「せ、咳が止まらない」 若手社員を突如襲った適応障害、休職までの苦悶と3か月後に差し込んだ一筋の光

近年話題となっている「適応障害」。会社の同僚や友人など、自分の身近な人で該当するケースももはや珍しくありません。今回、東京で働く適応障害を発症した当事者に語ってもらいました。


初期症状は「睡眠の乱れ」から

 私は適応障害と診断されました。新卒社会人として東京で働き始め、2年目を向かえようとしていた頃です。適応障害と告げられたとき、聞き慣れない病名に加えて、「障害」という響きの仰々しさに面食らったのを覚えています。

 適応障害とは、

「ある特定の状況や出来事がストレスとなって情緒面や行動面で症状が引き起こされ、社会生活に支障をきたしている状態」(小学館デジタル大辞泉)

を指します。

咳き込む男性のイメージ(画像:写真AC)



 メンタルクリニックで診断を受けたのは症状が重くなった後のことですが、その始まりは「睡眠の乱れ」というささいな症状からでした。

 私がしていた仕事は残業が当たり前のような状況であった上に、新卒で慣れない業務も多く、帰りが遅くなることも珍しくありませんでした。入社後、そんな生活サイクルが体に染みついたせいか、気づかぬうちに睡眠習慣に影響していったようです。

 疲れて眠いはずなのになかなか寝付けない、あるいは眠れたとしても早朝に目が覚めるといったことが、週に3~4日はありました。もちろんこのとき睡眠に関する諸問題が適応障害の一部であることは想像もつかず、「きっと疲れのせいだ」と言い聞かせ、特に治療が必要であるとは考えなかったのです。

 そして睡眠の異変を感じた数週間後の出来事です。通勤電車に乗っていたとき急な倦怠(けんたい)感と、心臓からずしんと体全体が重くなるような感覚に襲われました。

 それは電車を降りた後も続き、オフィスに着いて仕事を始めて忘れるまで消えることはありませんでした。寝不足ということもあったのでしょうが、その原因は当時抱えていた働き方への強いコンプレックスにあったと自覚しています。

 相変わらず帰りは遅く、休日のために平日を浪費するようなハリのない生活に違和感を覚え、「この生活は一体何年続くのか」と出口の見えない働き方にやるせなさを感じていたのです。なかには辛い仕事だが3年は続けるという同期もいました。

 しかし私としては不確かな未来のために、なぜ今の貴重な時間を犠牲にできるのかを理解できず、そうした周囲との温度差も働き方のコンプレックスを生む原因であったといえます。日ごとに増した納得できない感情が、無意識のうちに自分の首を絞めていたのでしょう。

症状の悪化とさらなる異変

 いくら気持ちが後ろ向きでも、社会人としてこれからという時期に転職や退職という大胆な行動をおこす勇気は私にはなく、症状は悪化の一途をたどりました。

 体の異変が実際の症状に変化したのは、入社から半年の月日が経過した頃です。原因不明の咳(せき)が出るようになり、そしてこの咳は数ある症状のなかで、一番といえるほど重い症状となりました。

 咳が出ると感じ始めたときは、単に喉の乾燥によるものと考えていましたが、実はストレスが原因で気管支に影響していたらしいのです。そのため、市販の風邪薬や咳止めを使っても治るはずがなく、咳は軽減しないどころか頻度は増すばかりでした。

もはや珍しくなくなった適応障害(画像:写真AC)



 オフィス、通勤電車、家とところかまわず出る咳は非常に煩わしく、コロナが流行したご時世もあって公共の場では肩身の狭い思いをしたものです。そして咳が重いときには立つのもやっとなくらいにひどくなることもありました。

 ようやく病院に行き薬を処方してもらったものの、その後3か月以上にわたり咳は止まらず次第に仕事とプライベートの両方で徐々に支障をきたすようになります。

 咳と同時に現れた症状が「物忘れ」です。私は使用後トイレの電気はすぐに消し、外出時忘れ物がないようチェックするほど、性格はきちょうめんでしたが、そんな性格からは考えられないほど、ものわすれが増えていきました。

 例えば絶対に消すはずのトイレの電気がつけっぱなし、財布を持たずに遠出するといったようなことです。普段なら注意を払えていたことに意識が向かず、いつもの自分であればありえないミスが起こり、初めて体調の変化に危機感をいだきました。

 これまでの症状と照らし合わせて類似する病気を調べた結果、うつ病を疑った私はすぐさまメンタルクリニックでの受診を決めました。

メンタルクリニックでの診察とその後の治療

 メンタルクリニックの診療は、担当医と1対1の対話形式で、会話を通して症状や生活環境を伝えるカウンセリングに近い内容でした。担当医の話によると、うつ病は原因が不明確であるのに対し、適応障害はその原因が明確であるというのです。私の場合は生活のほとんどを仕事に費やしており、原因がその生活環境にあることは自明でした。

 担当医より進められた治療法はふたつありました。ひとつは休職して環境を変えること。もうひとつは、仕事を続けながら薬に頼って回復を期待するというものでした。しかし薬は効き目が強いため、副作用によって依存性が高まるらしく迷いもありましたが、私は休職を選択しました。

 適応障害は人によって回復にかかる期間が異なり、おおむね2週間程度の療養が必要と聞かされていました。休職を始めてまず驚いたのは、3か月にもわたり悩まされたしつこかった咳が3日ほどで止まったことです。

 適応障害の原因がやはり環境だったことを再認識すると同時に、咳の原因がわかったことへの安心感がありました。今となっては無理して続けず、休職してよかったと心底実感しています。

自宅での映画鑑賞のイメージ(画像:写真AC)



 休職中には趣味の映画・アニメ鑑賞の時間をもうけ、仕事とは遠い環境に身を置くことに専念しました。また積極的な外出のほか、友人と連絡を取ることも張りつめたような緊張感から解放される思いがあり、自分のための時間作りが1日でも早い回復につながったと強く感じています。

適応障害といかに向き合うか

 休職から3か月がたち、現在は元通りといえるほど体調は回復しました。

 しかし私がそうであったように、適応障害の初期症状は自覚が及ばないケースもあり、気が付かなければ重症化もありえます。幸い私は休職という選択ができましたが、今まさに適応障害で身動きが取れずに悩んでいる人、もしくはその疑いがある人は多いはずです。

 原因が明確である以上、治療の手だては多くありますが、治療が遅れる前にまずは誰でも構わないので、周囲の人に相談してみてください。

希望ある未来(画像:写真AC)



 そして最後になりますが、適応障害は人や物であふれる東京だから発症しやすいのではなく、どんな環境下であっても、またどんな人であっても等しくリスクがある病気です。だからこそ適応障害を抱えたとしても、それは環境と性格が合わなかっただけであって、決してあなたが弱かったからではない――ということをどうか忘れないでください。


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