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パンケーキにない素朴さが魅力！ 昔懐かしい「ホットケーキ」都内名店5選

どこか昔懐かしく、ホッとする見た目と味わいのホットケーキ。東京都内でおいしいホットケーキが食べられる名店を五つ紹介します。パンケーキ・ブームは2008年頃から　今や、日本でも定番となったパンケーキ。 　その人気の火付け役となったのは、2008（平成12）年に神奈川県鎌倉市七里ガ浜にオープンしたオーストラリア発の「bills」。 　世界一おいしい朝食が食べられるとして話題となったbillsですが、日本ではリコッタパンケーキが有名となり、多くの人が足を運ぶ有名店となりました。 昔ながらの懐かしいホットケーキ。再び人気が高まっている理由とは？（画像：写真AC）　さらに2010年にはハワイから「Eggs’n Things」が上陸。山盛りの生クリームがインパクト大のパンケーキはSNS映えするとあって、こちらもまたたく間に行列の絶えない人気店となります。 　海外から上陸したパンケーキが人気となる一方、近年その魅力が見直されてきているのが「ホットケーキ」。 　家庭でも手軽に作ることができますが、昔ながらの喫茶店で食べるホットケーキは、どこか特別な気持ちにさせてくれると再び人気が高まっているのです。 コロナ禍の巣ごもり需要でも注目コロナ禍の巣ごもり需要でも注目　パンケーキは、口どけのよい食感やフルーツや生クリームなどのトッピングが魅力。一方でホットケーキは、もっちりした生地とバターやメープルシロップなどのシンプルな味付けが特徴です。 　新型コロナ禍で「巣ごもり需要」が高まった2020年春以降は、ホットケーキミックスが品薄になるという現象も起きました。家庭の味でもあるホットケーキが、なぜまたお店でも人気となっているのでしょうか？ 　そこにはお店でしか作ることのできないとっておきの秘密が隠されているのかもしれません。 　そこで今回は、ホットケーキが食べられる都内の喫茶店を紹介します。どこか懐かしい味わいのホットケーキを食べに、お店へ足を運んでみませんか？ 1. 吾妻橋「デルコッファ」　最初に紹介するのは、都営地下鉄の本所吾妻橋駅からすぐの場所にある「デルコッファ」（墨田区吾妻橋）。 銅板で焼き上げた人気のホットケーキ（画像：わしわし）　緑色の看板が目印の店内に一歩足を踏み入れると、喫茶店の王道ともいえる木のぬくもりあふれる茶色い空間が目に飛び込んできます。 　注文を受けてから銅板で焼き上げるホットケーキは、お店の人気メニュー。運ばれてきた瞬間「これぞホットケーキ！」と思わず声を挙げたくなるほどの完璧な見た目に、心奪われてしまうことでしょう。 　バターとシロップを掛けて食べれば、幸せな気持ちに包まれるはず。さらにプラスでトッピング可能なアイスクリームは、熱々のホットケーキとの相性も抜群。ぜひ一度試してみてください。 2. 茅場町「珈琲家」2. 茅場町「珈琲家」　続いて紹介する「珈琲家」（中央区日本橋茅場町）は、さまざまな種類のコーヒーが楽しめるコーヒー専門店でありながら、ホットケーキも人気のお店。最寄り駅は東京メトロ茅場町駅です。 その大きさに驚く珈琲家のホットケーキ（画像：わしわし）　銅板を使ってじっくり焼き上げるため、お店が混雑するお昼時には注文できませんが、その時間を避けてでも食べに行きたい逸品です。 　まずはその厚みにアッと驚くはず。通常1枚ですが、サービスで小さなホットケーキも付けてくれました。 　これだけの厚みがあるのに中までしっとり火が入っていて、焼き上がりまで時間がかかるのも納得です。マスターはとても気さくで、初めてでも温かく迎えてくれます。ここでしか食べられない特大ホットケーキを食べてみませんか？ 3. 南千住「オンリー」3. 南千住「オンリー」　続いては東京メトロ南千住駅から徒歩4分のところにある「オンリー」（荒川区南千住）です。 てっぺんに乗ったバターが可愛らしいオンリーのホットケーキ（画像：わしわし）　南千住のほかに合羽橋にも店舗がある「オンリー」は、「魔性の味」という看板が目を引く昔懐かしい喫茶店です。 　ホットケーキは淡い焼き色とてっぺんに乗ったバターが何ともかわいらしく、食欲をそそります。一見小さく見えますが厚みもしっかりあるので、お昼ご飯としても十分満足できるでしょう。 　さらにホットケーキの注文にはサラダも付いてくるという、うれしいサービスも。野菜もしっかり取れる「オンリー」のホットケーキを食べに、ぜひ訪れてみてください。 4. 浅草「珈琲 天国」4. 浅草「珈琲 天国」　続いて紹介するのは、東京メトロ銀座線浅草駅から徒歩8分の「珈琲 天国」（台東区浅草）。小さいお店ですが、週末ともなると行列のできる人気店です。 天国のホットケーキは店名の焼印が特徴（画像：わしわし）　こちらのホットケーキは、「天国」の焼印が入っているのが特徴。注文を受けてから粉を混ぜて作るため、さっくりふわふわな食感です。 　おやつにもぴったりなサイズ感のため、ランチの後でもぺろりと食べられることでしょう。またかわいらしいオリジナルグッズも販売されているので、浅草散策のお土産に購入してみてはいかがですか？ 5. 錦糸町「ニット」　最後は東京メトロ錦糸町駅から徒歩3分の「ニット」（墨田区江東橋）をご紹介。 　朝から営業している老舗の喫茶店には、名物のホットケーキを求めて、多くのお客さんが訪れます。 　分厚い2枚の生地が重ねられたホットケーキは、すべすべの焼き色が美しくホレボレしてしまうことでしょう。 　また真ん中に刺さった楊枝（ようじ）は、バターが滑り落ちないようにとの優しい気遣いから。外はサクッと、中はふんわりした食感は、どこか懐かしい気持ちになる味わいです。 　素朴だけれど家では作れない、そんな特別感あふれるホットケーキを食べてみてください。 のんびり待ち時間と、素朴な味わいが魅力のんびり待ち時間と、素朴な味わいが魅力　SNS映えするパンケーキと違い、見た目はシンプルなホットケーキですが、その素朴な味わいはきっと懐かしい気持ちにさせてくれることでしょう。 　焼き上がりをのんびり待てば、手作り感あふれるおいしいホットケーキに出合えるはずです。お店の方の愛情がたっぷり詰まったホットケーキを食べに出掛けてみませんか？

東京とホットケーキ。今は亡き神田の名店「万惣フルーツパーラー」の味を求めて

日本人になじみ深いホットケーキの歴史と、かつて存在した名店の足跡を法政大学大学院教授の増淵敏之さんが解説します。厚さは1㎝以上、中には5cmのものも　日本人は、古くから「カスタマイズ能力」が高いといわれます。ポルトガルのカスティーリョをカステラに仕立て上げ、中国の中華麺をラーメンに展開させ、インドのカリーライスを日本式カレーライスに作り変えました。 オーソドックスなホットケーキのイメージ（画像：写真AC）　ホットケーキも、このカスタマイズ能力の産物です。欧米でホットケーキという呼称は一般的ではなく、日本でいうホットケーキはパンケーキと呼ばれることが多いようです。 　また日本のホットケーキは生地が厚く、パンケーキは生地が薄いという差異があります。ホットケーキの厚さは少なくとも1㎝以上、中には5cmのものを提供する店舗も。 　さらにホットケーキの生地には砂糖が入っておらず、パンケーキの生地には砂糖が入っています。これはまさに、欧米のパンケーキを日本風に仕立てたものだと考えられるでしょう。 　筆者は食べ物を通じて日本文化を考察する試みを、『おにぎりと日本人』（洋泉社。2017年）で行いました。日本と同じく米の文化圏にある中国でおにぎりが存在しないにもかかわらず、なぜ日本でソウルフードになったのかを考えました。 　そこでわかったのは、冷たいご飯を食すか・食さないかの違いでした。ホットケーキは明治時代以降の食べ物であるため、おにぎりとはもちろん発展過程が違います。 ホットケーキミックスのヒットで、家庭に定着ホットケーキミックスのヒットで、家庭に定着　ホットケーキの誕生については諸説あるのですが、日本の食文化史研究家・岡田哲の『コムギ粉の食文化史』（朝倉書店。1993年）によれば、 「三越百貨店が、客寄せのために店内に食堂を設けたのは明治41（1908）年のことであるが、その東京日本橋の三越が、関東大震災後に、ハットケーキという名前ではじめてメニューに入れている」 とあり、これが百貨店の大食堂でのホットケーキ登場の定説になっているようです。 日本橋三越本店の様子（画像：写真AC）　生活雑誌『暮しの手帖』を創刊した大橋鎭子『「暮らしの手帖」とわたし』（暮しの手帖社。2010）には、1937（昭和12）年頃に銀座コロンバンでホットケーキを食べたという記述もあります。 　この時期には庶民のあいだで定番になっていたようで、1950（昭和25）年には『暮らしの手帖』のグラビアページで、銀座コロンバンのレシピを使った「誰にでも必ず出来るホットケーキ」が掲載されています。戦後は1957（昭和32）年発売の森永ホットケーキミックスのヒットによって、さらに家庭に定着していくのです。 池波正太郎も愛した「万惣フルーツパーラー」　さてホットケーキをこよなく愛した作家・池波正太郎が足繁く通ったのが、2012（平成24）年に閉店した神田須田町の「万惣（まんそう）フルーツパーラー」でした。彼のエッセイ『むかしの味』（1988年）に紹介されています。 万惣フルーツパーラーが入っていたビルの跡地。現在は新たに建てられたビルの中にはビジネスホテルチェーンやコンビニエンスストアが入居している（画像：(C)Google）　経営母体の万惣商事は1846（弘化3）年に開業、当初は水菓子と呼ばれた果物を販売していました。また、マスクメロンを日本で最初に販売したことでも知られています。フルーツパーラーの開店は1927（昭和2）年で、ホットケーキの提供は1930（昭和5）年からといわれていますが、諸説あります。 　池波正太郎は日本を代表する時代小説家ですが、グルメとして数々の名店を贔屓（ひいき）にしていました。「万惣フルーツパーラー」のホットケーキの特徴というのは、カリッとしてきつね色に焼き上げられた生地に、アングレーズソース（カスタードソース）とバターが添えられるというのが基本形だったようです。 　残念ながら、「万惣フルーツパーラー」は2012（平成24）年に本店、支店ともに閉店していますが、同店の流れを継いだ店も都内にいくつかあるので、今回ご紹介します。 東京の各地で継承される名店の味東京の各地で継承される名店の味　まず赤坂にある「ホットケーキパーラー Fru-Full 赤坂店」（港区赤坂）は、「万惣フルーツパーラー」で20年以上の経験を積んだシェフが、2013（平成25）年に開店しました。 「ホットケーキパーラー Fru-Full 赤坂店」の外観（画像：(C)Google）　ホットケーキはもちろんのこと、添えられているフルーツとクリームもなかなか美味です。しかし人気店のため、順番待ちも時間によっては必至です。蒲田の「シビタス」（品川区西蒲田）は、「万惣フルーツパーラー」開店時のシェフである加茂謙のレシピに基づいて作られていると言われています。 　同店は1968（昭和43）年に「万惣フルーツパーラー」の支店として開店したとのこと。スタンダードのホットケーキに、トッピングとしてフルーツとクリームを頼むのが定番とされています。 　また、小田急線「梅ヶ丘駅」近くにあった「リトルツリー」がリニューアル移転オープンした「HOTCAKE つるばみ舎」（世田谷区宮坂）も「万惣フルーツパーラー」に勤務していたシェフの店だということです。 　これらの店は「万惣フルーツパーラー」系とでもいうのでしょうか。懐かしいホットケーキの味がこうした形で継承されていることは、とても嬉しいことです。 　池波以外の作家の作品にも、三島由紀夫の『豊饒（ほうじょう）の海』（全4巻。1969～1971年）や村上春樹の『風の歌を聴け』（1979年）にもホットケーキは登場します。現在もなお、多くの日本人に愛されるスイーツのひとつが日本式パンケーキ、つまりホットケーキといえるのではないでしょうか。