都内の「土砂災害危険地帯」は1万5000か所もあった! 熱海を契機に振り返る
静岡県熱海市の伊豆山地区で起きた大規模土石流を契機に、都内の土砂災害について考えます。解説するのはルポライターの昼間たかしさんです。都心部に潜む土砂災害の危険性 静岡県熱海市の伊豆山地区で起きた大規模な土石流。その被害の大きさから、「都内でも同様の災害が起きるのではないか」と危惧されています。 なぜなら、都心部でも土砂災害が発生しやすい山を切り開いたりして開発された地域が多々あるからです。 土砂災害のイメージ(画像:写真AC) 現在、全国では警戒区域が指定されています。そのきっかけは、1999(平成11)年に広島県で起きた集中豪雨により325件の土砂災害が発生し、24人が死亡したことでした。 この制度では。 ・土砂災害警戒区域(イエローゾーン。以下、警戒区域) ・土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン。以下、特別警戒区域) のふたつが定められています。 指定地域は東京都建設局のサイトに掲載 警戒区域とは、土砂災害が発生した場合、住民等の生命・身体に危害が生じるおそれのあると認められた区域であり、市町村は警戒避難態勢の整備を義務づけられています。 また特別警戒区域とは、警戒区域のなかで建築物に損壊が生じ、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれのあると認められるため、開発行為や建築が制限される区域のことを指します。 つまり特に注意すべきなのは、現に人が住んでいる警戒区域となります。 具体的にどの地域が指定されているかは、東京都建設局のサイトで確認できます。 警戒区域・特別警戒区域 区市町村別指定状況図(画像:東京都建設局) 平地の続く足立区や葛飾区、江東区、中央区のほか、武蔵野市では指定地域はゼロですが、そのほかのすべての市町村にはすべて警戒区域が指定されています。このことからも、熱海市の痛ましい災害がひとごとではないことがわかります。 都内の警戒・特別警戒区域は1万5493か所都内の警戒・特別警戒区域は1万5493か所 特別警戒区域は開発が制限されるのに対して、警戒区域は公表されているものの、土地の売買や建物の建築に制限がありません。ようは、危険があるものの自由に売買して家を建てることができるのです。 2021年5月時点で、都内で警戒区域・特別警戒区域となっているのは1万5493か所。最多は八王子市の3670か所です。一方、都心部では港区の210か所を筆頭に、板橋区で149か所、世田谷区で100か所が指定されています。 東京の中心とも言うべき港区は「港区女子」という言葉があるように華やかなイメージですが、こんなに多くの土砂災害の危険地帯があるとは驚きです。 土砂災害には ・急傾斜地の崩壊(がけ崩れ) ・土石流 ・地すべり がありますが、港区の警戒区域は急傾斜地の崩壊が発生しやすいとされています。 この災害は ・傾斜度が30度以上 ・崖地の高さが5m以上 の場所で発生やしやすいとされ、この被害が及ぶ範囲に人家が存在する地域が指定対象となっています。そもそも港区は山がちな地形に都市化が進んだため、危険地域が非常に多くなっているのです。 港区を歩いていると、目的地は目の前にもかかわらず遠回りしなければならない場所がたまにありますが、改めて地形を確認すると、どこもかしこもが崖だらけなのがわかります。 港区の地形(画像:国土地理院) 道路は比較的傾斜の緩やかなところにつくられています。港区の崖は見晴らしのよい住宅地が生まれる利点もありますが、同時に危険もはらんでいるのです。 港区で改修工事の助成枠が10倍に港区で改修工事の助成枠が10倍に 一方、港区では対策も進んでいます。 警戒区域が民有地の場合、崖・擁壁部分の土地所有者が対策を行うことになっていますが、港区では2020年3月まで警戒区域で崖・擁壁の改修工事を行う際、500万円を助成していました。 同年4月からは金額が大幅に引き揚げられ、5000万円を上限として、工事費用の2分の1を区が助成することに。助成枠が実に10倍も拡大されたのです。 さらに港区では、2mを超える崖・擁壁の改修工事を検討している所有者に対して、専門家による目視調査や技術的な助言といった無料サービスも実施しています。 新聞のデータベースで過去20年の記事を確認しましたが、もともと対策も進んでいたのか、港区内では人命にかかわるような土砂災害は発生していませんでした。都内全体を見ても、大雨の影響などで道路や線路脇の土砂が崩れる事故は年に何度か発生しているものの、大規模な事故にはつながっていません。 防災グッズのイメージ(画像:写真AC) 首都圏に大きな被害をもたらした2019年の台風19号の際、江東区・江戸川区など東京東部の低地が浸水するのではないかと危惧されましたが、この際も都内の被害は最小限に食い止められています。 日本の首都ということもあってか、東京は全国の他の地域に比べて災害への備えも手厚いように見えます。 だからといって慢心してはいられません。災害は忘れた頃にやってきます。まだ梅雨の長雨は続きますし、台風もやってきます。今一度、地域のハザードマップをチェックしてみましょう。
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