子どもの個性そっちのけ? 自ら「公立小移民」に志願する、都内保護者の業深さ
東京都内の小学校は、公立であってもさまざまな特色を持っているようです。何としても希望の小学校に子どもを入学させたいと考える保護者に向けて、現状の行政施策や注意すべき点などを教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。どうしても希望の公立小へ通わせたい保護者たちへ 小学校から私立小に通わせる経済的な余裕はないけれど、中学受験を考えてより良い公立小に通わせたい――そう願う保護者は少なくありません。その傾向は年々拍車が掛かっていて、子どもの就学を控えるママの間では学区の小学校の雰囲気や問題行動をする児童の有無、越境方法の情報交換が盛んに行われているほどです。 入学式に出席する児童のイメージ(画像:写真AC) 東京都心部での公立小の児童数は、今後さらに増加していくと予想されています。そのため確実に希望する小学校に通わせるには、学区内への転居が唯一の方法になるかもしれません。 今回は、東京都教育委員会の報告書から見えてくる今後の公立小動向や、学区内越境に寛容な中央区の取り組みについてなどを紹介していきます。 公立小の児童数増加が「入学競争」に拍車を掛ける 2018年11月に東京都教育委員会が発表した「平成30年度 教育人口等推計報告書」によって、23区の公立小の児童者数が今後も増加傾向にあることが明らかになりました。区内でも屈指の文教地域でもある文京区では2013年度に7068人だった児童数が5年後の18年度には8913人になるなど、増加の一途を辿っています。さらに23年度には1万906人まで増えることも報告書は予想しています。 東京都23区の公立小学校児童数の推計(画像:東京都教育委員会のデータを基にULM編集部で作成) この傾向は、人気のある公立小を抱える千代田区や港区でも同様で、少子化時代にあっても「わが子にはより良い学区を」と求める保護者の姿が浮き彫りになっています。 ただし、千代田区は越境入学に対して、保護者が同区内で勤務していることや、祖父母の住居があることなど一定の条件を設けています。学校選択希望制を実施している港区では、学区隣接校への通学を認めているものの、児童数によっては許可が下りないこともあります。 希望の公立小へ確実に子どもを通わせるためには、学区内に住むことが一番有効な手段です。そういった背景もあり、都心の公立小に通う児童数が増加しているといえます。 越境入学に寛容な中央区が設けた、特認校制度越境入学に寛容な中央区が設けた、特認校制度 2013年度に児童数が4914人だった中央区では、23年度には9618人と10年間で約2倍に増えると予想されています。 中央区では学区内での越境に寛容な姿勢を持ち、学級編成などで余裕のある小学校を特認校としています。20年度は5校が指定されており、その中の2校を中央区はパイロット校と認定し、特色ある学校教育を実施しています。 城東小学校(同区日本橋兜町)では理数教育パイロット校として早稲田大学理工学部と提携し、科学実験や自然体験を通じて児童の理系スキルを伸ばす教育が行われています。同じくパイロット校の常盤小学校(同区日本橋本石町)では、国際教育として英語学習や日本の伝統文化を学ぶなど、国際人としての素養を高める教育がな実施されています。 月島方面から両学校への通学児童向けのスクールバスが運行されるなど、公立小とは思えない対応をしているのも特長のひとつです。 小学校へ通う児童のイメージ(画像:写真AC) 中央区内で特認小学校への就学を考える場合は、前年度の7月に配布される学校案内を受け取り、9月に各学校で行われる説明会に出席することが義務付けられています。10月には通学を希望する小学校に申請書を提出し、応募者多数の場合は抽選する旨を11月上旬に各家庭に通達し、中旬に抽選を行う流れになっています。そして就学通知書が郵送されるのは12月末。 その間、実に約半年がかりと長期に渡ります。 保護者の「独り善がり」ではないか? 冷静に考えよう 人気のある学区に通わせるメリットは中学受験への意識の高さです。中学受験を考えていても、受験組が少ない小学校では逆に目立ってしまったり「勉強ばかりしている」と陰口を叩かれる懸念もあります。一方でクラスの大半が受験する学校であれば、わが子が浮く存在になることはありません。 教育熱が高く、私立中受験を検討する家庭が多い東京。中学受験を見越し、より良い環境で学力向上を願い、越境入学や学区への引っ越しに熱くなる保護者は増えるばかりです。 しかし、まだ個性を判断することも難しい年長の子どもを抱え、保護者の考えだけで行動に移す難しさもあると筆者は考えます。 子どもが越境入学に順応できるのか、体力面や精神面などから判断することが重要です。「大切なわが子をより良い学区の公立小へ」と保護者が前のめりになることなく、俯瞰的な視点を持って考えることが真の意味で子どものためといえるのではないでしょうか。
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