近年はガチャイベントで消費喚起も――コロナ禍でどうなる「日本酒」消費?
コロナ禍で外食産業は大きなダメージを受ける一方、おうち需要の高まりから自宅でのアルコール商品の消費が伸びています。それらの現状と関連イベントについて、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。ステイホームで増加した酒の消費量 新型コロナウイルス感染拡大による3回目の緊急事態宣言のなか、酒類の販売は大きく落ち込んでいます。飲食店への休業・時短要請によって、納入する食材のメーカーも大きな打撃を受けていることは周知のことでしょう。 酒類は特に影響を受けている業界のひとつです。3月から5月にかけての年度の変わり目やゴールデンウィークの時期は大きな宴会が多く、本来は酒類の販売のかき入れどきでしたが、国や自治体からの宴会の自粛要請によって例年通りとはなりませんでした。さらに、今回の緊急事態宣言では飲食店における酒類の販売自体が自粛となり、大きな打撃となっています。 その一方で緊急事態宣言下のステイホームによって家での酒類の消費は増えました。総務省の家計調査から家計における酒類の年間支出金額を見ると、コロナ禍だった2020年は4万6276円で、前年の4万721円と比較して13.6%増加しています。飲食店での減少分をカバーできるほどではないでしょうが、これに注目した酒造メーカーでは家飲みでの酒類の販売促進に力を入れています。 酒類の年間支出金額の内訳を月別に見ると、コロナが感染拡大して全国に最初の緊急事態宣言が出された4月以降、ウイスキー、ワイン、発泡酒、チューハイは前年同月比で20%以上増加しており、これらの酒類の家での消費が増えたことがわかります。ウイスキーは50%以上増加した月も見られ、さらに増加傾向が続いており、特に人気であることがうかがえます。一方、清酒も当初は20%程度の増加が見られましたが、これらの酒類ほど伸びは継続しませんでした。 近年はウイスキーやハイボールがブームで、チューハイではアルコール度数の高いストロングゼロが評判でした。主に大手飲料メーカーが販売していることもあって、幅広い層をターゲットにした目を引く新製品が次々に発売され、頻繁に人気タレントを起用したTVCMが流れたり、女性誌などで家での料理とのペアリングを提案するコラボ記事が掲載されたりして、露出も多くなっていました。コロナ禍ではこのような酒類が家飲みに選択されることが多かったのでしょう。 飲むブランドが固定されがちな日本酒飲むブランドが固定されがちな日本酒 わが国では地方ごとに多種多様な日本酒の酒蔵が存在しています。しかし、小規模な蔵が多く、他の地域では流通していない日本酒も多々あります。むしろ全国的に知名度のあるような大規模な蔵はごくわずかでしょう。 日本酒のおちょこ(画像:写真) また、日本酒は比較的飲むブランドが固定されると言われています。居酒屋では一般的にメジャーなブランドが置かれがちです。身近な酒だけに安心して飲める安定感のあるブランドがよいのかもしれません。 同様に身近な酒で飲むブランドが固定されがちなビールですが、今はマイクロブルワリーのブームでさまざまな種類のビールを都心でも気軽に試せるように環境になってきました。近年は日本酒もスパークリングや無ろ過、洋酒だるでの熟成など、さまざまな製法の製品が流通してきており、味わいが多様化してきています。 海外での日本酒人気も継続しており、コロナ収束後に戻ってくるであろうインバウンドも視野に、日本酒になじみの薄い人も含めて気軽にさまざまな地域の日本酒に触れることのできる機会が望まれています。 都内で行われる日本酒イベント 例年ならば東京でもさまざまな日本酒の利き酒イベントが開催されていました。2020年から2021年にかけては残念ながらコロナのために中止や延期、縮小したイベントが多くあります。 過去に行われた「CRAFT SAKE WEEK」のイメージ(画像:グライダーアソシエイツ)「CRAFT SAKE WEEK」は2016年から六本木で開催されている日本酒のイベントです。中田英寿氏が主導して、酒、フード、酒器、スイーツ、空間が一体となった日本酒の世界が体験できるイベントになっています。 「和酒フェス」は500人規模を80人限定に規模を縮小して、「ミニ和酒フェスin茅場町」として2020年11月28日に開催されました。なかにはコロナの感染拡大がやや沈静化した際に開催できたイベントもありました。 「TOKYO SAKE FESTIVAL」は国内最大級の日本酒イベント。2020年の8月11日から16日まで新宿の新宿住友ビル三角広場(新宿区西新宿)で開催されました。ゲームやタレント、さまざまな業態と日本酒がコラボし、多くのゲストタレントが参加して、特に日本酒好きでなくても楽しめる多彩な内容になっています。 2021年6月5日(土)には全国32蔵のさまざまな味わいの約100種の日本酒が楽しめる「Tokyo SAKE Collection2021」が神田明神ホールで開催予定ですが、今のコロナの感染状況が改善されないと開催は危ぶまれます(5月30日時点)。 イベント終了後には後夜祭と銘打って、ゲストタレントがセレクトしたお酒を一緒に楽しむことができるオンラインイベントも予定されています。コロナが収束して、早く例年通りにイベントが開催できる状況になることが望まれます。 オンラインでは「酒ガチャ」サービスもオンラインでは「酒ガチャ」サービスも コロナ禍で苦境にある日本酒業界を盛り上げようと、さまざまなオンラインイベントも行われています。 2020年は10月1日の酒の日や12月31日のカウントダウンにリモートを駆使してみんなで一斉に日本酒で乾杯する乾杯イベントが実施されました。また、蔵開き(酒蔵見学)をオンラインツアーで行う酒蔵も増えました。 おおむねのツアーの流れは参加者に事前にその蔵のお酒が届き、家でお酒を味わいながらリモートでリアルタイムに酒蔵見学をするという趣向。海外の人も含め遠方からの参加が可能であり、自宅でくつろぎながら参加できる気軽さもあって、オンラインならば参加したいと考える人も少なくありません。 顧客の裾野の拡大につながるのではないかと期待され、力を入れるようになっています。地元ならではの酒のさかなやオリジナルのグラスもしくはおちょこがセットで送られてきたり、蔵元や杜氏(とうじ)が直接質問に答えてくれたり、蔵人(くろうど)以外入れない場所も見られたりと、通常の酒蔵見学よりも特別な体験ができます。 久保田(朝日酒造)や菊水(菊水酒造)など、著名な酒蔵でも行われています。小規模な酒蔵のオンライン酒蔵見学をサポートするプラットホームも出てきており、酒蔵見学のシーズンである春先にはさまざまな酒蔵でオンラインツアーが実施されました。地域のオンラインツアーに組み入れられることも度々です。 過去に行われた「酒ガチャ」イベント(画像:リカー・イノベーション) また、オンラインでは「酒ガチャ」といった新しいサービスも見られます。ランダムでお酒を詰め込んだお買い得BOXで、何が届くのかわかりません。なかにはSR(スーパーレア)やSSR(スペシャルスーパーレア)、LR(レジェンドレア)と呼ばれる希少なお酒が含まれることもあります。自分の好みに合わせてもらうことも可能。日本酒だけには限りませんが、新たな日本酒との出会いがあるかもしれません。オンラインによって名前も知らない地方の酒蔵を知る機会が増えたと言えるでしょう。 ますます家飲みでの需要が重要になっています。ご興味のある方はオンラインイベントに参加してはいかがでしょうか。
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