幸福なスウェーデン人 その大きな理由は、男女の「自由度」にあった
カップルの約半分は結婚していない事実婚 国連が発表した「世界幸福度ランキング2019(World Happiness Report 2019)」によると、156か国の中で北欧諸国が上位に名を連ねています。1位はフィンランド、2位デンマーク、3位ノルウェー、4位アイスランド、7位スウェーデンです。日本は58位でした。 記者にはスウェーデン人の親戚(男性)がいます。彼はストックホルム郊外に家を持ち、スウェーデン人の奥さんとの間にふたりの子どもをもうけ、幸せな家庭を築いています。しかし、彼らの家を初めて訪れた時、ふたりが結婚していないと知って驚きました。 さらに、婚外子(結婚していない男女間に生まれた子)がいるのはスウェーデンではごく普通のことで、彼らのようなカップルは「サンボ」と呼ばれ、法的にも認められている事実婚の形というのです。 スウェーデン人の子どもたち(2018年9月、宮崎佳代子撮影) もうひとつ驚いたのは、スウェーデンには専業主婦はほとんどいないということ(全体の2%程度)。働かない主婦は病を患っているなど、何らかの働けない理由があるといいます。スウェーデンの人口は1000万人。それでいてひとり当たりのGDPが日本の約1.5倍あるのは、専業主婦が少ないことにもあるのです。 スウェーデンのどのような国のシステムと人々のライフスタイルが、幸福度の高さに関係するのでしょうか。スウェーデン社会研究所の代表理事、鈴木賢志さん(明治大学国際日本学部教授)とスウェーデン大使館一等書記官のヨハネス・アンドレアソンさんに話を聞きました。 OECD(経済協力開発機構)加盟36か国における出産時の婚外子の割合について、鈴木教授からデータを見せてもらいました。そのランキングの2位がアイスランドで66.9%、7位がノルウェーで54.9%、8位がスウェーデンで54.5%、10位がデンマークで50.6%。幸福度の高い北欧諸国は、産まれた赤ちゃんが婚外子の割合が高いのです。因みに1位はチリで69.9%、日本は35位で2.2%でした。 スウェーデンはいつから、どういった理由でサンボが広まったのか、アンドレアソンさんに聞きました。 「1960年代、スウェーデンにヒッピーが移住するようになり、彼らの男女平等で自由な生き方に感化される人たちが増え、結婚しない関係を望むカップルが増加しました。宗教離れが進んだことも、結婚や結婚式を重んじない風潮に影響を与えたようです。婚外子が増え、70年代から80年代にかけて法整備が進められ、1987年にサンボを法的に認める仕組みが施行されました」 一方、鈴木教授はサンボの広がりの背景に、家計ではなく個人で税金を分けるという税制改革も拍車をかけたと話します。男性も女性も、個々に働いた分の年金しかもらえなくなり、結婚のメリットが薄れたのです。 多様性と個人の自由を尊重するスウェーデン多様性と個人の自由を尊重するスウェーデン 鈴木教授はスウェーデンの人たちに、「日本の女性たちは、男性が家事をどの位できるか、父親として子どもにどう接するかわからない状態で結婚するのはすごいと思います」とよく言われるそうです。 日本は先進国のなかで、家事分担が進んでいないことをよく指摘されますが、スウェーデンでは家事分担は当然のこと。アンドレアソンさんによると、スウェーデンで20代から65歳までのカップルを対象に行った調査で、女性が家事に従事する1日の平均時間は3.5時間、男性が2.5時間だったそうです。 スウェーデンの首都、ストックホルム(2018年9月、宮崎佳代子撮影)「スウェーデンでは、一緒に暮らしてみて男性が家事をしない、できないようであれば、それはサンボの解消につながる大きな要因となりますね」と言ってアンドレアソンさんは笑います。サンボでは、別れる時の財産分与の項目が「家」と「家財」となり、結婚よりかなり限定的になるため、感情的なものは別として、物理的にはしがらみが少なく関係を解消できるのです。 サンボのカップルが関係を解消した場合、親権は半々。子どもは、1週間ずつ、2週間ずつ、といった風に別れた両親の間を行き来します。日本であれば、別れた相手がどこで何をしているか知らない、ということも多いですが、スウェーデンでは同じ町に住み、子どもが行ったり来たりできるようにするのが常。さらには、互いに新しいパートナーができれば、皆で集まって子どもをはさんで食事を共にする人たちも珍しくないとのこと。 鈴木教授がスウェーデンの小学校で使われている教科書を見せてくださり、そこに昔の家族と今の家族の変化がイラスト入りで書かれていました。 昔の家族は、3世代が一緒に住んでいた様子を描くイラスト。現代の家族は、お父さんとお母さんが別れ、お互いに新しい家庭を持ち、お父さんは男性と結婚(あるいはサンボ)して養子をもらって3人で暮らしている。その2世帯が家に集まっているイラスト。日本人の感覚からすると、小学生に教えるには少々「センセーショナル」ともいえる内容ですが、多様性と個人の自由を尊重するための教育と捉えられます。 家事ができない男はモテない家事ができない男はモテない スウェーデンでは子どもひとりにつきトータルで480日、育児休暇の給付を受けることができます。一般的給付額は働いていた時の給料の約8割(上限あり)で、男性の育児休暇取得率は9割近いとのデータがあります(日本は6.16%)。 「スウェーデンでは育休を取らない男性がいると、『なんで取らないの?』と周囲に不思議がられます。日本のように育休から復職した時に、以前とまったく違う職場に移される、昇格に響くといったことは、男性も女性もないですね」(アンドレアソンさん) ストックホルムの街(2018年9月、宮崎佳代子撮影) 日本の男子学生は「結婚したら妻には専業主婦となって欲しい」と望む人がまだ多いということを、以前、取材した東京理科大学の教授に聞きました。専業主婦に憧れる女性も未だ少なくありません。 スウェーデンの女性は、自分自身の生きがいとして労働意欲が高く、また家事分担が進んでいること、年金が個人ベースあること、残業の少なさ、育児休暇や長いバケーションが経済的な不安なく取れるといったことから、「働いている方が幸福」と思えるバックグラウンドが整っています。それが専業主婦の多い理由にあるようです。 「スウェーデンでは、家事ができない男はモテないですよ。子育てもちゃんとできるのが、かっこいい男なんです」と鈴木教授は笑いながら語っていました。 「それで男性の幸福度は果たして高いのだろうか」と思う人もいるかもしれませんが、鈴木教授曰く、スウェーデンにおいて男性と女性の幸福度は同じくらいだそうです。「男女不平等がまだ残る国の方が、男性の幸福度が低いというデータもあるようです。『男はこうあるべき』という意識の強さが関係するのではないでしょうか」と分析します。 幸福度の高さは「自由度」「高福祉」「社会的な信頼性」「経済力」幸福度の高さは「自由度」「高福祉」「社会的な信頼性」「経済力」 スウェーデンが幸福度が高いと評価されることに対し、アンドレアソンさんはこういった男女の「人生の自由度」を一番に挙げました。続いて、「高福祉」「社会的な信頼性」「経済力」。 スウェーデンは様々な点において国民が安心して暮らせる社会。写真はイメージ(画像:写真AC) 北欧の税金は高いけれど、その分高福祉というのは広く知られています。子どもの教育費や医療費は無料、高齢者の医療費も無料です(高度医療など内容によっては有料)。スウェーデンの失業保険のひとつの特徴として、鈴木教授は職業訓練とリンクしていることを挙げます。 失業者が再就職のために何か資格をとろうとした際、その授業費を国が全額負担してくれ、そのかわりしっかりと出席しないと失業保険がもらえません。これは、失業者が新たな戦力となって再び社会に還元するのを目的としてのこと。また、失業保険の期限が切れると、生活保護が支給されるそうです。 「失敗してもやり直す機会が与えられる。人生の選択の自由度が高く、誰もが安心して暮らせる社会というのがスウェーデンの幸福度の高さと感じています」と鈴木教授。 幸福の価値観は人によって異なり、そして長く根付いてきた文化は一朝一夕には変えられないものではありますが、「誰もが安心して暮らせる社会」というものには、学ぶべき点が多くあるように思います。
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