都内で人気の「猫専用マンション」 レンタル開始2年で見えてきた課題とは
圧倒的に少ない「ペット飼育可」の賃貸物件 家庭で飼われている猫は今や犬より多く、その数はおよそ997万8000匹に上ります(2019年10月時点、ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査 2019年版」)。 ブームという域を超えて、今やすっかり日本に定着したように思われる猫人気。猫を飼いたいと考える人が増える一方、ネックとなっているのが住宅の問題です。 一戸建てなら基本的に好きなペットを飼えますが、集合住宅なら分譲マンションであってもペット飼育禁止の物件はざらにあります。それが賃貸ともなれば、なおさらです。 試しに、「借りて住みたい街ランキング」でトップ3の常連である世田谷・杉並・新宿3区内の賃貸物件を有名不動産情報サイトで検索してみましょう。 アラサー女性ひとり暮らしと想定して「家賃7万円以下(管理費込み)」「駅徒歩7分以内」「25平方メートル以上」「2階以上」という4条件を設定すると、ヒットするのは約140件。ところがこれに「ペット相談可」を加えると、一気に10件足らずにまで減ってしまいます。その良しあしまでは問わないものの、ほとんどは築30年以上の部屋です。 室内のキャットステップで遊ぶキジトラの猫(画像:写真AC) 築年数が古い、駅から遠い、間取りが小さいなど、なかなか入居者の決まらない部屋に付加価値をつけるためにオーナーが「ペット相談可」とするケースは、賃貸業界で少なくなりません。 ただ、例えば10数平方メートル程度のコンパクトなワンルームで猫を飼うとなると、完全室内飼育が推奨されているなかで猫が運動不足になってしまう恐れもあります。駅までの距離や築年数など、飼い主である人間側もいくつかの我慢を強いられることになります。 「猫好きによる猫好きのための」マンション内観とは「猫好きによる猫好きのための」マンション内観とは 猫を飼っている、もしくはこれから飼いたい、という人が増え続けているなかで、さらに東京23区内では単身世帯がすでに全体の半数以上を占めているなかで、借り手のニーズと合致した「猫OK賃貸物件」はまだまだ少ないというのが現状のようです。 人にとっても猫にとっても、快適に暮らせる物件を――。そんな理念で2018年4月に誕生したのが、不動産仲介サイト「ネコリパ不動産」。 「猫好きによる、猫好きのための」を自認し、仲介・管理業務を担って間もなく2周年を迎えます。この間に得られた成果、そして見えてきた今後の課題について、同サイトを運営するイノーヴ(板橋区成増)の葛西真理恵さんに話を聞きました。 ネコリパ不動産で仲介・管理している板橋区成増の物件(2020年2月28日、遠藤綾乃撮影) インタビューに先立って訪れたのは、同社から徒歩圏内にある同区成増の「猫共生型」をうたうマンションです。 2018年11月に完成した計22部屋は2020年2月現在、満室御礼だそう。コンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュな印象の外観です。 入居者がいるため室内を見ることはかないませんでしたが、同物件の特徴は「猫専用ドア」や「脱走防止の二重ドア」「壁に取り付けられたキャットウォーク」「猫トイレ置きスペース」など、猫と人間が一緒に暮らすのに便利な室内インフラがこれでもかと整備されていること。 飼育可能な猫の数は部屋ごとに2~4匹と、希少な多頭飼育OKの物件です。高低差のある傾斜に立地しているため、各部屋の天井高は4~6mもあるのだとか。室内に階段があるメゾネットタイプなので、空間を縦に広く使えることも縦移動が好きな猫にとってのメリットとのことでした。 それぞれの部屋に設けられた南向きの大きな窓辺には、早春お昼どきの日差しを受けてくつろぐ猫たちの姿が。ザッと眺めただけでも4匹も確認できました。おそらく飼い主たちは皆、このポカポカな窓辺の一等地に猫のためのベッドを置いてあげているのでしょう。 二の足を踏む物件オーナーに伝えたいこと二の足を踏む物件オーナーに伝えたいこと 2018年4月のサイト立ち上げから業務に携わる葛西さんにとって、当時も現在も変わらない最も重大な課題、それは「猫と暮らせる物件が圧倒的に少ない」ということ。 ネコリパ不動産では新築・リノベーション物件を合わせてこれまでに数十件ほどを紹介し、次々と成約を果たしてきました。 一方で「ペット(猫)OK」物件は絶対的に少なく、部屋の日当たりや風通しなど猫にとって欠かせない要件を厳格に見定める同社がサイトに登録できる件数は、月に1、2件が精いっぱいというのが現状といいます。 「猫OKの賃貸物件を探している人はここ数年で明らかに増えていて、実際そういった物件に住まれる人は、飼い猫に対して常識的なしつけが行き届いているという人がほとんどです。きれいに室内を使っていただけますから、退去時に部屋が大変な状態になってしまっているような例は、少なくとも当社の場合はごくごくまれです。 それでもどうしても、物件のオーナーさんは『ペット(猫)OK』とすることで室内がダメージを受けて物件価値がのちのち下がってしまうのでは、と二の足を踏まれることが少なくないようです」(葛西さん) 「ネコリパ不動産」2年間の取り組みを振り返る葛西さん。猫のぬいぐるみとともに(2020年2月28日、遠藤綾乃撮影) 同社はこうしたオーナーの不安を払しょくするため、入居時に全10か条に及ぶ「猫飼養規則」を入居予定者に提示。「室内を猫の爪研ぎ、マーキング、ふん尿などで損耗させる」ことなどの禁止事項を明示し、違反した場合には退去、と定めています。 さらに、飼っている猫の顔写真入りプロフィル書(年齢、性別、体の模様、避妊・去勢手術をした年月日など)を提出してもらい、同社としても飼育されている猫を常に把握しているとのこと。 「殺処分ゼロ」達成が今後の大目標「殺処分ゼロ」達成が今後の大目標 こうした飼育ルールの厳格化に加えて、オーナーに対しては、猫OK(とりわけ多頭飼育)の物件が少ない今なら、ひとたび借り手が決まれば長期にわたって住み続けてもらえるといった「メリット」を伝え、地道に件数の確保に取り組んでいるといいます。 そしてもうひとつの課題はやはり、家賃が決して安くないという点です。 先に紹介した板橋区成増のマンションの場合、猫向きインフラが行き届いた新築デザイナーズとあって家賃は平均相場より2~3万円ほど高い11万円前後。 物件の希少性から強気の家賃設定ができ、実際に次々と入居が決まるのは物件オーナーにとってこの上ないメリットですが、物件を探す側にとって、例えば「ひとり暮らしの20~30代会社員」にとってはなかなか手の出しづらい額であることは否めません。 葛西さんは、 「今、猫OK物件は手に入りにくい状況です。猫を飼いたいという人が増えている現状をもっと多くのオーナーさんと共有し、飼育可能な部屋が増えていけば、多くの人にとって選択肢となりうる家賃に落ち着いていくと考えています。 そもそも当社が猫物件を扱う理由は、『猫の殺処分ゼロ』を達成する一助になりたいとの思いから。今後いっそう貸し手側に向けた啓発活動をすることで、少しずつ物件数を増やしていきたいと考えています」 と今後の展望を話していました。 同社の業務提携先であり保護猫活動事業を展開するネコリパブリック(岐阜市)が掲げる目標は、「2022年2月22日までに日本の行政による猫の殺処分をゼロにする」こと。目標期限まで2年を切る今、より多くの人と問題意識を共有し、「保護猫を引き取りたい」という思いに応えるインフラ(猫OK物件)のさらなる供給が期待されます。
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