吉高由里子が好演 ドラマ『知らなくていいコト』は東京の街歩きガイドとしても秀逸だった
主人公の週刊誌記者が務める出版社は 2020年冬ドラマ注目作のひとつ、日本テレビ系『知らなくていいコト』(水曜22時)は、今や「お仕事」ドラマの女王的存在になった吉高由里子の主演作です。 今回の彼女はスクープを狙う週刊誌記者という役どころ。亡くなる直前の母親から、父親が誰でも知っているハリウッドスターだということを明かされ、それが人生最大の「知らなくていいコト」なわけです。このドラマに関してはウェブでもさまざまな視点からの記事を数多く見かけます。 放映中の人気ドラマ『知らなくていいコト』番組ホームページ(画像:日本テレビ) さて、例によってロケ地を見て行きましょう。もちろん非公開の場所も多いのですが、吉高扮(ふん)するケイトの勤務する出版社は日本橋兜町にある日証館ビルです。これまでも『イノセンス冤罪弁護士』などでも使われてきた重厚な建物です。 2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で吉沢亮が演じる明治時代の財界の重鎮・渋沢栄一の旧宅跡に、横河グループ創設者・横河民輔が設立した横河工務所により1928(昭和3)年に建てられたもの。1998(平成10)年に耐震補強されましたが、築90年を超えた歴史的建造物です。 この建物は東京証券取引所の東隣にあり、最寄りの駅は東京メトロの茅場町。現在は賃貸オフィスになっているようです。 一説には横浜の日本郵船ビルとの情報もあったようですが、日本テレビのインスタグラムなどを参考にすると、入り口のアーチの形が少々、違います。また旧三井物産横浜ビルという説もありましたが、どうやらやはり日証館ビルのようです。 しかし改めて気がついたのですが、テレビドラマのロケ地情報は真偽不明のものも含めてウェブ上に乱立している感じもします。 渋谷・松濤が高級住宅街となった経緯渋谷・松濤が高級住宅街となった経緯 さて、彼女が勤務する出版社以外にも興味のあるロケ地が現時点でも多いのですが、この作品は遠いところでは平塚、宇都宮、横浜、千葉・いすみ、それに東京も新宿、大森、下谷、月島、自由が丘、青山、笹塚、辰巳などと多岐に亘っています。これほど多いと、東京ガイドブック的にこのドラマを楽しむという見方もあると言えそうです。 東京を舞台にした映画やドラマは、「東京」を知るための有効なテキストといえるのかもしれません。 そういえば第2話の「DNA婚活」取材のシーンは、渋谷の松濤にある「TRUNK BY SHOTO GALLERY」の内部を使っていました。イベントやウエディングなどにも使えるマルチスペースです。 渋谷といえば数年前から「奥渋谷」と呼ばれるトレンドスポットになっています。「オクシブ」という呼称もいつの間にか定着していますが、地名でいうと神山町、宇田川町、富ヶ谷の辺りを指します。 「奥渋谷」のひとつである神山町(画像:(C)Google) 松濤は「オクシブ」よりも西側に位置し、東急百貨店本店(渋谷区道玄坂)の西側といえばいいでしょうか。最寄り駅は京王井の頭線の神泉駅、駒場方面へ歩いていくと左手は円山町になります。 道路1本で相当、街のキャラクターが違いますが、松濤は紛れもなく東京を代表する高級住宅街です。かつては紀州藩の下屋敷があり、明治時代に旧佐賀藩主の鍋島家に譲渡され、ここで茶園を開きました。その名前が「松濤園」。これが松濤の由来です。その後、果樹園や農場も作られ、鍋島家の本邸が築かれます。 鍋島松濤公園(渋谷区松濤2)は茶園の一部を児童遊園として、戦前に東京市に寄贈されたもので、現在は渋谷区の管理になっています。遊水地を中心に色とりどりの草花が訪れる人を楽しませてくれ、渋谷近辺でも珍しい湧き水のひとつです。 当時この公園の周囲が200坪単位で分譲されたのですが、購入時に紹介者が必要だったということもあり、政府の高官、軍の幹部、大企業の重役クラスが集住し、高級住宅街になっていったのです。忠犬ハチ公で有名な東京帝国大学教授、上野英三郎もここに居住していました。 フレンチやイタリアン、シェアオフィスまでフレンチやイタリアン、シェアオフィスまで しかし「オクシブ」にもおしゃれな飲食店が散見できるように、松濤のかいわいにもずいぶんとフレンチやイタリアンを始めとした飲食店が増えているようです。 もともとこのかいわいにはBunkamura(渋谷区道玄坂2)、渋谷区立松濤美術館(同区松濤2)、戸栗美術館(同2)などもあり「松濤文化ストリート」と称しての活性化が図られていましたが、そこにまた新たな要素が付加されて行っているようです。 2019年12月にオープンしたコワーキングスペース「WORK COURT」(同1)もそのひとつ。都内にも増えているフリーランサーや起業家がオフィスとして利用するシェアオフィスが、とうとう松濤にも、といった感じですが、代々木方面へ延びる「オクシブ」は西側にも拡張していくのかもしれません。 ドラマ『知らなくていいコト』にも登場した渋谷区松濤の「TRUNK BY SHOTO GALLERY」(画像:(G)Google) 映画やドラマは時には街歩きの「イントロ」になることがしばしばあります。それが見て楽しむ以外の効用です。 吉高由里子が出演した映画やドラマで印象に残っているのは、2013(平成25)年に公開された映画『横道世之介』。小説家・吉田修一の同名作品の映画化でした。 当時、筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)はコンテンツツーリズムの研究を始めていて暗中模索の日々が続いていましたが、吉田修一の作品は優れたテキストでした。特に彼の出身地である長崎を描いた『長崎乱楽坂』『7月24日通り』は、舞台をたどって長崎の街を歩いたことを思い出します。 吉田修一は法政大学の出身で、『横道世之介』には主人公・横道世之介も長崎から上京し同大に就学する設定。主人公が外濠公園(千代田区富士見~紀尾井町)を法政大学まで歩くシーンがあります。 この映画では法政大学の市ケ谷キャンパス(同区富士見)がロケ地になっています。そしてその作品に登場する吉高由里子は、世之介と付き合う清楚(せいそ)で純真なご令嬢の役でした。 それにしても彼女は女優としてずいぶん成長したという印象を受けます。放送中の『知らなくていいコト』も、ぜひいろいろな視点から楽しんでみてください。
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