坂を上って気軽に健康増進? 東京人にささぐ――東京いい坂、つらい坂
健康増進の鍵となる「坂」 田舎モノの僕はその昔、大都会TOKYOをスーツ姿でさっそうと歩くことに憧れていました。メンズノンノなスーツを着こなし、ピカピカに磨かれた革靴を鳴らして、高層ビル群を足早に駆け抜ける――。 年を取ってしまった今、そんなビジネスマンプレイにはもはや「疲労」しか感じません。人通りの多い駅周辺や交差点はなるべく避けたい。足腰の疲れ以上に、雑踏の景色が目や脳に小さなダメージを与えます。 東京の坂のイメージ(画像:写真AC) 一方で「人生100年」時代な健康ブームもあって、「なるべく歩いて健康に!」なんて風潮があります。変化する社会に適応し続けなければならない、生命体の苦境。「疲れるから歩きたくない」vs「健康のために歩かねばならない」という現代社会が直面する「やや辛」なパラドックスです。 徒歩移動推進派な僕としては、このパラドックスを解決すべく日々思考を重ねています。心身の疲労をためずに、気軽に健康増進したい。そこで鍵となるのが「坂」の存在です。 都内屈指の「癒やし坂」の九段坂都内屈指の「癒やし坂」の九段坂 普段TOKYOの街(平地)を歩いていても、ドラクエウォークのレベルは上がるけれど、足腰の筋肉が増強される感覚は全くありません。健康増進の観点だと平地を歩くだけではダメで、登り坂や階段を上ることこそが、老いた太ももの筋肉を鍛えるのに効果的だったりするのです。 僕らTOKYOの疲れたオトナたちにとって「いい坂」とはどんな坂でしょうか? 題して「東京、いい坂、つらい坂」。せんえつながらいくつかおススメしてみたいと思います。 ●皇居近辺「九段坂」と「三宅坂」 皇居の北側にあるのが「九段坂」です。地下鉄「九段下」駅から「靖国通り」を市ヶ谷方面に緩やかに上る坂。 江戸城の名残を感じるお堀が見え、かつては石垣だったであろう斜面は草木の緑で埋め尽くされています。その下のお堀には水草が敷き詰められていて、カルガモなどの水鳥が優雅に泳いでいます。 九段下交差点から九段坂を見た様子(画像:(C)Google) 自然美豊かな光景を左手にして坂道を軽快に上がると、前方に大きい樹木が立ち並んでいます。靖国神社です。 時間があれば、通りを右折して神社を参拝してもいいし、左折して江戸城田安門をくぐって、大きな玉ねぎの下「日本武道館」近辺を散策してみるのもいいでしょう。 靖国通りをさらに進むと、桜の季節には有名な散歩スポット「千鳥ヶ淵」にたどり着きます。桜咲く春、新緑の夏、紅葉の秋、どんな季節でも四季の自然を感じられる「九段坂」は都内屈指の「癒やし坂」に間違いありません。 一方で皇居の南西側、地下鉄「桜田門」駅からお堀に沿った「内堀通り」も登り坂になっています。「三宅坂」です。北の「九段坂」よりも皇居の中心部に近く、視界一面に皇居の緑が広がっています。 歩道の人通りは少なく、高いビルも少ないため、空が広くて気持ちがいいです。皇居ランをしているオトナとたまにすれ違います。平日日中に走るこの人たちは普段何の仕事をしているのでしょうか。 右手は「江戸城桜田濠(ごう)」と呼ばれ、まるで広大な河川のような存在感で、流れの穏やかな水面には皇居の緑と空の青が映し出されていて、絵画の世界のようです。左手には警視庁、憲政記念館、国立劇場と普段見かけないような建物が立ち並び、建造美も楽しめる「坂」となっています。 創造美に傾倒できる「三宅坂」創造美に傾倒できる「三宅坂」 その建物の中でも、ひときわ目立った建物に出くわします。コンクリートの要塞(ようさい)? 日本のホワイトベース? とも思える、都市伝説風の荘厳な建物。社会の教科書でしか見たことのない「最高裁判所」です。 三宅坂の様子(画像:(C)Google) 正面には何やら人影が。3人もいます。近づいてみるとそれは銅像で、全員裸の女性でした。なぜ、こんなところに3体の裸婦像が堂々とそびえ立っているのでしょうか。自然美のみならず、創造美にも傾倒することができる「三宅坂」です。 ●有栖川宮記念公園沿いの「南部坂」 最寄り駅は日比谷線の「広尾」。乗り換えのない地下鉄の駅は乗降者数も少なめで、散歩好きな僕にとって「穴場」です。「広尾」はオシャレスポットで人通りは多いけれど、すれ違う人たちからは「優雅さ」が感じられ、都心の雑踏よりもいくぶん気分が良くなります。 人のにぎわう「広尾散歩通り」を背にして信号を渡ると、オープンカフェで談笑するカップルや笑顔の絶えない外国人親子とすれ違ったりします。おや、ここってフランス? イタリア? 有栖川宮記念公園の入り口から伸びるふたつの坂有栖川宮記念公園の入り口から伸びるふたつの坂 緩やかな登り坂を蛇行していくと、大きな公園にぶつかります。Googleマップを見ると大きな三角形に見える「有栖川宮記念公園」です。 三角形の南西角から公園を見渡すと小高い「丘」のような公園になっていることがわかります。公園入り口の南西角から二方向に登り坂が伸びている。「南部坂」と「木下坂」です。 画面右側が南部坂、左側が木下坂(画像:(C)Google)「この後、六本木でアポイントがある」ときは、木下坂を登ってそのまま歩きます。緑色のサウナや麻布税務署を通り過ぎると、六本木ヒルズの麓に到着。時間があったら「南部坂」の方をぶらりと登っていく方がおススメです。 公園の中を通って丘を登っていくのも悪くないけれど、無邪気に遊ぶ子どもたちの邪魔はしたくありません(思想にふけった顔をして歩いていると「変なオジサン」と思われるかもしれないし)。公園に隣接する歩道の「南部坂」の方が人通りも少なくて無難です。 坂を登り切ると、「麻布運動場」があります。港区にこんな広いテニスコートや野球場があったなんて驚き。近くのファミリーマートでお茶を買って、野球場近くのベンチで一服な休憩がとれます。コーヒーをすすっていると、賢そうな男子中学生とすれ違いました。スマホをいじり談笑する都会男子(麻布中高)たちの会話を聞き、僕も少し賢くなった気がします。 ●思い出の「赤坂」 都内に「坂」のつく地名・駅名はいくつかあります。赤坂、乃木坂、神楽坂。赤坂は10年ほど仕事で通っていたので思い出深い場所。駅周辺は平地な繁華街で、坂は見当たりません。「赤坂Bizタワー」と「TBS本社ビル」が目立っていますが、その裏が高台になっていて、重厚感のある「赤坂パークビル」が風神雷神を従えているようにも見えます。 急斜面すぎる「三分坂」急斜面すぎる「三分坂」 赤坂見附の繁華街から細い路地に入って頂上である「赤坂パークビル」を目指してみましょう。西に向かった緩やかな坂。西からの日光を浴びながらセロトニンを分泌しつつ、路地裏にある高級和食店の軒先をウインドショッピング風に眺めます。 一方、赤坂駅から「赤坂パークビル」を目指す坂道は険しくなっています。赤坂通り商店街を乃木坂方面に向かい、一ツ木公園を右折。坂道で大腿(だいたい)四頭筋を鍛えたいマッチョタイプには好都合かもしれない急斜面すぎる「三分坂」です。 三分坂の様子(画像:(C)Google) 同じく赤坂にある「日枝神社」の階段に似た急勾配だ。「三分坂」も「日枝神社」も登り切ると太ももに久しぶりな達成感が得られる。 赤坂通りを右折せずそのまま直進すると「乃木坂」にぶつかる。緩やかに蛇行する坂でソニーミュージック本社がある。「憧れのアーティストとすれ違うのではないか」と少し心躍る坂かもしれない。 ●オトナを感じる「神楽坂」 23区の中心に位置するにも関わらず、若い頃はほとんど訪れる機会がないのが「神楽坂」です(近くの大学に通う学生は別かもしれません)。30代を過ぎたあたりから、「神楽坂のおいしいお店で日本酒でも」なんてお誘いを受けるようになって初めて訪れるオトナな街。 小京都や金沢のような神楽坂小京都や金沢のような神楽坂「神楽坂通り」の坂は繁華街で人通りが多いですが、摩天楼な高層ビルもなく、下町な雰囲気もあり風情の感じる「坂」です。右や左の小道に入って坂を上がると、アスファルトが「石畳」に変わり、小京都や金沢のような光景に出くわします。 神楽坂の様子(画像:(C)Google) また神楽坂はグルメな坂です。坂の途中で「五十番の肉まん」を買って食べ歩いてもいいですし、ジェラートやコロッケ、シフォンケーキだって食べ歩けます。オトナの隠れ家のような「アグネスホテル」の「ティーラウンジ」でお茶もしてみたいです。 坂を登り切って地下鉄神楽坂駅にたどり着いたら、近くの「赤城神社」で参拝して休憩すると心が洗われます。 坂の「登り方」「下り方」に対峙すること 今回は4か所の「坂」を紹介してみましたが、こんな気分のいい坂を登っているばかりでは、TOKYOでビジネスが務まりません。日常では猥雑(わいざつ)な坂も登っていかなければならないのです。 疲れた僕に立ちはだかる「心臓破りの坂」ならぬ、「神経すり減らしな坂」。人が多過ぎて、少し邪気を感じるような坂。 そんな坂はずるい工夫で乗り越えたいところ。「西麻布」近辺の坂は歩かずにバスに乗りましょう。渋谷の「道玄坂」は池尻大橋駅から降りて下っていけば、遠回りですが気分が楽です。 生命体としてまさしく「下り坂」となった僕らにとって、TOKYOにある坂の「登り方」と「下り方」に対峙(たいじ)することは、いいメタファー思考実験(?)になるかもしれません。
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