Peachが首都圏で本格始動、まだハードル高い「空旅」気軽に楽しむ心得とは?
航空会社のPeachが、首都圏での運航を本格スタートさせました。目下の課題は、知名度の向上とさらなる利用者の獲得です。「まだLCCに乗ったことがない人」にとってのハードルとは、どのようなものがあるのでしょうか。五輪目前、LCC業界は戦国時代? LCCに乗ったことはありますか? Low-cost carrier(ローコストキャリア)の略称で、独自のコストマネジメントや事業戦略によって低運賃を実現した航空会社のことです。日本でも2012年から本格的に運航が始まりました。 インターネット調査会社のアンケートによれば、LCCを「知っている」と答えた人は回答者の83.8%。そのうち「利用したことがある」は17.2%で、利用経験者の割合は年を追うごとに増え続けています(マイボイスコム、2018年9月実施)。 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を目前に控え、日本のLCC市場はまさに群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)。 たとえば2019年11月、関西空港などを拠点に売上を伸ばしてきたPeach(大阪府泉佐野市)はバニラエアとの経営統合を果たし、成田空港を主とする首都圏での運航を本格的にスタートさせました。 統合によってPeachは、ジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)を抜いて国内LCC最大手に。まだ知名度の低い首都圏での浸透を急ぐとともに、海外LCC勢の日本進出を迎えうつ先鋒役も担うことになりそうです。 首都圏での運航を本格始動させたPeachの飛行機(画像:Peach) 業界は目まぐるしい情勢を呈していますが、私たち消費者にとってはお得に乗れる飛行機が増えるのは大歓迎です。 実際、チケットの値段がどのくらいなのかを調べてみると、たとえば上記のPeachの場合、 ・成田空港―新千歳空港:4590円~ ・成田空港―福岡空港:4890円~ ・羽田空港―仁川国際空港(韓国):5680円~ 従来の航空会社と比べると、格段の安さです。気軽に払えそうな運賃で九州や北海道、さらにはアジアへも行かれるのなら、旅行先の選択肢は今までにないほど広がるはず。 これほどのお得感があるのならLCCの利用者はもっともっと増えて良いのではと感じますが、前述した通り実際に利用したことのある人の割合は今のところ十数%程度。まだまだ伸びる余地があるように思えます。 「成田は決して遠くない」は、本当か「成田は決して遠くない」は、本当か 首都圏に住む人にとって、LCCに対する心理的ハードルを上げている要因のひとつとしてよく指摘されるのは、現在多くのLCCの便が発着している「成田空港が遠い」という点です。 首都圏の大田区にある羽田空港が比較的身近な半面、成田空港はそこへ行くこと自体がすでに小旅行のような感じがぬぐえません。この距離感が、LCCの気軽さという特長を薄めてしまっているように感じます。 しかし、「成田までは都心から直行バスが出ていて、乗車時間も1時間程度。しかも料金は1000円」という話を旅行上手の知人から聞きました。それぐらい気軽に空港まで行かれるのなら、LCCを選ぶメリットはグッと高まるように思います。 「成田まで行く苦手意識」を克服すべく、試しに直行バスを使って空港まで行く道のりを体験してみることにしました。 東京駅の八重洲南口改札近くから発着している、成田空港行きのJR高速バス(2019年12月7日、遠藤綾乃撮影) 2019年12月7日(土)午前10時半。東京駅の八重洲南口改札目の前にある「JR高速バスターミナル」発の成田空港行き直行バスに乗り込みました。乗車切符は事前にインターネットで予約済み。料金は聞いていた通り、ぽっきり1000円です。 行き先は成田空港第3旅客ターミナル。2015年4月にオープンしたLCC専用のターミナルです。 当日の気温は6度。冷たい雨が降るあいにくの天気ですが、大きな旅行カバンやキャリーケースを持った人たちで車内は8割ほどが埋まっていました。定刻を1分遅れで出発したバスは、首都高都心環状線の宝町インターチェンジ(IC)から高速に乗り、隅田川を渡って一路、千葉方面へ。 車内ではいろいろな方言の会話がにぎやかに漏れ聞こえてくるほか、中国語の楽しそうなおしゃべりも。結露でくもる窓ガラスの外は今季一番の冷え込み。暖房の効いた座席でくつろいだまま乗り換えなしに目的地へ直行できるというのは、心理的にも体力的にもラクチンです。 出発20分後に東京ディズニーランド(千葉県浦安市)の横を走り過ぎるときには、ほかの乗客と一緒になって記者もスマホのカメラを差し向けてみました。 街のカフェに寄るような気軽さで街のカフェに寄るような気軽さで 東関東自動車道を東京湾沿いに走行したバスは、湾岸千葉ICを過ぎたあたりで大きく左へカーブすると、あとは分岐もなく千葉県内陸をひたすら成田空港方面へと北上します。その後20分ちょっとで、バスはあっという間に成田空港第3ターミナル前へと到着しました。 東京駅からの所要時間は1時間ちょうど。小旅行的な乗車ルポを展開しようと思っていた出鼻をすっかりくじかれてしまうあっけなさでした。 「今日はまだ空席がある方でしたかね。ちょっとずつ(1000円高速バスの)認知度が上がっているみたいで、早くに予約で埋まることもあるし、当日券目当てに停留所で待っている人もけっこういますよ。これからの季節、冬休みや年末年始なんかは、このバスで成田から出掛ける人が多くなりますね」(バスの男性運転手) ちなみに今回乗ったバス以外にも、京成電鉄のスカイライナーやJRの成田エクスプレスなど、成田空港へのアクセスはいろいろ選択肢が広がっているよう。思っていたほどには苦にならない距離感だということを今回体感しました。 バスを降りて、雨よけの屋根付きの通路に沿って2階へ上がれば、そこはもう第3ターミナルの建物入り口です。入るとすぐに各LCCの手荷物預け場所。その奥にはお土産の売店と、大型のフードコート、それから国内線・国際線の搭乗口がありました。 せっかくなのでフードコートを見て回ると、スタンド(立ち食い)式の握りずしやたこ焼き、お好み焼きといった日本っぽいお店から、洋丼、ハンバーガー、カフェまで、日本人客にもインバウンド客にも受けそうなメニューがいろいろです。気軽に乗れるLCCと親和性の高いファストフードが多く出店していて、ふらっと街中のカフェに立ち寄ってそのまま旅行へ出発するようなフレンドリーさがありました。 日本人客もインバウンド客も、大勢がくつろいでいた成田空港第3ターミナルのフードコート(2019年12月7日、遠藤綾乃撮影) ここまで来たのだから、成田を飛び立つLCCの飛行機を見ていこうと思います。屋根付きの外路を10分ほど歩いて、JAL便などが発着する第2ターミナルへと移動。北側の展望デッキからはターミナルの屋根越しに第3ターミナルの発着便を望むことができます。離陸準備をするPeachのフーシアピンクの機体も見つけることができました。 毎日乗る電車のように、気軽な飛行機に毎日乗る電車のように、気軽な飛行機に 国内LCC首位となったPeachにとって、最重要の課題はやはり首都圏での知名度の向上、そして新たな乗客の獲得です。 最近ではテレビ朝日系の人気ドラマ「おっさんずラブ -in the sky-」の撮影・監修に協力していて、全機内のシートポケットには期間限定で同作とのコラボリーフレットも配置。試しにツイッターで「おっさんず ピーチ」などと検索すると、ドラマファンらしきユーザーによる「ピーチに乗ってみた」という書き込みがいくつも見つかりました。 ドラマは翻訳されてアジアでも放送されているため、就航路線のあるアジアの国々への訴求にも一役買っていると言えるかもしれません。 Peach全機の客席に設置されている、ドラマ「おっさんずラブ -in the sky-」とのコラボリーフレット(画像:Peach) 飛行機と聞くと運賃が高くて手続きが難しく、どちらかといえば非日常というイメージがまだまだ根強いように思います。そのイメージを払拭して旅をもっと身近なものにしたいというのがPeachの理念。「空飛ぶ電車」をコンセプトに掲げ、毎日当たり前に乗り降りしている電車と同じくらい気軽に利用してもらえるように、との取り組みを展開しているそうです。 たとえば空港でのチェックインは乗客自身が行い、座席の指定や飲食物も別料金。その代わりに気軽な運賃で利用できる、という仕組みです。一方で航空会社として攻めの戦略も欠かしません。国内航空会社でPeachが唯一就航している「成田―奄美」「成田―石垣」(2019年12月26日から)路線もそのひとつです。 「運賃が安いのなら『安かろう、悪かろう』で安全面も不十分なのでは」という世間の漠然としたイメージに対しても、次のように説明。 「Peachの飛行機は、すべて欧州エアバス社のA320型機です。単一機種にすることで整備作業の煩雑化を避け、故障や遅延などのトラブル軽減につなげるよう努力しています。さらには中古機ではなくすべて新造機(車で言う新車)を使用しています。結果として故障が少ないなどメンテナンスのコストを抑えられ、低運賃の実現につながっています。また機体の更新も約8年と比較的短い期間で行っています」(同社広報担当) 現在、利用客のメインは旅行好きな若い女性とのことですが、便利な使い方はほかにもいろいろ。単身赴任の男性が、離れて暮らす家族の元へ、従来の航空運賃なら年数回がやっとだったところを、LCCを使って毎週のように帰宅できるようになったという声が寄せられたこともあったそうです。 国内はもちろん国外・アジアでさえ、今や日帰りで気軽に行ける旅行先になっています。休みの日はだいたい家にいる出不精・インドア派な記者も、ちょっとトライしてみたくなったのでした。
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