ボス恋・恋つづ・わたナギ……令和の人気ドラマが「胸キュン」だらけになった当然の理由
「胸キュンドラマ」などと称される恋愛ドラマが好調です。2021年3月16日に最終回を迎えたTBSテレビ系ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』も高視聴率をマークしました。なぜ今、こうした作品が人気なのか? ライターのふくだりょうこさんが解説します。東京を舞台に胸ときめく恋愛模様 2021年3月16日(火)に最終回を迎えたTBSテレビ系ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』。 東京の大手出版社を舞台に、上白石萌音さん演じるヒロイン・奈未と玉森裕太さん演じる宝来潤之介との甘いラブシーンだけでなく、間宮祥太郎さん演じる奈未の先輩で編集者・中沢涼太の真っすぐな思いも視聴者の心を掴みました。 心ときめく“胸キュン”な恋愛ドラマが好調な昨今。なぜ人気を集めているのか?(画像:写真AC) 一時期は落ち込み気味だった恋愛ドラマですが、近年は再び本数を増やしています。特にTBSの火曜22時枠では多くの名作恋愛ドラマが誕生しました。 この枠は長らくバラエティー番組が放送されていましたが2014年からはドラマ枠が復活。2016年の『ダメな私に恋してください』以降は恋愛ドラマが中心に制作されています。2020年は放送された4本すべて恋愛ドラマとなりました。 東京など華やかな街を舞台に、主人公たちが胸ときめく恋を演じる作品の数々。なぜ今、恋愛ドラマが再び増えて、女性たちの心を掴んでいるのでしょうか。 多様な女性の生き方を描く 恋愛ドラマ、とひと言で言ってみてもヒロインである女性像はさまざまです。 例えば、『恋はつづくよどこまでも』(2020年1~3月)の佐倉七瀬はある男性医師にひとめぼれし、もう一度会いたい一心で看護師になります。 『私の家政夫ナギサさん』(同年7~9月)の相原メイはキャリア重視派で恋愛は後回し。『この恋あたためますか』(同年10~12月)の井上樹木は元アイドルで夢をなくし無気力に生きるフリーターでした。 「これは私かもしれない」という共感「これは私かもしれない」という共感 3作品だけ取り上げてみても、ヒロインの多様性が分かります。 ドラマだから少し誇張されて表現される部分はあるにせよ、「恋に一生懸命な女性」も「仕事が第一で恋が後回しの女性」も「何もかも失って無気力になってしまっている女性」も、自分かもしれませんし、自分の友人にいる女性像かもしれません。 その女性たちがどのように成長し、恋愛をして、幸せを掴むのか、というのは興味深いもの。 多くの作品の舞台となった東京に住む人ならもちろん、東京以外の場所に住む女性たちにとっても、「これは私かもしれない」「これはあの子のことかもしれない」と自分を投影しやすくなるのでしょうか。 世の中に“悪い人”は多くない? 上記に挙げた作品に共通するのは「意地悪な女性」がいないということ。ヒロインとウマが合わない女性もいますが、それは本人にポリシーがあってのこと。決して悪意があって何かを仕掛けるというこがありません。 視聴者も「私ならちょっと意地悪なことを言ってしまうなあ」というときでもポジティブな反応を見せます。 作中で描かれる恋愛も一筋縄ではいかない。落ち込んだり立ち直ったりを繰り返す(画像:写真AC) 恋のライバルが現れたとしても、「どうにかして好きな人のことを奪ってやる!」ということもありません。「私は私なりのベストを尽くすから、あなたもがんばってね」のスタンスなのです。 そもそも、卑怯な手を使ってライバルが恋の戦いに勝利するシーンがあったとしたら、視聴者としては「そんな女性に心を動かされるなんて、人を見る目がない男性だったのでは?」「そんな相手と付き合わなくてよかった!」となるのです。 ヒロインが魅力的であればあるほど、相手役となる男性も魅力的でなければなりません。ヒロインに自分を投影している分、その気持ちは余計に強くなってしまうのではないでしょうか。 登場人物たちに求められる「正解」登場人物たちに求められる「正解」 ドラマの視聴者は客観的にキャラクターたちを見ることになります。「どうしてこのような発言に至ったのか?」「その言動はそぐわないのではないか」などといったことがわかりやすくなっているのです。 例えば、ヒーローが違和感ある行動をとれば、自然と引っ掛かりを覚えてしまいます。思っていたのと違う、となれば作品に対する熱も急激に冷めていくことになるのです。 佐藤健さん演じる『恋はつづくよどこまでも』の天堂浬は、良い意味で視聴者を裏切り続けました。 常に視聴者が想像するキュンを超えた甘い言動。普段の様子からは予想ができない大胆な一面。次はどんなふうにときめかせてくれるのだろう、と回を追うごとにハードルを上げていき、そのハードルを越え続けたのです。視聴者がトリコになるのも無理はありません。 女性が「ときめき」を公言できる時代 かっこいい男性俳優に夢中になる女性たちに対して、少し前なら「はいはい、イケメンならなんでもいいでしょ」なんてちょっと揶揄するような風潮もあったかもしれません。 そんな反応を敬遠して、恋愛ドラマにはまっていることを公言しないできた女性もいたのではないでしょうか。 「スイーツ」や「お花畑」など、かつてあった女性を揶揄するようなスラングも聞かなくなった(画像:写真AC) しかし、どんなに魅力的なビジュアルだったとしても、間違った行動をとれば視聴者はノーを突きつけます。むしろ、ドラマにおいては中身のほうが重要視されるでしょう(ドラマに出てくる俳優さんは皆カッコイイですから)。 そしてそんなヒーローに対して「かっこいい!」と胸をときめかせるのは悪いことじゃありません。そのように自分たちの感想を素直に発することができるようになった環境は視聴者にとってシンプルにとても嬉しく、楽しいことです。 またそのときめきを、SNSなどを通して共有しやすい環境になっているからというのもあるでしょう。 魅力的なものは魅力的である魅力的なものは魅力的である 魅力的な男性は、女性が支持されるだけではなく、男性からも支持されるということが当たり前になりつつあります。もちろん女性についてもそうです。 また、「魅力的である」とはっきりと声に出して誰しもが発信できるようになったというのはとても喜ばしいことです。 恋愛ドラマだけではなくもポジティブな人間関係やキャラクターを描いた作品は、これからもさまざま登場してくるのではないでしょうか。
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