液体ミルクを使うことは「母親失格」? いまだ根強い批判、いったいなぜなのか
今春からの解禁されるも、「楽をするな」「母乳育児が一番だ」という批判的な意見がいまだに寄せられる「液体ミルク」。そんな現状に対して、自身も現在0歳児を子育て中の筆者が自身の見解を述べます。「母乳育児が一番だ」は本当か 2019年の春から日本での発売が解禁された液体ミルク。現在は江崎グリコ(大阪市)と明治(中央区京橋)のみの取り扱いにとどまっていますが、この2社に続き、6月末には雪印メグミルク(新宿区四谷本塩町)も製品化の意向を表明しました。今後も各メーカーの取り扱いは拡大していくと見られています。 粉ミルクとは異なり、液体ミルクは常温での保存が可能でお湯を必要としません。そのため外出時だけでなく日ごろの授乳時にも非常に有用だと、多くの母親が支持しています。 その一方で「楽をするな」「母乳育児が一番だ」といった“液体ミルク批判”の声も少なからずあるのが現状。現在0歳児を子育て中の筆者がさまざまな点から液体ミルクや「母乳神話」について見解を述べます。 “災害時のために”という大義名分 2018年8月、乳製品の表示法を定めた乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令、厚生労働省)の改正により、解禁された液体ミルク。解禁されるや否や、東京都は同月、災害時の液体ミルクを含めた指定物資の調達について、イオン株式会社と協定を結びました。さらに日本小児科学会災害対策委員会も、大規模災害時における乳児栄養の確保を目的に、液体ミルクの国家備蓄に関する要望書を内閣府に提出しています。 液体ミルクに対する批判はいまだ根強い(画像:写真AC) 多くの母親から、子育ての軽減負担の面で注目されている液体ミルクですが、行政や学会の後押しを受けて市場に出回っているのは、あくまで“災害のため”という大義名分付き。一方、日本小児学会は液体ミルクの備蓄についての注意点も促しています。それは、 ・高温下で保存しないこと ・期限切れや破損がないか確認すること ・開封後はすぐに使用し、飲み残しは使用しないこと などです。そして、液体ミルクは母乳代替食品であるため、災害時だとしても乳児に推奨されるのは「あくまで母乳」だということ。 液体ミルクの解禁を喜ぶ声とともに、商品のパッケージに書かれていた「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」の一文に違和感を覚えた母親も少なくないことでしょう。メディアで液体ミルクの特集が組まれる際にも、「母乳育児をベースに」「便利だからという理由で本来不要なミルクを使うことは避けて」と断言する専門家に、批判の声が集まる事態も起きています。 いつの時代も「ずるい」を向けたい人がいるいつの時代も「ずるい」を向けたい人がいる そもそも、液体ミルクのパッケージに「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」と書かれているのは、消費者庁が記載を義務付けているためです。また医学的根拠から母乳育児を推進する専門家は、決してミルク育児をする人を批判したいわけではないでしょう。しかし、行政や専門家が「母乳は良い!」と言うほど、母乳が出ずに悩む女性の苦しみは助長されます。一方、一般の人が流布する“母乳神話”も彼女たちを苦しめるのです。 ママが液体ミルクを気軽に手に取れる日はいつなのか(画像:写真AC) 筆者はこうした母乳神話の背景には、他者に対する「ずるい」という深層心理が働いているように感じます。自分は苦労しているのに、他人が苦労しないなんて許せない。誰かが楽をしたり楽しそうにしていたりする姿を見たくない。 母乳育児をしてきた人は自分の経験や苦労を等しく他人にも求め、育児をしていない人は自分の仕事や人生における苦労を育児当事者に求める。強すぎる母乳神話には、そんな理不尽な構図があるのではないでしょうか。 筆者は息子を出産時、母親から言われて愕然(がくぜん)としたことがあります。それは、「20数年前、あなたに紙おむつを使っていたら『布おむつを使わないのは愛情がない証拠。母親失格だ』と散々言われたのよ。布おむつは高価だったのもあるけど」という母自身のエピソード。おむつを使い捨てるなんて楽しているから母親失格だ、という論調は珍しくなかったそうです。 いつの時代も、新しい考えや子育てを便利にする道具を「母親の愛情の度合い」と結びつけて批判する人は一定数います。そしてかつての母親たちが、そうしたわけのわからない“愛情計測人”の「謎理論」に屈することなく、胸を張ってきてくれたおかげで、今の紙おむつの便利さを私たちが受け取っているのでしょう。 母乳も粉ミルクも液体ミルクも愛情いっぱい母乳も粉ミルクも液体ミルクも愛情いっぱい 筆者自身は10か月の息子を母乳で育てていますが、ミルク育児をする友人を見るにつけ、その苦労には頭が下がる思いです。液体ミルクも粉ミルクに比べたら楽とはいえ、購入や備蓄の手間、開封やゴミの処理など、母乳に比べたらそれなりに工程はあります。さらに、現状は粉ミルク以上に金銭的な負担は大きい。 粉にせよ液体にせよ、赤ちゃんを生かすために、毎日昼夜問わずお金と手間をかけるミルク育児。こうした苦労を軽視し、「母乳でないと母親失格」という母乳神話は、母乳育児をする筆者さえ呆れてしまいます。「母乳も粉ミルクも液体ミルクも全部等しく愛情満タンなんです」と屋上から叫びたい。母乳神話を見るにつけ、そんな気持ちになってしまいます。 そして子育て当事者に必要なのは、「楽してずるい」「愛情が足りない」という視線を向けてくる人たちに対して、胸を張ることなのかもしれません。そうした批判に対して、「だから?」という姿勢を貫くことで、今の紙おむつ同様、これからの液体ミルクも当たり前の社会になっていくと思います。
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