東日本大震災の教訓 「帰宅困難者」になったときに気を付けなければならない9つの点とは
首都圏全体の死者58人、負傷者1412人 2011年3月11日、M9.0の巨大地震が発生し、東日本を大きな揺れが襲いました。そのとき首都圏で何が起こったのかを今思い返して、今後の防災・減災・備災へとつなげましょう。 東京都総務局の資料「東日本大震災の被害概要」によれば、東京都では立体駐車場の一部崩落や天井の落下等により、7人が死亡、117人の負傷者が出ました。また6455棟が家屋の全壊・半壊し、火災は34件発生。ブロック塀が倒れる被害や道路被害、がけ崩れ、液状化等も起こりました(2012年2月時点)。さらに晴海では最大津波1.5mを観測しています。 なお、国土交通省国土計画局の資料「首都圏における東日本大震災の被害状況について」によると、首都圏全体の死者58人、行方不明者3人、負傷者1412人となっています。 首都圏を襲う震災イメージ(画像:写真AC) では具体的に、地震でどのような状況になったのでしょうか。 まずは大規模な停電で、その後は計画停電も行われました。東京電力サービスエリアにおける停電軒数は約405万軒に上り、鉄道の運行は停止しました。駅への入場を制限する鉄道事業者もあり、主要駅周辺では移動の手段を断たれた人であふれました。 都営大江戸線、東京メトロ銀座線等の一部の区間は、20時40分に運行を再開。また京王電鉄・西武鉄道等は、22時頃から運行を再開しました。再開した各線は終夜運行したが、帰宅者が集中したことで混乱が発生。また都心の交通網がまひしたことで、自宅まで何時間も歩いて帰る人が多く生まれ、いわゆる帰宅難民(帰宅困難者)の問題が深刻化しました。内閣府の試算によると首都圏にいた人のうち、当日帰れなかった人は515万人とされています。 東京都内の高速道路では、首都高速道路が地震による緊急パトロールと緊急点検を実施するため、全面通行止めが増加。都内の道路では大渋滞が発生しました。救急車などの緊急自動車の移動を妨げる事態になりました。 また、東京近郊を含む広い範囲に渡って液状化現象が発生。東京臨海部で確認された面積は約42平方キロメートルと世界最大を記録しています。 千葉県ではコンビナート火災も千葉県ではコンビナート火災も 特にひどかったのは、千葉県北部埋め立て地(浦安市~千葉市)にある住宅地での被災・被害でした。 浦安市等では、地表付近に作られた上水、下水、ガス、電気などのライフライン施設に影響し、浅い基礎の一戸建て住宅や道路の被害が多く発生しました。細微な噴砂が水とともに移動し、排水溝や下水管を詰まらせ、多くの人の生活に支障が出ました。 また千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所における火災・爆発事故と川崎市・市原市の事業所にある石油タンクのスロッシング(液体が入った容器が振動した際、液体の表面が大きくうねる現象)により、火災や浮き屋根の破損などの被害が発生しました。 千葉県市原市のコンビナート火災では、地震発生によってタンクが倒壊。その衝撃で隣接のLPガス配管を破損し、LPガスが大量漏えいしました。その後、出火し計5回の爆発が発生。懸命な消火活動が続き、火災が鎮火するのに3日要しました。 京葉コンビナート(画像:写真AC) この火災によって、事業所内のスタッフ3人が軽傷、隣接事業所である丸善石油化学千葉工場に在籍していたスタッフのひとりが重傷、ふたりが軽傷を負っています(日本開発構想研究所「東日本大震災が東京湾に与えた影響」より)。 物流への影響も少なくありませんでした。 水やカップ麺、燃料、ガソリンなどの需要が増加し、そこに都市特有の物流の脆弱(ぜいじゃく)性が影響して、スーパーマーケットでは商品の欠品が長期にわたりました。なお首都圏では、震災後の2週間に物価が平均5%上昇したという調査結果もあります。 長周期地震動とは何か 前述の帰宅困難者の関連では、特に高層建物内にいた人は長周期地震動がどれほどのものか恐怖だったことでしょう。震源が浅い大地震ほど長周期地震動が発生しやすくなります。短い周期の波に比べて減衰しにくいため、遠くまで伝わります。 東日本大震災では、震源から約700km離れた大阪市の高層ビルも長周期地震動で大きく長く揺れたため、内装材や防火扉が破損。エレベーター停止による閉じ込め事故も発生しました。 地震で壊れたビルのイメージ(画像:写真AC) 関東平野などの大規模な平野部や盆地は、柔らかい堆積層で覆われています。長周期の波はこの堆積層で増幅されるのです。首都圏などの大都市は大規模な平野部に立地しているため、高層化の進展で長周期地震動による影響を受ける人口も増えています。 高層ビルの高層階の場合、震度が小さくても大きな揺れになることがあります。大阪市の高層ビルは内装材などが破損するほど大きく揺れるビルもありましたが、地上で観測された震度は3でした。 ・ゆっくりとしていて揺れの周期が大きい ・遠くまで揺れが伝わる ・高層階ほど揺れやすい というのが、長周期地震動の特徴です。 自分の身は自分で守る意識を自分の身は自分で守る意識を 著者が最も危惧するのは、帰宅困難者の問題です。 この問題の背景には、首都圏の鉄道利用者が極めて多いことがあります。首都圏の1日の鉄道利用者は延べ4000万人です。首都圏のバスや路面電車の定期利用者は、100分の1となる約40万人。電車が止まってしまえば、バスと路面電車だけで対応できるはずがありません。 首都圏に住む定期利用者数の通学通勤の平均所要時間は、1時間以上です。大量の人が電車で長距離を移動している大都市圏の職住分布は、帰宅困難者問題の大本となっています。こうした都市構造が変わらないかぎり、帰宅困難者の問題解決は難しいでしょう。 また携帯電話の多くが利用できず、情報の伝達や共有が難しい状況でした。枝野幸男官房長官(当時)は当時、無理な帰宅を控えるよう会見しました。都や区町市は一時避難場所として約1000か所の避難場所を用意。そんななか、帰宅できない人を迎えに来た車も多く、これが渋滞をさらに悪化させました。都心部では約5%の人が家族を迎えに行ったという調査結果もあります。 さらに大量の帰宅困難者がコンビニで品物を買ったため、物資が不足する事態となりました。小売店ではいわゆるデッドストックを最小化しているため、こうした緊急事態時にはすぐに欠品騒ぎになるのが日本の特徴です。 震災時のコンビニイメージ(画像:写真AC) この帰宅困難者問題に関して主に考慮しなければならないのは、次の9点です。 1.大量の徒歩帰宅者で大渋滞し、集団転倒が発生する 2.災害情報を得られない大量の徒歩帰宅者が、大規模火災発生地域へ入る 3.地震で建物倒壊や外壁が落下して、徒歩帰宅者が被害に遭う 4.大量の帰宅者や車で大渋滞が起き、救急/消火/救助/災害対応が大幅に遅延する 5.大量の帰宅者や車で大渋滞が起き、避難行動の阻害になる 6.モノ不足、物流の混乱で多くの被災者が避難所へ殺到する 7.駅などで転倒事故などが発生する 8.災害情報を得られず、津波・大規模火災に遭う 9.安全確認をしないまま高層ビルなどに滞留し、地震被害やビル火災に遭う こういったことは、自治体だけではどうにもなりません。自分の身は自分で守り、危険な場所には近づかず、必要な備蓄は持参するようにしましょう。 また従業員への対策として、BCP(業務継続計画)に付随させた帰宅困難者対策の確立も徹底すべきです。訓練も併せて必要でアップデートも欠かせないのです。
- 未分類