大通りに「ベンチ」を置いたら人と街はどう変わるのか? 東京・京橋駅前で考える
2019年10月に突如、東京メトロ銀座線の京橋駅(千代田区京橋)前に真っ赤なベンチが設置されました。通行客たちはごく自然に腰かけて、思い思いにくつろいでいきます。それにしてもこのベンチ、誰がどのような目的でここに設置したのでしょうか。街に自然と溶け込むベンチ 2019年10月、東京メトロ銀座線の京橋駅(千代田区京橋)前。オフィスビル・東京スクエアガーデンの公開空地(こうかいくうち。人々が利用できるまとまった空地)に突如、真っ赤なベンチ20台が設置されました。通行客たちは、昨日まで無かったはずのベンチを疑うこともなく、自然と腰をかけてぼんやりしたり、街を眺めたり、連れ合いとおしゃべりをしたり、足の疲れを癒したり……。めいめい自由にくつろいでいる様子です。 ベンチはあっという間に街の風景になじんだように見えました。 巨大なベンチを見つけて、いっせいに駆け寄ってきた少年たち(2019年10月27日、遠藤綾乃撮影) このベンチは、2020年開催予定のアート祭「東京ビエンナーレ」のプレイベントの一環で行われている「TOKYO BENCH PROJECT(東京ベンチ・プロジェクト)」の展示作品です。 手がけたのは建築設計事務所グランドレベル(墨田区千歳)の代表・田中元子さんとディレクター・大西正紀さん。同社のキャッチコピーは「1階づくりはまちづくり」で、建物の「1階」をつくることは街をつくることと同義、という同社の思想をベンチという道具に託して、街に新たな憩いの時空間をごく、さりげなく出現させたのだといいます。 足を止めて、街に憩う時間足を止めて、街に憩う時間 展示の目玉は、2019年10月27日(日)にお目見えした通常の2倍ほども大きさがある巨大なベンチです。 大人の背丈ほどもある巨大なベンチは、すっかり街に溶け込んだ通常サイズのものとは対照的に、あっという間に注目の的。すぐ近くで開催中のラグビーイベントに参加していた少年たちが巨大ベンチを見つけ駆け寄ってきました。 友達の手を借りて高い座面によじ登ると、得意げな表情を浮かべる子。いつもより遠くまで見える街の景色に目を見張る子……。しばらくして彼らが去っていくと、今度は親子連れの観光客が不思議そうに巨大ベンチに寄ってきて、記念の家族写真を撮っていきました。 巨大なベンチに座って記念の家族写真を撮る観光客(2019年10月27日、遠藤綾乃撮影) この日、巨大ベンチの設置を見届けに来ていた「京橋一の部連合会」会長の冨田正一さん(83歳)は、生まれも育ちも地元・京橋。 自身も京橋駅からほど近い複合施設「京橋エドグラン」1階に1923(大正12)年から続くインテリアショップを構えていて、同施設1階の屋外空間には至るところにさまざまな形のソファやベンチを配して、誰でも座ってくつろげるようにしたといいます。 その心は「たとえ商売のための施設であっても、1階は街の顔であり皆のもの。内側に閉じるのではなく、開かれたものでないと」。そういう意味で今回のTOKYO BENCH PROJECTについても「街中にベンチがあれば、少し座って休んで、次に行きたい場所を思い浮かべて、また歩き出そうと思える。すばらしい企画だと思います」と喜んでいました。 ベンチは東京スクエアガーデン以外にも、京橋駅周辺の公開空地に計数十台。東京ビエンナーレ2020プレイベント開催期間中の11月24日(日)まで設置されています。 目抜き通りに面した公開空地のベンチで、ゆったりくつろぐ人たち(2019年10月27日、遠藤綾乃撮影) いつもの大通りに突然ベンチが現れたら、あなたはそこに腰を下ろしてみるでしょうか。そのベンチに腰掛けると、どんな風景が見えるでしょうか。今度ベンチに腰を掛けたときは 「もしここにベンチがなかったら、自分はこの景色をじっくり眺めただろうか」 と、少し思いを馳せてみるのはいかがでしょうか?
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