タピオカの二の舞? マリトッツォのブームが年内にも終了しそうなワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(6)
オジさんがマリトッツォを食す 先日、東京都内でカフェに入り、初めてマリトッツォを食べました。 マリトッツォ(画像:写真AC) 56歳男性の私(日沖健、日沖コンサルティング事務所代表)は、普段おしゃれなカフェに入ることはほとんどなく、まして女性客のなかでスイーツを食べることはありません。しかし、ケースに並んだマリトッツォの鮮やかなビジュアルを見て興味が湧き、思わず注文しました。 生クリームがさっぱりした甘さで、トッピングのレモンも良いアクセント。「これ食べたら夕飯を食べられなくなるかなぁ」と少し心配でしたが、生地のパンも軽い食感で、問題なくおいしく食べることができました。なかなかよくできたスイーツです。 帰宅して早速、マリトッツォを食べたことを少し自慢げに家族に報告しました。すると、20歳前後の娘ふたりは「えっ、今ごろ?」、50代の家内は「何なのよ、それ?」という反応でした。 マリトッツォはイタリア・ローマ地方の伝統的なスイーツ・パンで、カプチーノとともに朝食で食べることもあるそうです。日本では2014年頃に上陸し、2020年暮れからブームに火がつき、今ではコンビニエンスストアでも売られるようになっています。 ここで経営コンサルタントの私は職業病で、 「マリトッツォのブームは登山で言うと何合目だろうか?」 「タピオカミルクティーを上回る大ブームになるのだろうか?」 と考えました。 「製品ライフサイクル」でブームを分析「製品ライフサイクル」でブームを分析 世は空前のスイーツ・ブーム。さまざまなスイーツがひしめくなか、マリトッツォがどこまで浸透するのかは、専門家でもよくわかりません。 ただ、製品ライフサイクルとイノベーター理論を参考にすると、かなり合理的に予測をすることができます(私はスイーツの専門家ではなく、合理的だからと言って当たるとは限りませんが……)。 製品ライフサイクル(Product Life Cycle、PLC)は1950年にジョエル・ディーンが提唱したマーケティング理論で、ある商品は人間の一生と同じように 1.導入期 2.成長期 3.成熟期 4.衰退期 という4段階を経るという経験則です。 製品ライフサイクル(画像:野村総合研究所) 縦軸にある商品の売り上げ規模、横軸に時間を取ると、成熟期(3)を頂点とする放物線を描きます。 では、マリトッツォは、今どの段階にあるでしょうか。 ここで成長期(2)の特徴として、その商品の売り上げが急増して市場での認知度が高まること、競争者が多数参入してくること、などが挙げられます。マリトッツォも、2021年に入ってからこうした特徴が表れており、成長期にあると考えられます。 ということは、成熟期(3)になるまで、今よりもっと人気が高まりそうです。 「イノベーター理論」でブームを分析 一方、新商品の普及を購入する側から見たのが、エベレット・ロジャースが1962年に提唱したイノベーター理論です。 イノベーター理論によると、ある商品は全体の普及率100%に対して以下の順で普及します。 1.革新者(イノベーター)2.5% 2.初期採用者(アーリー・アダプター)13.5% 3.前期追随者(アーリー・マジョリティー)34.0% 4.後期追随者(レイト・マジョリティー)34.0% 5.遅滞者(ラガード)16.0% 新商品の普及で特にカギになるのが、初期採用者(2)から前期追随者(3)にスムーズに移行できるかどうかです。 普及率が16%を超えるかどうかにキャズム(深い溝)があり、ほとんどの新商品はキャズムを乗り越えられず、市場から姿を消します。 イノベーター理論(画像:マーケティングデザイン) では、現在のマリトッツォは、「1」から「5」のどれに当たるでしょうか。 イノベーター理論の弱点は、ある時点で「1」から「5」のどの段階にあるかは、後になって全体がわかってから確かめられることで、現在進行形では正確にはわからないという点です。 ただし、革新者(1)と初期採用者(2)が流行に敏感な層であるのに対し、前期追随者(3)は、やや慎重だが平均よりも早く新商品を購入する層で、購入前に実用性を確認してから購入します。 また、後期追随者(4)は新しい商品を使うことに抵抗感があり、周囲が使う場面を見て追随しようとする層です。 マリトッツォの場合、 ・さほど流行に敏感なわけではない私の娘ふたりが知っていたこと ・56歳のオジさんが食べたこと からすると、前期追随者(3)から後期追随者(4)にそろそろ移行する時期かなと思います。 つまりマリトッツォは、もう少し広い普及するものの、今後、普及のスピードはかなり鈍化しそうです。 タピオカミルクティーブームとの違いタピオカミルクティーブームとの違い 以上をまとめると、現時点のマリトッツォは、製品ライフサイクルで言うと成長期(2)、イノベーター理論で言うと前期追随者(3)から後期追随者(4)に移行する段階と言えそうです。 4年前に大はやりしたタピオカミルクティーは、同じ段階に爆発的に店舗が増え、各地で行列ができる社会現象になりました。それに比べると、マリトッツォはメディアの露出も少なく、「静かなるブーム」という印象です。 タピオカミルクティー(画像:写真AC) 理論通りなら、今後もさほど大きく広がることなく、小粒なブームのまま、早ければ年内にもブームは沈静化するでしょう。 と、マリトッツォに対してやや悲観的なことを書きましたが、個人的にはほかの色んなスイーツよりもマリトッツォを大いに気に入りました。味やビジュアルもそうですが、シンプルで素朴なところが素晴らしい。 経営コンサルタントの予想を裏切って、末永く日本人に愛されてほしいものです。
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