都内中心に「おひとりさま」に需要高まるシェアハウス、注目はコンセプト型?「痩せたら家賃が下がる」物件も
首都圏を中心に20〜30代の単身者からシェアハウスの人気が高まっています。近年はユニークな「コンセプト」を設けて居住者を募るシェアハウスも増加中です。その最前線を追いました。人気リアリティ番組で認知度の広まった「シェアハウス」 東京に数多く見られるシェアハウスは、キッチンやシャワールーム、トイレなどを他の居住者と共有する賃貸住宅(共同住宅)です。 スプリングボードが運営する、女性専用シェアハウスの共用スペース(画像:スプリングボード) 1992(平成4)年創業で、シェアハウスの需要をいち早く掘り起こしたオークハウス(渋谷区渋谷)によると、現在、日本国内には約2万~3万室のシェアハウス物件が存在するといわれ、その多くが東京や東京近郊の都市にあるとのこと。 同社広報担当者いわく、かつてシェアハウスは「ゲストハウス」と呼ばれ、外国人からのニーズの高いものでした。しかし、2000年代に入って、管理や運用を総合的に行う業者が増え始め、インターネットの普及もあり日本人利用者が増加。さらに、2012(平成24)年に放送が開始された人気リアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ)でシェアハウスが舞台となったのを契機に、新聞や雑誌などでも数多く取り上げられ、広く認知されるようになったと話します。 オークハウスでは、2011(平成23)年に100部屋を超える大型物件のシェアハウス運営管理を始めて以来、シェアハウスの取り扱い物件も利用者数も年々増え続けているとのこと。利用者の多くは単身の社会人で、年齢層は20代後半〜30代前半が過半数。居住者の4割が外国人、6割が日本人だそうです。 シェアハウス人気の背景として、家賃こそ通常の賃貸物件とさほど変わらないものの、多くが家具付きかつ敷金礼金なども不要なため、通常の賃貸物件に比べ初期費用を抑えて住めるメリットが挙げられます。そのため、入退居が気軽に行えることも人気の一因です。 近年、共有部に広々としたラウンジスペースがあったり、大型テレビが設置されていたり、居住性やデザイン性に凝ったシェアハウスが増え、こうっいった物件の増加も人気上昇に関わると前出の担当者は語ります。 また、他の居住者との交流を楽しみながら暮らせることを魅力と感じてシェアハウスを選ぶ単身者も少なくないとのこと。これは、2000年代に入って、若者たちからシェアハウス人気が高まった理由とも関係します。 「帰国日本人」の若者の増加がシェアハウス人気に波及「帰国日本人」の若者の増加がシェアハウス人気に波及 日本における海外旅行が団体旅行が主流だった時代から、個人旅行が急増していった2000年代。渡航先で安い費用で宿泊できる「ゲストハウス」を利用する若者たちが増えました。そこでホストファミリーや各国からの旅人たちと出会い、異文化交流や旅先の情報を交換する楽しさを知るようになります。 「こうした若者たちが日本に帰国したとき、外国人との交流や語学勉強、合理的な住居を求める自然の流れの中で、東京など都市部のシェアハウスに入居する『帰国日本人』が増えていきました」(オークハウス広報担当者) シェアハウス物件を扱うcolish(コリッシュ 港区南青山)でマネージャーを務める萩原悠大(ゆうた)さんは、この「帰国日本人」のひとり。新宿にある同社運営のシェアハウス「LOCALIFE(ローカライフ)」を訪れ、萩原さんに話を聞きました。 colishの萩原悠大さん。東新宿にある同社の運営物件「LOCALIFE」にて。共有ラウンジの壁に世界地図の描かれたボードがあり、これまでここで暮らした外国人の写真がその出身地の上に貼られている(2019年10月9日、宮崎佳代子撮影) 同物件は3階建ての最上階にあり、東新宿駅から徒歩約8分。1階が業務スーパーとなっている、利便性のいい場所にあります。全6室で、ソファと大型テレビが設置されたゆったりした共有ラウンジスペース、その隣に広々としたシステムキッチンが備わっています。ランドリールームには洗濯機と乾燥機が各2基、シャワールームは1室で、男女共用です。 個室面積は7〜10平方メートル。家賃は7万〜7万9000円で、これに管理費1.5万円が加算された金額が、居住者の月々の支払い額となります。萩原さん自身もかつて、ここの一室で暮らしていたそうです。 萩原さんは海外旅行や留学中に、寮やゲストハウスでさまざまな人たちと一緒に暮らす経験をしました。 「それまでは、シェアハウスのような形態の家で暮らせるタイプではないと思っていたのですが、家でも異文化に触れながら過ごす日々が楽しくて、帰国後、ひとり暮らしが刺激なく、とてもつまらないものに感じました」(萩原さん) そのため、シェアハウスでの暮らしを始めると同時に、その良さを広める現在の仕事に就きました。 現在、ここで暮らすのは、日本人がふたりで外国人が4人。それとは別に「ゲストルーム」を1室設け、海外からの旅行者を無料で泊めています。無料で泊めている理由について、「居住者にとってはより多彩な国の人たちと交流することができ、旅行者にとってはローカルとの温かなふれあいの場を持つことができるからです」と話します。 それにしても、異なる文化で育った人たちがひとつ屋根の下に暮らし、時に旅行者までもが滞在するという暮らしに、居住者間のトラブルは起こらないのでしょうか。 多国籍居住者のトラブルリスクを減らす秘訣とは?多国籍居住者のトラブルリスクを減らす秘訣とは? 近年、住まいにテーマや目的を設けた「コンセプト型」のシェアハウスが増えていて、colishはそれに特化しています。現在2物件ある「LOCALIFE」は、「一歩深い異文化交流」をコンセプトとし、それを希望する人たちが集まって暮らしています。 東新宿にある「LOCALIFE」の共用ラウンジ(画像:colish) 萩原さんは、居住者同士やゲストとのトラブルリスクを減らすため、「LOCALIFE」の空室に応募して来た人に、居住マナーの理解を含め「面接」を行うそうです。その際に必ず「英語力」を確認するとのこと。英語で日常会話ができる程度の語学力がなければ、「一歩深い異文化交流」を目的に集まってきたコミュニティに馴染めないと考えてのことです。 「面接で、現居住者たちとうまくやっていけるかを見極めるのに、当初は失敗することもありましたが、経験を重ねるうちに、外すことは殆どなくなりました。ここでの暮らしを選ぶ人は、住人やゲストとの交流を楽しみたいと考えているので、多少のトラブルを含めて、互いへの理解を深めています」 また、萩原さん自身、7年に渡ってシェアハウスでの暮らしを経験してきたなかで、デメリットと感じた部分を極力なくす部屋の設計と居住ルールを設けていることも、トラブルの少なさにつながっているのではないかと話します。 「とにかく異文化交流を通じて家で過ごす時間を楽しんでもらいたい。その想いなくば、こんな手間のかかる賃貸物件をやりませんよね」と、最後に苦笑いとともに付け加えた言葉が印象的でした。 コンセプトシェアハウスを扱う業者は少なくなく、ユニークなものも色々あります。 東京都内のシェアハウスブランド「TOKYO HOUSE」を運営するスプリングボード(新宿区西新宿)では、10月から一風変わったコンセプトシェアハウスの募集を開始しました。入居時の体脂肪率が入居後に下がった場合、減った率により家賃を値引きするというものです。 家賃4万3000円が、痩せたら最大で1万8000円にまで下がる家賃4万3000円が、痩せたら最大で1万8000円にまで下がる スプリングボードでは、これまでに1100冊に及ぶマンガ読み放題、美容家電備え付け、といったコンセプトシェアハウスの企画と運営を行ってきました。 スプリングボードのマンガ読み放題のシェアハウス物件(画像:スプリングボード)「体脂肪率が減ると家賃が下がる」というコンセプトを設けた理由について同社に聞くと、「物件を探している人たちに夢や目標を聞いたところ、痩せたい、体を絞りたいという方が多かったことからです」との答えでした。 同物件は亀有にあり、全12室。入居時に体脂肪率を測り、以後、毎月体脂肪を測定します。その際に入居時より3〜4%減っていると4万3000円の家賃(共益費は除く)がその月は4万円になり、5〜7%減ると3万5000円、8〜10%で3万円、11%以上で1万8000円にまで下がります。共益費2万2000円は割引になりません。 また、東日本エリアの250か所のセントラルスポーツを月4回まで無料で利用でき、5回目からは500〜2000円(施設による)で利用可能という特典もあります。室内にはトレーニング用具も常備。 全員が体脂肪率11%以上減ったら、収益はどうなるのだろうと他人事ながら心配になりますが、その辺の確率はジムのインスタラクターに聞いた上で、採算を見込んだ割引設定にしているとのことです。 「こういった、付加価値のあるコンセプトを設けることで入居者が集まり、居住者の方々の夢や目的が叶えば、双方にとってメリットにつながると思っています」と同社広報担当者。都内でも賃貸空き物件が増えるなか、コンセプトシェアハウスは居住率の向上につながるため、今後、増やしていく予定と話します。また、同社も共有スペースに大きめのリビングがついたシェアハウス物件の需要増を視野にいれているそうです。 旅の宿泊先に、インターネットで安価な個人宅の空き部屋を探すことが安易となった時代。今後、「帰国日本人」がますます増え、居住性や快適性の高いシェアハウスが拡充することで、人とのつながりが希薄になりがちな都会生活に、「人との交流のある家」を好む単身者も増えていくのかもしれません。
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