日本一のお茶どころ・静岡発のティールームが都内に続々出店している理由
牛乳からお茶へとシフトする学校給食 新型コロナウイルス感染拡大で、政府は学校の一斉休校を決定。通常の春休みよりも一足早く、全国の小中高校が3月から一斉に休校しています。 一斉休校は現在も解かれていませんが、そうした休校措置で頭を悩ませているのが、学校給食に食材を提供している農家・酪農家・食品メーカーです。中でも、保存がきかない生乳は大きくクローズアップされました。 しかし、困窮しているのは生乳・牛乳に関連する事業者だけではありません。 日本屈指のお茶どころとして知られている静岡県は、地場産業の振興や郷土心をはぐくむために、静岡県内で学校給食に緑茶を提供しています。 スタイリッシュなお茶のイメージ(画像:伊藤園) 近年の学校給食は、主食がパンからコメを重視する傾向が強くなっていることもあり、静岡県のみならず全国でも提供される飲料が、牛乳からお茶へとシフトする傾向が見られます。そのため、一斉休校はお茶にも大きな影を落としています。 官民一体で茶産業の活性化へ 静岡県のお茶は東京という一大消費地に近いことから、県内のみならず東京近郊でも広く飲用されてきました。しかし、時代が移ると、ライフスタイルの変化からお茶を飲む習慣が失われていきます。 それに伴い、お茶の消費量も減退。静岡の茶産業は危機的な状況を迎えます。こうした難局を打開するべく、官民が一体になって茶産業の活性化を図ります。 渋谷に本社を構える全国屈指の飲料メーカー・伊藤園(渋谷区本町)は1966(昭和41)年、静岡県静岡市でお茶専門商社として誕生しました。 若年層への消費拡大を図る飲料メーカーも若年層への消費拡大を図る飲料メーカーも 伊藤園は静岡県内に大規模な製茶工場を開設して、静岡の茶産業を盛り上げてきた企業のひとつです。 そして、1990(平成2)年にはペットボトル緑茶を世界に先駆けて製品化。ペットボトル緑茶は、伊藤園のみならず多くの飲料メーカーが参入するほどに市場は拡大しています。伊藤園も、日本を代表する一大飲料メーカーへと成長しました。 「ocha room ashita ITOEN」の外観(画像:伊藤園) また、伊藤園は渋谷に飲食・物販・イベントスペース一体型店舗「ocha room ashita ITOEN」(渋谷区渋谷)をオープンさせています。同店舗では、若年層への“お茶の新しい楽しみ方”や“お茶との新しい接点”を提案しています。 都内に増えるティールーム お茶をPRする取り組みは、伊藤園のみならず静岡のお茶メーカーや茶農家も活発に取り組み、市場拡大のため、東京にティールームを出店させる動きが顕著になっています。 牧之原市の老舗茶農園「カネ十農園」はティーサロン「カネ十農園 表参道」(渋谷区神宮前)を、創業100年を誇る藤枝市の茶農家「中村屋」は「NAKAMURA TEA LIFE STORE」(台東区蔵前)を出店。 台東区蔵前にある「NAKAMURA TEA LIFE STORE」の外観(画像:中村屋) このように、静岡の茶産業に携わる人たちが新たな一手を打ち出す動きが加速しています。 茶産業の活性化や市場規模の拡大に取り組んでいるのは、お茶を生産する農家、製造・販売するメーカーだけではありません。 日本版DMO(観光資源を創出するための官民共同組織)の「するが企画観光局」(静岡県静岡市)も、新しいお茶のスタイルを提案しています。 静岡市観光協会を前身とする「するが企画観光局」は静岡市・焼津市・藤枝市・島田市・牧之原市などの地方自治体、各地の観光協会、商工会議所などの経済団体が合同した組織です。 「するが企画観光局」の活動内容は地域の活性化・産業振興など多岐にわたり、お茶に特化した団体ではありません。しかし、ここ数年は、静岡県の地場産業であるお茶を広めることに力を注いできました。 着目された茶畑の立地特性着目された茶畑の立地特性 静岡県内には茶農家や製茶工場があちこちにありますが、茶畑は人里離れた場所にあるのが一般的です。 「するが企画観光局」は、そうした茶畑の立地特性に着目。茶畑の中に“茶の間”と呼ばれる飲茶空間を整備し、静かな茶畑の中で、お茶をゆっくり楽しむことを提案しています。 また、「するが企画観光局」は茶農家・茶師とともに“合組”を体験できるプログラムをつくっています。 静岡県100銘茶協議会会長で、茶師の本多茂兵衛が披露する合組の様子(画像:小川裕夫) 紅茶は、ハーブティーやブレンドティーなどがあり、これらは一般的にも認知されています。実は緑茶にもハーブティーやブレンドに似ている概念や工程があります。それが、茶葉を混ぜ合わせる合組です。 合組を楽しもう お茶の最盛期でもある八十八夜(5月1~2日)を過ぎ、茶業界はこれからが新茶のシーズンを迎えます。茶業界にとって、本来なら今は書き入れ時です。 しかし3月から猛威をふるう新型コロナウイルス禍により、静岡の茶産業も大きな打撃を受けました。特に、観光コンテンツとしても力を入れていた合組や“茶の間”は当面の間は休止です。 静岡市の日本平に広がる茶畑に設置された“茶の間”。天気がよければ、富士山と駿河湾を同時に眺めながらお茶を飲むことができる(画像:小川裕夫) しかし、合組に専門知識は必要ありません。自分で、茶葉をブレンドすることもできますし、市販のお茶をブレンドするだけでも十分に合組を楽しむことができます。そもそも、市販のペットボトル茶はメーカーが合組したお茶です。 飲茶の専用空間として整備された“茶の間”も休止中で楽しむことはかないませんが、近所の公園や河川敷などのお気に入りの場所まで散歩し、そこでお茶を楽しむことはできます。 青空の下でティータイムを青空の下でティータイムを 静岡茶にこだわる必要もありません。東京近郊では狭山茶の生産も盛んで、静岡茶のほか狭山茶も愛飲されています。 静岡の茶畑と富士山(画像:写真AC) また、静岡県に次ぐ荒茶生産量で全国2位を誇る鹿児島県内で生産されているかごしま茶や知覧茶、古来愛飲されてきた京都の宇治茶など、各地に銘茶はたくさんあります。 お気に入りの、その日の気分にあったお茶を選ぶ。そして、自分だけのオリジナル茶をつくり、それをマイボトルに詰めて出掛ける――自己流のお茶の楽しみ方を見つけるチャンスと捉えれば、退屈な外出自粛期間も普段とは違って新鮮に感じられるかもしれません。 外出自粛の折、「遠くに出掛ける」ことや「お金をかけて何かをする」ことは難しくなっています。しかし、青空の下で持参したオリジナル茶を楽しむティータイムは、当たり前のように思っていた日常を優雅でぜいたくなひとときに変えてくれるはずです。
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