『踊る大捜査線』のスピンオフ作品『交渉人 真下正義』、実は異色のクリスマス映画だった
2005年公開、舞台はクリスマスイブの東京 2020年もあと残りわずか。クリスマスが近づいてきました。昔からクリスマスを題材にした映画やドラマ、歌は数多くありますが、やはり目立つのはロマンチックな恋愛ものと言ったところでしょうか。しかしここでは、それとはちょっと色合いの異なるものを振り返ってみたいと思います。 『交渉人 真下正義』は、いまから約15年前の2005(平成17)年5月に公開された映画です。主演はユースケ・サンタマリア。警視庁初の交渉人という役どころでした。当時かなりヒットしましたし、テレビでも放送されたりしているので、見たことがあるという人も少なくないかもしれません。 『交渉人 真下正義』(画像:(C)2005 フジテレビジョン、KDDI) 物語の舞台は、クリスマスイブの東京。地下鉄の運行システムが何者かによってダウンさせられ、最新鋭車両が遠隔操作により無人で走行し始めるという乗っ取り事件が起こります。このまま行くと他の車両との衝突事故が起こりかねない。さらに犯人が複数の爆弾を東京の各所に仕掛けていることもわかってきます。そして犯人は、交渉相手として真下を指名してきます。 注目される前のムロツヨシも出演 見どころは、なんと言っても真下と犯人の緊迫感あふれる頭脳戦です。 頭脳で勝ることを誇示したい犯人は、電話でのやり取りのなかでクイズのような謎を投げかけ、真下を挑発してきます。そのヒントが実在する映画のタイトル、音楽家の名前、小説のタイトルになっていて、それらの作品や人を知っていればいっそう楽しめること請け合いです。 また虚実が入り交じってはいるようですが、路線図に乗っていない「脇線」と呼ばれる線路の存在など、地下鉄のあまり知られざる部分が鍵になっているという点でも興味をそそるストーリーになっています。 都心の路線図イメージ(画像:写真AC) 脇役陣の充実も、特筆されます。鉄道のプロとして真下と対立しつつも、最後は互いに認め合う地下鉄総合指令室長・片岡を演じる國村隼、真下と対照的に勘頼みで口も悪いが、実は信頼関係の厚い刑事・木島役の寺島進、爆発物処理班班長役の松重豊、さらに運行ダイヤ編成の達人、通称「線引き屋」の熊沢を演じる金田龍之介など、どのキャラクターも存在感たっぷりです。 また意外なところでは、現在ほど有名ではなかったムロツヨシが、この映画をきっかけに親しくなったという小泉孝太郎とともに出演しているのもちょっとしたお楽しみです。 『踊る大捜査線』からの強い影響『踊る大捜査線』からの強い影響 ところでご存じの人も多いでしょうが、『交渉人 真下正義』は人気刑事ドラマシリーズ『踊る大捜査線』(フジテレビ系、1997年放送開始)の本編から派生したいわゆるスピンオフ作品になります。 ミュージシャンでバラエティーのイメージが強かったユースケ・サンタマリアが俳優としての才能を認められたのも、『踊る大捜査線』出演がきっかけでした。『交渉人 真下正義』も、本編で脚本を担当した君塚良一が原案(脚本は十川誠志)、演出を担当した本広克行が監督を務めています。また本編の主要キャストのひとり、柳葉敏郎演じる室井管理官も真下の上司役で登場します。 『踊る大捜査線』は、刑事ドラマの歴史のなかでもエポックメーキングな作品でした。刑事ドラマの古典『太陽にほえろ!』(日本テレビ系、1972年放送開始)が刑事ひとりひとりの心情にスポットを当てていたとすれば、『踊る大捜査線』は「警察官もサラリーマンである」というコンセプトのもと、警察組織をリアルに描いた点で画期的なドラマでした(君塚良一『テレビ大捜査線』)。 1998年公開の映画踊る大捜査線 THE MOVIE(画像:(C)1998 フジテレビジョン、KDDI) そこには普通の企業と同じように、学閥や出世競争もあれば、上層部と現場の対立もある。そんな新しい描き方は、後の刑事ドラマに多大な影響を与えました。 後への影響という意味では、まさに『交渉人 真下正義』がそうですが、スピンオフというジャンルを定着させたこともあるでしょう。いまやスピンオフは作品の世界を多面的に描く常とう手段になっています。 東大卒キャリアの活躍 ほかにも『容疑者 室井慎次』(2005年公開)などがある『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ作品は、質量ともに際立ったものがあります。 2005年公開の映画『容疑者 室井慎次』(画像:(C)2005 フジテレビジョン、KDDI)『踊る大捜査線』では、真下は織田裕二演じる刑事・青島俊作の同僚で、東大法学部卒のキャリアというエリート。ノンキャリアの青島とは対照的な立場でありながら、ともに捜査に当たるうちに刑事としても一人前になっていくという役どころでした。 恋愛要素も押さえた作風恋愛要素も押さえた作風 もうひとつ『踊る大捜査線』で真下がフィーチャーされるのは、水野美紀演じる柏木雪乃との恋愛模様です。最初はずっと真下の片思いだったのですが、その後交際するようになり、この『交渉人 真下正義』では真下がとうとう彼女にプロポーズします。 実はそのことが事件ともかかわる重要なサブストーリーになっていて、クリスマスものに欠かせない恋愛要素がきっちり押さえられている作品でもあります。 東京のクリスマスイメージ(画像:写真AC) そして最後は無事爆発も回避されて事件は解決、めでたく真下のプロポーズとなるのですが、犯人の正体についてはひとつ謎が残されます。見る人によって解釈が分かれそうな結末の描き方です。その部分は深読みの面白さもあるでしょう。 クリスマスを背景に事件が起こるという点ではブルース・ウィリス主演の映画『ダイ・ハード』シリーズを連想させるものがありますが、個人的には日本でももっと多彩なクリスマスものが増えればいいと思います。『交渉人 真下正義』は、その貴重な一作と言えるでしょう。
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