ドラえもんが愛してやまない「どら焼き」は新宿西口にあった
現在のどら焼きはパンケーキみたいなもの? 筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)の最近のお気に入りは、どら焼きです。和菓子スイーツの定番だけあって、コンビニごとに特徴があります。カロリーは高めですが、日本人がこよなく愛するアイテムのひとつといえるでしょう。 11月27日の『ドラえもん』0(ゼロ)巻発売を記念して作られた「てんコミドラステッカー」(画像:小学館) 筆者のお勧めは、セブンイレブンの「ふわっとどら あんバタークリーム」です。セブンイレブンはどら焼きの品ぞろえが多く、新商品を次々と開発している印象があります。 どら焼きの「どら」の由来については、 ・形状が打楽器の銅鑼(どら)に似ている説 ・弁慶が銅鑼の上で生地を焼いたといった説 など諸説ありますが、実際のところよくわかっていません。 江戸時代のどら焼きは現在のような円型ではなく、一枚皮で端の部分を折りたたんだので四角だったといいます。生地も現在のようにふかふかしておらず、材料の最初は米粉で、その後小麦粉になったそうです。つまり現在のきんつばに近く、きんつばの大きいものを銅鑼に見立ててどら焼きと呼んだそうです。 明治時代以降、どら焼きの生地はホットケーキの影響を受けて進化しました。基本的には卵と砂糖、そこに重曹を混ぜて薄力粉と合わせて焼くのですが、最近はホットケーキミックスを使う家庭も多いようです。 そのため、ホットケーキミックスを使ったどら焼きは、「パンケーキの一種」ということになるかもしれません。先述した「ふわっとどら あんバタークリーム」では、バタークリームという洋風のものを餡に添えているのです。最近ではヒップクリームからモンブラン仕立てのものまで登場しています。 関西では、どら焼きを三笠と呼ぶ関西では、どら焼きを三笠と呼ぶ 関西では、どら焼きを「三笠」と呼称するようです。外見が奈良県の三笠山(若草山)に似ているためで、長崎県から東京に進出してきた老舗の文明堂では、ずばり三笠山という商品名で販売されています。 どら焼き似と言われる奈良県の三笠山(画像:写真AC) ちなみに東京の「三大どら焼き」は、 ・亀十(台東区雷門) ・うさぎや(台東区上野) ・黒松本舗 草月(北区東十条) です。 筆者は2016年、料理研究家のwatoさんとともに『きょうのごはんは“マンガ飯”』(旭屋出版)というレシピ本を出版。そこでマンガの中に出てくる料理を幾つか再現しました。 本の表紙には漫画『ドラえもん』に出てくる「ドラバーガー」を再現しました。ドラバーガーは、どら焼きの生地でハンバーグを包むものです。甘みのある生地がハンバーグとマッチして、意外とおいしかった記憶があります。 ドラえもんがどら焼き好きを公言したのは何巻からか さて『ドラえもん』に出てくるどら焼きは、藤子・F・不二雄が新宿西口ハルク(新宿区西新宿)にある「時屋」に通っていたことから着想されたといわれています。 この店は1948(昭和23)年創業の和菓子の老舗で、どら焼きには小・中・大・スペシャルという4種類の大きさがあります。また甘味店も営業しているので、そちらでは生クリーム入りのどら焼きを食べることもできます。「時屋」は和菓子屋の前に時計屋だったので、店名やどら焼きの焼き印にその面影が残っています。 「時屋」の外観(画像:写真AC) さて、ドラえもんにどら焼きが初めて登場するのはコミックス3巻の「スケジュールどけい」です。決められたスケジュール通りの行動を強制してくる「スケジュールどけい」という道具に、ドラえもんは振り回されてしまいます。その間にのび太は、ドラえもんの分までおやつのどら焼きを食べてしまうという始末です。4巻の「友情カプセル」で、ドラえもんはどら焼きが大好物だという発言をしています。 どら焼きから見える、日本食の可能性どら焼きから見える、日本食の可能性 ドラえもんがどら焼きを好きになったのは、ロボット学校の同級生であるノラミャー子の存在あってこそです。彼女はドラえもんと仲が良く、卒業後の就職を決めるオーディションの前日、自信のないドラえもんにどら焼きをプレゼントしました。ドラえもんにとって、どら焼きは初恋の味がするのかもしれません。 11月27日に発売された『ドラえもん』0(ゼロ)巻(画像:小学館) 33巻の「地底のドライ・ライト」では、ドラえもんが会社の社長になって、社長室の隣に「どら焼き食堂」を作るという妄想シーンがあり、そこでどらバーガーのほかにも、ドラどん、ドラステーキ、ドラさしみ、ドラカレーなどが登場します。 これらは非現実ですが、方向の違いこそあれコンビニの店頭を彩るバリエーション豊かなどら焼きは、日本の食文化のイノベーションを感じさせます。 すしやおにぎりなど、日本食は新たな具材や調理方法に工夫を行うことで新規性が加味されていきます。現在の静かなどら焼きブームの行方に注目していきたいと思っています。
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