起きると、一時的または地域限定ですが、壊滅的打撃を受けることがあります。 これまで知られてこなかった武漢の訪日観光客これまで知られてこなかった武漢の訪日観光客 終戦以来、日本経済をけん引してきたモノづくり産業に陰りが見える中、外国人観光客を多数誘致して観光を日本の基幹産業へと成長させることの重要性は理解できます。ですがそのリスクも認識したうえで実行すべきで、リスクの周知を行うことも政府としての重要な役割のはずです。 リスクの認識が不十分なだけでなく、中国からの訪日観光客(2019年:959万人)の数が、日本人の中国への観光客数の約3倍にものぼっていることも認識しておきたい点です。 感染発生前、武漢から多くの訪日観光客がいることも、ほとんど知られていなかったと思います。 現地在住の日本人が1000人にも満たない武漢という都市の空港へ、感染前には東京(成田)、大阪(関空)、名古屋(中部)、福岡の各空港から片道計週35便も飛んでいます。仮に各便平均100人搭乗していたとしたら週3500人です。利用客の大半は中国人でしょう。 ちなみに中国へは、日本の22の空港からフライトがあります(2020年1月のダイヤ、臨時便などを除く)。中国からの団体旅行は停止されましたが、個人やビジネス旅行として、これらの空港には中国人団体旅行停止後でもフライトがあります。 具体的には、東京(成田)、東京(羽田)、大阪(関西)、名古屋(中部)のほか、札幌、花巻、仙台、新潟、茨城、静岡、富山、小松、岡山、広島、高松、松山、福岡、北九州、佐賀、長崎、鹿児島、那覇の各空港です。 徹底的なリスク周知を徹底的なリスク周知を 近年、京都など外国人で混雑しすぎて弊害が出る「オーバーツーリズム」が話題となっています。違法民泊の問題、羽田空港発着わく拡大に伴う着陸コース変更の問題(渋谷上空へ)なども、訪日外国人の増加に対応することと関係があります。 シャネル(写真)、ブルガリ、カルティエ、ルイ・ヴィトンが店を構える銀座2丁目交差点。3日前より明らかに中国人客が減っていた。2020年1月30日撮影(画像:内田宗治) 政府は2020年までに、訪日外国人観光客数4000万人にすると目標を掲げてきました。2015年に訪日外国人観光客数は1974万人だったのが、2019年は3188万人にまで増加し目標達成まであと少しといった状況でした。 2030年に同6000万人にするという目標も掲げられているのですが、今回の問題をいい機会として、数字の見直し、オーバーツーリズムほか諸問題への対処、リスクの周知を徹底的に行うべきです。
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