年々高まる「理数教育」の存在感 未来のノーベル賞候補を生むために日本は何をすべきか
子どもたちの「算数・数学離れ」は本当か 近年、子どもたちの算数・数学離れを耳にすることは珍しくありません。 文部科学省が2007(平成19)年度から始めた「全国学力調査・学習状況調査」では、全国の小学6年生と中学3年生を対象に、国語と算数、英語と数学のテストがそれぞれ行われています。 調査では上位にランクインした自治体に毎年注目が集まりますが、一方、生徒児童のアンケートも同時に行われています。 数学の授業イメージ(画像:写真AC) 2020年度は新型コロナウイルスの影響で実施が見送られましたが、2019年度までのアンケート結果をみると、算数または数学を好きだという生徒児童の割合は年々増加しています。 2019年度では算数または数学が好きかどうかという問いに、小学6年生の68.7%、そして中学3年生の58.1%が「当てはまる」「やや当てはまる」と答えています。 また、「算数の勉強が大切」「算数が社会に出てから役に立つ」と答えている割合も2019年度は小学6年生の9割以上に上っています。 そして中学3年生の84.2%は数学の勉強が大切と考え、社会に出て役に立つと考えているのは全体の76.1%と増加傾向が続いており、「算数と数学離れ」という世間的なイメージとは程遠い状況です。 求められる理科の実用性の訴求求められる理科の実用性の訴求 一方、算数や数学と異なる結果が出たのが理科です。 3年ごとに実施される理科の直近アンケート結果(2018年度)によると、理科が好きだという割合は算数に比べて高く、小学6年生では83.5%、中学3年生では62.9%となっています。 しかし「理科の勉強は大切」と考える児童生徒は算数・数学より低くなっており、特に顕著なのは「社会に出てから役に立つ」の項目です。 小学6年生の73%、そして中学3年の56.1%が大人になってから理科の知識が役に立つと考えているものの、2019年度の算数・数学のアンケート調査と比べて低い数値になっています。 理科の授業イメージ(画像:写真AC) ただ、日本では高校1年生が調査対象となるPISA(経済協力開発機構〈OECD〉生徒の学習到達度調査)の結果でも、日本の高校生の数学的リテラシー、科学的リテラシーは世界的にも高いことがわかっています。 私立大学の学部別の志願者数も、理系が極端に減少しているわけでもなく、理科や算数、数学が嫌いな子どもたちが増えているわけではありません。 多くの小中学生が数学の大切さを理解していることを考えると、理数教育の充実を図るに、理科の大切さや実社会でどのように役立つのか理解させる機会を増やすことが課題だと言えます。 理数教育がこれまで以上に重要視されている背景には、科学技術が発達した現代社会で最先端技術が国の運命を左右する大きなカギとなっているからです。 子どもたちが理系科目を敬遠したり実社会で役に立たないと考えたりして、理系学部を選択しないと、技術開発を支える人材が減少し世界との競争力が低下します。 科学技術は知的財産であり、特許権などで収入を得ることも可能です。収益を設備投資にまわし、新たな産業や雇用を創出することで経済も活性化していきます。 理数教育に力を入れている東京都理数教育に力を入れている東京都 グローバル化が進み、競争相手は日本国内はもとより世界となりました。 現在日本の教育現場で求められるのは、激しい国際競争に耐えうる優秀な理系出身者を輩出する環境を整えることです。 そうしたなか、東京都では2012年度に「東京都理数教育振興施策検討委員会」を設置し、翌年度から、小中学校合わせて100校を2年間の期間限定で「理数フロンティア校」に指定しました。また、同時に創設したのが「東京科学ジュニア塾」です。 2019年度「東京科学ジュニア塾」の募集案内(画像:東京都教育委員会) 東京科学ジュニア塾とは、公立の小学6年生と中学1~2年生を対象に科学の専門家による指導や講義を行うプログラムです。 過去には2000(平成12)年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏を迎えた講義が行われています(2020年度は新型コロナウイルスの影響で全て中止)。 自治体との連携強化が必須自治体との連携強化が必須 前述の「理数フロンティア校」の制度は現在形を変え、理科に特化した「理科教育支援推進事業」に継承。推進地域を選定し、各自治体が特色ある理科教育の推進を図っています。 八王子市では2019年度、工学院大学(新宿区西新宿)や東京工科大学(八王子市片倉町)と連携して「中学生理科教室」を実施しました。 また、2016年度からは「東京都小学生科学展」が日本科学未来館(江東区青海)で開催。都内の理科好き児童たちの研究結果が展示発表されています。 日本科学未来館(画像:写真AC) 理数好きな子どもたちを増やしていくには、こうした自治体での地道な取り組みは必要不可欠です。机上の勉強だけでは優秀な人材育成につながりません。 算数や理科の実用性を子どもたちに意識させることも、理数教育を充実させていく上で重要なカギとなります。 「すぐには結果が出ない」という理解も 理数教育に限らず、すぐに結果は出る学問はありません。科学技術を担う人材育成は10~20年、もしくはそれ以上かかります。長い年月をかけながら実施していくことが必要です。 繰り返しになりますが、理科に対して「好き」という気持ちを持っている子どもたちの割合は決して低くなく、世界的に見ても日本の数学と科学的リテラシーは水準が高く、理数教育を推進していくための意欲や学力も備わっています。 プログラミングを行う子どものイメージ(画像:写真AC) 東京都のように自治体が独自の理数教育を継続して行っていけば、ノーベル賞を受賞できるような人材が育つことも決して夢ではないです。
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