10年で100店舗達成の焼き鳥店 ファミリー層も惹きつけた「ブルーオーシャン戦略」とは?
焼き鳥を食べてみたい場所は「焼き鳥専門店」 子どもから大人まで広く親しまれる焼き鳥。かつては、煙がモクモクと漂う赤提灯や専門店で食べるのが一般的な食べ物でした。 業態が多様化して今や国民食といえる焼き鳥(画像:すみれ) それが今や、コンビニやスーパーで売られるだけでなく、地鶏を使った高級店、チェーン店、個人経営の赤提灯、持ち帰り専門店など業態が多様化。今や「国民食」と言える存在です。 ホットペッパーグルメ外食総研の調査(2018年6月)によると、過去1年間に焼き鳥を食べたり購入したりした場所について、最多は「居酒屋」で42.7%。次がスーパーマーケットで39.7%、焼き鳥専門店が34.9%と続きます。他方、今後どのような場所で焼き鳥を食べたり購入してみたいかとの質問には、「焼き鳥専門店」が最多で55.5%でした。 焼き鳥を食べてみたい場所を「焼き鳥専門店」と回答した人が半数以上に上ることについて、リクルートライフスタイルの稲垣さんは「コンビニでもそこそこおいしい焼き鳥が買えるようになり、外食ならそれ以上においしいところで食べたいと思う人が増えたためではないか」と分析します。 焼き鳥チェーン店で350店舗を展開し、売り上げトップの「鳥貴族」は、1985(昭和60)年に1号店をオープンしました。現在、700店舗を展開する「やきとり大吉」の1号店オープンは1978(昭和53)年。これらと比べると若いチェーン店で、2009(平成21)年に開業、10年で100店舗と急成長を遂げている店に「やきとり家すみれ」があります。 今や群雄割拠の焼き鳥市場。そこに新規参入した「やきとり家すみれ」が、どのような独自性をもって成長を遂げていったのか、すみれ(渋谷区猿楽町)代表取締役社長の湯澤忠則さんに話を聞きました。 空白地帯がコンビニと赤提灯の間にあった空白地帯がコンビニと赤提灯の間にあった 湯澤さんが狙ったのは、「ブルーオーシャン」。ブルーオーシャンとは、新しい商品やサービスを開発・投入することで創出される、競合のいない市場空間です。湯澤さんは焼き鳥市場のどこに「最大のブルーオーシャン」を見出だしたのでしょうか。 すみれ代表取締役社長の湯澤忠則さん(画像:すみれ)「私が焼き鳥に目を向けたとき、既に2000億円規模の安定した市場でした。しかしまだ職人が炭火で焼く赤提灯のような店が多く、おじさんの酒呑みのアテ(つまみ)といったイメージが強くありました。焼き鳥は、主食やハレの日の外食になりづらいものですから、売り手側の業態がどうしても偏ってしまいます。 その一方、家では作れないものなので、コンビニやスーパー、駅ナカなどでのテイクアウトはすごく売れていて。赤提灯とテイクアウトの間、家族連れや女性、若者たちが焼き立てのちゃんとした焼き鳥を気軽に食べに行ける専門店が空白地帯であることに気がつきました。そこが最大のブルーオーシャンでした」(湯澤さん) むろん、当時すでに手頃な価格帯のチェーン店が存在していました。その差別化について、「やきとり家すみれ」は家族や若者といった客層ターゲットありきのメニュー展開で付加価値を訴求したことを挙げます。 付加価値訴求型といっても、「鶏バルのようにしたくなかった」と湯澤さん。店の柱はあくまで本格的焼き鳥で、さまざまな部位の串を提供することは、ターゲットに対する空白地帯のひとつでした。 その上で、飽きがこないように「アボカド焼き」のような鶏以外の串や、趣向の異なる鶏料理のサイドメニューを充実させていくことで、「酒のアテだけでなく、食事に使える焼き鳥店という、今までにない部分を補完する業態になっていきました」と話します。 一番の誤算だったのが「ファミリー層」一番の誤算だったのが「ファミリー層」 しかし、開業後しばらくは家族連れの客入りが少ないという誤算も。「やはり焼き鳥店は子どもを連れていく場所じゃないというイメージが強かったようで、ファミリー層の集客が意外にハードルが高かったです」と当時を振り返ります。 「やきとり家すみれ」店内イメージ(一例)(画像:すみれ) そこで、子どものドリンク無料や、立ち上げに携わった焼肉店「牛角」で子どもから人気の高かった「塩ダレキャベツ」を食べ放題のお通しにするなど、子ども歓迎をアピール。それらを目にしたリピーターの人たちが家族を連れてくるようになりましたが、「家族で焼き鳥外食」が根付くまで時間を要したそうです。 やきとり家すみれの特徴を語る上で外せないもののひとつに、「大山どり」の存在が挙げられます。使われている鶏は「そこまで?」といいたくなるほど、隅から隅まで大山どりのオンパレード。ラーメンスープの白湯(パイタン)の鶏がらに至っても同銘柄鳥を使用しています。 「牛肉にしても豚肉にしても、産地が頭について地域ブランド化が進むなか、スーパーでは『若鶏』が鶏肉の代名詞の時代。家族連れをターゲットとするならば、お母さんたちが子どもに食べさせるのに安心安全と思ってもらうことが必要と思い、大山どりという銘柄を打ち出しました」(湯澤さん) 大山どりに白羽の矢を立てた理由は、高級フランス料理店でも使われている味の信頼性に加え、生産の一貫体制も大きな要因でした。ひよこを購入した場合、それ以前にどのようなストレスがかかっているのかわからないところ、一貫体制であれ産卵の段階から品質管理ができ、おいしさの安定につながります。また、通常のブロイラーと比べて肥育日数が長いことから、身が大きくジューシーなことも選定理由にあったそうです。 湯澤さん自ら毎度参加するという新メニューの選定についても、トレンドを取り入れつつ、ターゲット層を考えた「遊び心」や食事との相性も加味するなど、その戦略はブルーオーシャンに留まりません。 時間のかかる串うちの効率化や、最も難しいとされる焼きの技術に差が出ないように「検定制」を儲けるなど、外食店の立ち上げや経営で培ってきたノウハウもさまざまに取り込まれています。 次の5年で300店舗が目標、その戦略は?次の5年で300店舗が目標、その戦略は? 100店舗を達成した今、次の目標は5年で300店舗とのこと。しかし、既に集客効果のある駅近に出店していることに加え、人手不足も飲食業界の抱える大きな問題。同じ業態でそこをどう乗り越えていくのでしょうか。 湯澤社長が最もお気に入りのメニューという「ひなトロ」。手羽の付け根部分に近いいわば「肩」の部分と胸肉を合わせた串。脂ののったこってりした味わいと、さっぱりとした胸肉の味わいのコンビを楽しめる(画像:すみれ)「店を増やすのであれば、調理リスクを減らすことが肝要です。作りづらいとか、盛り付けによって安っぽく見えてしまうとか、そういうメニューが多いと店によって味わいにもばらつきが出てしまいます。働く人も学ぶのに時間がかかってしまい、その期間は給料も安いし大変で、嫌になって辞めてしまうのはそこの時期なんですよね。ですから、その時間をできるだけ短くすることと、なるべく人に頼らないよう作業を最大限効率化することも必要と思っています」(湯澤さん) また、パートや学生のアルバイトも多いため、「メニューと一緒で、人に合わせた働き方に我々がシステムを変えて行くことが大切」と湯澤さんはいいます。 出店場所については、駅近の路線は崩さない方針とのこと。 「最近、秋津(東村山市)というところに出店して、開店前は立地的に大丈夫か心配したのですが、坪売り上げでトップクラス。商圏が広くて、さまざまな人がやってくる地なので意外と人通りが多いのです。そういう駅がまだまだあるはずと考えています。 加えて、調布に2号店を出したところ、お客さんが二分されるのではなく、双方合わせた売り上げが横浜店をしのぐ勢いになったんですね。渋谷や新宿みたいなビッグタウンだけでなく、出口が何か所もあるような大きな駅は2号店もアリだと思いました。そういうところも狙っていけば、目標達成できるのではないかと思っています」 100店舗目となる千歳船橋店は、8月31日(土)にオープンしたばかり。次なる目標、300店舗に向かってどんな大海原を勢いよく泳いでいき、焼き鳥ラバーにさらなる楽しみを与えてくれるのでしょうか。その戦略に期待が寄せられます。
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