コロナ禍で撤退相次ぐ外食・アパレル業 もはや「無難」なチェーン店は不必要なのか?
新型コロナウイルスの感染拡大で、大型商業施設や外食チェーンなどを取り巻く環境が激変しています。ECビジネス加速のなか、リアル店舗の行く末とは? 文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。コロナ禍で変わる商業施設 新型コロナウイルスの感染拡大によって、大型商業施設や商業地の様相が大きく様変わりするかもしれません。 近年、東京都心部ではオリンピックイヤーを目標に大型開発が進展し、渋谷や豊洲など大きく都市の様相が変化しました。しかし今は意図的な開発ではなく、望むと望まざるに関わらず繁華街の様相が変化しつつあります。 その変化はすでにコロナ以前から潜在的にありましたが、コロナによってオンライン化が急速に進展、商業施設や商業地を取り巻く環境の変化が加速し、現実味が増してきていると言えるでしょう。 流通業自体はオンライン化にシフトしてさまざまに進化していく未来像が描けますが、リアルの大型商業施設や商業地はこの変化にどう対応していけばよいか、新しい未来がなかなか見通せません。 規模縮小を迫られる外食チェーン 深刻なのはナショナルチェーン(全国的規模でチェーンストア網を確立している飲食・小売企業)の撤退です。 国内のアパレル最大手であるレナウンが、2020年11月27日(金)に破産手続きに入ったニュースは世間に衝撃を与えました。 同社の主要5ブランドはアパレルメーカーの小泉グループ(大阪市)へ譲渡されますが、譲渡の対象外となったブランド店舗はすでに閉店しています。同じく最大手のワールドは5ブランドの終了と358店舗の閉店を決めていましたが、さらに2021年の2月3日(水)に7ブランドの終了と450店舗の閉店を発表しました。 また、ギャル系ファッションでの一世を風靡(ふうび)した「CECIL McBEE(セシルマクビー)」も店舗撤退を表明。そのほかにも「ブルックスブラザーズ」が東京大丸ウイメンズ店をはじめとする国内の10店舗を8月30日までに閉店。 ロードサイド商業地を中心に展開する「洋服の青山」は2021年度中に85店舗を閉店する計画でしたが、さらに80店舗ほど増やす方針で、合計で全店舗の2割にあたる160店舗を削減することになります。また、新たに400店舗の売り場面積縮小を決めました。 コロナ禍によるチェーンの規模縮小は外食産業でもかつてないほど劇的に起きています。 ファミリーレストラン「ガスト」「バーミヤン」などを展開するすかいらーくホールディングス(武蔵野市西久保)は不採算店200店舗の年内閉店を表明しました。ロイヤルホールディングス(福岡市)も「天丼てんや」などの不採算店約90店舗が年内に撤退。九州圏を中心に「ジョイフル」を展開するジョイフル(大分県大分市)も直営店の3割にあたる約200店舗を閉店します。牛丼チェーン大手の吉野家ホールディングス(中央区日本橋箱崎町)は国内外で150店舗を閉店する予定です。 人のいない外食チェーンのイメージ(画像:写真AC) また、飲食業界のなかでも特にコロナの影響の大きい居酒屋チェーンでは、ワタミ(大田区羽田)が2021年の3月までに「三代目鳥メロ」「ミライザカ」などの店舗を中心に114店舗を閉店する予定。「甘太郎」「土間土間」を展開するコロワイド(横浜市)が居酒屋を中心に直営店196店舗を閉店。 そのほかの大手居酒屋チェーンでも思い切った削減が目立ち、外食産業はコロナの影響が大きい産業だけに、感染拡大が長引けばさらなる撤退の可能性もあるでしょう。 「無難さ」があだになる時代「無難さ」があだになる時代 アパレルにしろ、飲食業にしろ、すでに盛況期を過ぎた業態がコロナ禍を機に一気に撤退する結果となっています。ナショナルチェーンは最大公約数的な「無難さ」がある反面、今となっては利用の目的性が低いと言わざるを得ません。 しかし、現在の商業施設はこのようなナショナルチェーンのテナントに支えられている状況です。このようにテナントが撤退しつづければ、商業施設や商業地は歯抜け状態になるでしょう。 コロナが収束すればある程度は回復する見込みもありますが、オンラインショッピングに動いている社会の流れのなかで今までの業態が通用するのか、流通各社は改めて自問自答しなくてはならない岐路に立たされています。 商業施設の「廃墟化」と言うと、かつて滋賀県守山市にある「ピエリ守山」が話題になりました。 同施設はリーマンショック後の景気悪化により運営主体の大和システムが経営破綻、その後の競合もあって相次いでテナントが撤退し、200店舗あったテナントは2013年11月時点で4店舗まで減少しました。 閑散とした「ピエリ守山」。2012年11月の様子(画像:写真AC) 利用者のいない施設内が館内照明に煌々(こうこう)と照らされ、エスカレーターがただ動いている様子は「明るい廃墟」と話題になりました。むしろホラーイベントやサバイバルゲーム・リアル脱出ゲームのフィールドとして使いたいと思った人もいたのではないでしょうか。 2014年に双日商業開発(港区虎ノ門)が運営主体となってリニューアルオープンし、現在はテナントも埋まっています。しかし、当時はこの光景を見て、いずれこうこういう光景が増えるのではと考えた人も少なくないでしょう。 リアル店舗は物流センターに変身? 地方と比較してマーケットの潤沢な東京都内では、商業環境の新陳代謝が進展しています。 改めて東京都内の商業施設や商業地を見渡すと、空きテナントが目立つようになってきました。繁華街では飲食店に加え、アミューズメント系店舗の閉店も多く見られ、速いスピードで様相が変化してきています。 都心部の場合は、チェーンの退店跡に郊外展開の別のチェーンがビジネスチャンスとばかりに出店したり、単独店が出店したりするケースも見られます。 近年の大型開発や業態改革の推進もあって、東京都内の商業エリアのランドマークとも言える、慣れ親しんだ既存の大型商業施設の退店も相次いでいます。東急百貨店東横店(渋谷区渋谷)が2020年3月31日に閉店(渋谷スクランブルスクエア第2期棟としてオープン予定)、ヤマダ電機LABI新宿東口館(新宿区新宿)が10月4日に閉店、三越恵比寿店(渋谷区恵比寿)は2021年2月28日に閉店予定です。 2021年2月28日に閉店予定の「三越恵比寿店」(画像:(C)Google) これからはリアルの店舗の持つ意味が変わってきます。今までのナショナルチェーンに代わるような店舗が次々に出てくるとは限りません。空いたスペースをどのように埋めていくのか、早急にその方法を模索する必要性があります。 今はサービス系など時間消費型業態への転換が検討されていますが、シネコンやフィットネスなど、サブ核として勢いのあった時間消費業態が幾つもあった過去と比較して、大きな面積を専有でき、床負担力のあるテナントは多くはありません。 コロナ禍でオンライン販売や宅配に力を入れるところもありますが、高齢化が進展して郊外への足が遠のくなか、リアル店舗は物流センターの役割を担うようになるのかもしれません。 新しい東京への転換期となるか新しい東京への転換期となるか 一方で、コロナ収束後には回復が期待されるインバウンドの「コト消費(所有では得られない体験や思い出にお金を使うこと)」をターゲットに、内容を変えていくことも考えられます。 コト消費の代表格「旅行」(画像:写真AC) 今はさまざまな新しい時間消費業態が生まれています。しかし、いずれも単独店であったり、そもそも常設ではなかったりして、ナショナルチェーンのように安定して賃料の取れるテナントではありません。今はリスクを取って試行錯誤していかなくてはならないでしょう。 大型複合開発による都市の変化だけでなく、繁華街の様相も含めて新しい東京への変化を垣間見ることができる時期とも言えます。コロナ収束後の動向から今後も目が離せません。
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