人情か利便性か、はたまた刷新か 新型コロナ禍で「駅前商店街」は今後どうなる?
現在、新型コロナ収束後の社会や経済のあり方について、さまざまな議論が行われています。今回は「商店街」という視点からそのあり方について、IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザーの百瀬伸夫さんが解説します。商店街を訪れる人が増加 現在のコロナ禍で、今後の社会や経済のあり方が問われる事態となっています。私たちが暮らす街は今後どのようになったらよいのか、今回は「商店街」という観点からひも解いてみたいと思います。 2020年4月7日(火)の緊急事態宣言以降、都内の主要繁華街から人の姿がすっかり消えました。一方、生鮮店が複数立地する近隣の商店街には、食料品を買い求める客や長引く自粛に飽きたり、運動不足を補ったりするために訪れる人が増加しています。 板橋区の駅前商店街でも、生鮮品や生活必需品を求めてスーパーマーケットやドラッグストア、100均ショップに多くの客が集まっていました。商店街は街頭アナウンスを通じて、複数人ではなく単身での来街と「3密」防止への行動を呼びかけています。 「おばあちゃんの原宿」として人気の巣鴨地蔵通り商店街(画像:百瀬伸夫) またポスターやチラシ等を作成し、不要不急の外出自粛、買い物時のマスク着用、手洗い・消毒の励行、飛沫(ひまつ)対策、ソーシャルディスタンスの確保など、感染防止への啓発を行っています。 さらに全てのイベントを中止し、セールなどの販促活動も自粛。営業時間を短縮した店舗やパチンコ店などの臨時休業店の数は、6割に上るといいます。 古き良き雰囲気が失われつつある商店街古き良き雰囲気が失われつつある商店街 今回のコロナ禍で、都内にある多くの商店街がニュースに取り上げられましたが、そもそも商店街の現状はどうなのでしょうか、簡単に触れていきましょう。 商店街の業種構成は現在、インターネットの発達やライフスタイルの変化にともない、飲食・サービス業が6~7割となり、物販店を大きく上回っています。 また店主の高齢化や後継者の不在などを理由に、自営する店舗が年々減り続けています。有名商店街はチェーン店などのテナント比率が7~8割となっており、さらに増える傾向にあります。 都内有数の規模とにぎわいを誇る武蔵小山の商店街では、2019年にひとつの再開発が完成し、さらに三つの再開発プロジェクトがある(画像:百瀬伸夫) このように商店街の業種構成が大きく変化する中で、昭和レトロの雰囲気も徐々に失われつつあります。しかし今回のコロナ禍で、地元の人たちは都心の繁華街では味わえない人情味や「身の丈サイズ」の居心地の良さを再認識したのではないでしょうか。 五輪関連の開発で増した東京の魅力 東京オリンピック・パラリンピックは2021年に延期となりましたが、急ピッチで進められた東京の都市開発は一段落。「高輪ゲートウェイ駅」の新設や、鉄道各社の駅舎やホーム、コンコース等がきれいになり、快適で便利な東京の魅力はますます高まりました。 また「消滅可能性都市」に名指しされた豊島区は、池袋を芸術・文化の街として再生する取り組みが成果を生みつつあり、100年に一度の大規模再開発事業に取り組む渋谷駅周辺地区の様変わりには驚かされるばかりです。 街の発展は商店街と再開発との共存共栄から街の発展は商店街と再開発との共存共栄から 一方、都内の商店街の多くは木造密集地区にあり、建物の老朽化が進んでいることから、東京都は再開発などによる建物の不燃化プロジェクトを推進しています。 品川区の武蔵小山駅や大田区の蒲田駅の周辺などでは、商店街の一部を取り込む再開発や共同建て替え事業が進められています。 しかし商業者の利益を守らなければならない商店街と、マンション住民の利益を優先する再開発事業との「共存共栄」が新たな課題となっています。 京浜急行線蒲田駅付近の高架化にともに、駅前再開発ビルと交通広場が完成。商店街では共同建て替え工事が進行中(画像:百瀬伸夫) 地域価値を高めるためには商店街の「親しみやすさ」を残しつつも、再開発によって誕生する商業施設の「近代性」と協調していく必要があります。 商店街にも個性が求められる時代 都内の有名な商店街を見ると、浅草、アメ横、谷中、柴又などは観光・インバウンドに特化し、活況を呈してきました。 「おばあちゃんの原宿」の巣鴨、「サブカルとオタク」の秋葉原、「道具街」の合羽(かっぱ)橋、「もんじゃ」の月島、「若者と劇場」の下北沢などは、それぞれが分かりやすいテーマに絞ることで個性を発揮し、近隣だけでなく全国各地や海外からも客を集めています。 また、交通アクセスの良い武蔵小山や蒲田のように、商店街(近隣型商業)と再開発(ショッピングセンター型商業)が一体化したハイブリッド型の商店街も増えています。 しかし、 ・どのような人が訪れているのか ・どのような人に立ち寄ってもらいたいのか ・どのように個性を発揮していくのか といった戦略下できめ細かな対応をしなければ、これからの商店街は生き残っていけません。 東京の名所となった、月島の「もんじゃストリート」。湾岸地区の高層マンション群との対比が時代を感じさせる(画像:百瀬伸夫) 都内の商店街を支えてきたのは、商圏人口の多さにあります。しかし生鮮などの最寄り品を除いて、多くの分野で都心の商業地やネット通販に購買機会を奪われています。 また、都心から外れた場所でも、商店街の家賃は高止まり傾向にあり、かつ商店街会費やアーケード使用料などの負担もあるため、有名商店街に出店できるのは賃料負担力のある大手チェーン店などに偏りがちです。 人通りの多い駅前商店街は「通行量」と「売り上げ」が必ずしも直結しないケースがあり、イベントでにぎわっているからといって、売り上げに結びつくとはいえないのが厳しい現実です。 「居場所」と「回遊」から始まるまちづくりへ「居場所」と「回遊」から始まるまちづくりへ 駅前商店街は今後、厳しさの中でもさらなる進化を続けていくのではないでしょうか。その理由として挙げられるのが、東京都が進めている鉄道の連続立体化(線路の高架化・地下化)事業の推進です。 連続立体化事業の目的は、危険な踏切を取り除き、地区内を自由に安全に通行できるようにすることです。高架化や地下化にともない、鉄道各社は東京都や地元区とともに駅舎や交通広場を整備し、交通アクセスを改善、駅前を広くきれいにしています。 さらに再開発が加わることで、商店街の「親しみやすさ」と新たな商業施設による快適さが提供され、街の魅力が一段と増します。 古い街並みの取り壊しを惜しむ声はありますが、再開発によりマンションの住民が増え、商店街を中心に路地や裏通りにもお店が点在するようになると、居場所が増え回遊する楽しみも出てきます。 鉄道各社も「沿線まちづくり」に力を入れるようになりましたが、街の魅力が高まれば「住みたい街のランキング」にも選ばれていくでしょう。 問われるコミュニティーの質 一方、「憧れの街」に住む夢を追うよりも、「住める可能性の高い、日常の買い物に便利で住みやすい街」の人気が急上昇するなど、現実を直視する時代になりました。 そこで大事にしたいのがコミュニティーの「質」だと思います。コミュニティーを「居場所」と置き換えてもよいのですが、ネット上ではないリアルなサークルや、オンライン上の集まりなど、実に幅広い「場」が存在する中で、若い人や多様な人たちが気軽に集まりつながって、まちづくりに参加している地区の人気が高まっているようです。 東急目黒線の地下化にともない、新しくなった武蔵小山駅に直結する再開発商業ビルの広場には大型ビジョンとエスカレーターが新設された(画像:百瀬伸夫) 今回のコロナ禍で経験したテレワークや外出自粛から、家にいる時間をいかに有効に使うか、自分が住む街の居心地や利便性・安全性はどうかなど、自分ごととして地域の魅力に関心を持たれた人も多いはずです。 「Stay Home」は、幸せな生き方やライフスタイルとは何か――を見直す契機となりました。またリモートワークの経験は社会全体に、働き方への意識転換をもたらしました。 コロナ禍で始まったさまざまな体験から、ひとりひとりが住む街のあり方やまちづくりに興味を持ったら、街の景色も違って見えるのではないでしょうか。
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