K-POPファンが新大久保の「カフェ」に続々と集まる事情
韓流の“テーマパーク”、新大久保へ チーズドッグやダッカルビ、そしてコスメなど、新大久保は韓国文化を1日楽しめるテーマパークのような場所です。 美容や食文化だけではありません。新大久保の駅に降り立つと、K-POP(韓国のポップ・ミュージック)が耳を刺激し、日本のアイドルショップをしのぐ勢いで立ち並ぶ店舗が目に飛び込んできます。 夜の新大久保駅付近の様子(画像:写真AC) 社会科学系の大学の研究室にいると、K-POPファン(「ペン」といいます)の心理や、ファン活動のためのSNS利用といった内容の卒論を書こうとする学生に出会うことがあります。 百聞は一見にしかず。研究室の机に向かっていても分かりません。なにはともあれ、K-POPファンの大学生がファン友達と遊ぶ様子を観察させてもらうべく、新大久保の「現場」へ一緒に出掛けてみました。 K-POPファンたちがカフェに集う理由とは? 私がチーズダッカルビに心を奪われているのを尻目に、研究室の学生たちが向かった先は、雑居ビルのなかにあるK-POPファンの集うカフェでした。 飲み物を注文するときに、曲をひとつリクエストすることができるシステムでした。リクエスト曲のミュージックビデオは、店内のプロジェクターから順番に投影されます。ただしこのK-POPのミュージックビデオは、公式にYouTubeにアップロードされているものです。 ファンたちはスクリーンに投影されるミュージックビデオを観ながら談笑したり、店内に置いてある雑誌を一緒に眺めたり、スマホでK-POPグループのTwitterをチェックしたりと、さまざまなメディアを利用しています。研究室の学生たちもK-POPの雑誌を手に取り、すぐにふたりで盛り上がっていました。 YouTubeのミュージックビデオも、Twitterも、雑誌も、どこでも楽しめるメディアです。私が不思議に思ったのは、「なぜ家でできることを、わざわざファン友達と待ち合わせ、新大久保のカフェまで行き、一緒に行うのか?」という点です。たまたま居合わせた他のお客さんと一緒に何か盛り上がるわけでもありません。 しかし、大学生の話を聞いたり、しばらく店内を観察したりしていると、K-POPのカフェという場の持つ意味が少しずつ分かってきたのです。 K-POP理解を深める「学び合いの場」にK-POP理解を深める「学び合いの場」に K-POPファンたちは、雑誌やミュージックビデオに「推し」(最も愛好している対象)が出てくると、それを指差しながら「このソクミン、バチクソいけてるから」「この日のギョミちゃん見てほしい」といった調子で語り合います。ソクミンもギョミちゃんも、 韓国男性アイドルグループ『SEVENTEEN』のメンバーのドキョム君のことです。 指の先にあるのは、家でも視聴できるYouTubeのミュージックビデオですが、その映像を話のタネにして、お互いに情報を提供し合う、楽しい「交換」が延々と続きます。 新宿駅から電車で3分の新大久保駅(画像:写真AC) また、ミュージックビデオのなかで盛り上がる(べき)共感のタイミングも分かります。一緒に行ったファン友達と映像内の同じポイントで顔を見合わせたり、雑誌をめくろうとする相手の指を巧妙に止めて、「推し」について語り続けたりします。あまり詳しくないグループのミュージックビデオが投影されている場合でも、お隣のお客さんの反応を見れば、誰にどんな声援を送るのかもだいたい分かります。 つまり、K-POPファンの集うカフェは、さながら、K-POPへの理解を深める「学び合いの場」のようになっているのです。 効率よく情報に触れるために…… K-POPのグループはSNSで情報を発信していますが、ファンの学生に聞くと、言語や地理的なデメリットで情報収集は大変なようです。ひとつのグループの人数も多く、兵役に伴う離脱と参入が繰り返されるので、効率よく多様な情報に触れるには、複数人が集う現場が大事なのです。 K-POPファンにとって「どこでも視聴可能な映像や雑誌をわざわざ一緒に見る」ことが、いかに楽しく大切なことかが見えてきました。 こうしてK-POPファンたちは、映像と雑誌のようなメディアと、そのメディアに対する他者のふるまいを見ながら、2時間も3時間も「学習」を楽しみ続けているのです。 K-POPカルチャーの捉え方が「複眼化」していくような感覚なのでしょう。複眼的な視点の獲得は、ハマればハマるほど「たまらない」もののはず。また、学習と複眼化をとおして「ハマる」ことは、K-POPファンのコミュニティ以外にも見られます。この快楽こそが、K-POPファンが複数で現場に集まる意味なのです。
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