日本のテレワークを阻むものは何か? 新型肺炎を契機に考える
東京マラソン2020の一般ランナー参加は中止に 東京マラソン2020の一般ランナー参加が、新型コロナウイルスの影響により中止となりました。また、首相官邸で行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議において、不要不急な集まりを自粛すべきとの意見が出されたことも話題になっています。 東京都内で行われる予定だったイベントも、中止や延期の話があちらこちらで聞かれるようになりました。 テレワークのイメージ(画像:写真AC) それらの動きに呼応するように聞かれるようになったのが、テレワークの推進です。さまざまな企業が続々と取り組みを発表。安倍首相も、テレワークは有効な手段だと述べています。 テレワークの導入率は全体で2割未満 もともと東京オリンピックの通勤混雑回避策として、テレワークの重要性は指摘されていました。しかしながら、実際にテレワークを行っている人は決して多くはありません。 総務省が発表している平成30年の「通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業の比率は全体の19.1%。前年比で5.2ポイント上昇しており、増えてきた印象はあるものの、導入していない企業が8割となっています。産業別で最も多い情報通信業でも、導入率は4割程度です。 平成30年通信利用動向調査の「産業別テレワークの導入状況(企業)」(画像:総務省) テレワークを導入していなくても、出勤時間をずらせば通勤時の人混みを緩和することは可能です。しかし、不特定多数との接点が生まれることには変わりありません。 そのリスクを考えれば、できる限りテレワークに切り替えた方が良いと考える人は今後も増えそうです。 しかし働き手がそう考えていたとしても、社内に制度がない限り勝手にテレワークに切り替える訳にはいきません。 東日本大震災時に注目されたが……東日本大震災時に注目されたが…… 新型コロナウイルスへの警戒が高まる中、テレワーク導入に踏み切る企業もさらに出てくるとは思いますが、これまでの経緯を見る限り、一定の範囲内にとどまるのではないかと考えます。 以前、今と同じようにテレワーク実施を表明する企業が相次いだことがありました。2011年に発生した、東日本大震災のときです。中には、本社機能を東京から地方に移した企業もありました。 しかし、あれだけの大災害を経験しテレワーク実施を表明する企業が相次いだにもかかわらず、いまだテレワーク導入企業は2割に満たない状況です。 なぜ導入が浸透しないのか テレワーク導入が浸透しない理由としては、大きく3点考えられます。 最も大きいのは、業務再設計の大変さです。例えば紙があふれているような仕事環境ならば、出社しない限り業務を進めることはできません。ペーパーレス化が進んでいない環境でテレワークをしようにも、物理的限界があります。 先ほど紹介した平成30年通信利用動向調査でも、テレワークを導入しない理由のトップは「テレワークに適した仕事がないから」で7割を超えています。今業務がうまく回っているのであれば、設計し直すことのリスクは大きく、勇気がいることです。 平成30年通信利用動向調査の「テレワークを導入しない理由」(画像:総務省) 次にセキュリティーの問題です。機密性の高い業務であればあるほど、外部からアクセスできてしまうことが大きなリスクになります。先ほどのグラフでも、およそ2割が「情報漏洩(えい)が心配だから」と回答しています。 ネックはなにより「職場の風土」ネックはなにより「職場の風土」 そして最後に挙げたいのが、職場の風土です。「空気」と言い換えても良いかもしれません。出社するのが当然という空気が前提になっていれば、テレワークをするだけで白い目で見られてしまいそうです。 立ちはだかる壁のイメージ(画像:写真AC) 先ほどのグラフにある「社内コミュニケーションに支障があるから」や「社員の評価が難しいから」といった回答は、多くの場合その会社の風土とも密接に関係していると思われます。 「熱があったけど、頑張って来ました!」と出社する社員のことを、根性があると評価するような風土の職場にテレワークを導入するのは、一筋縄ではいかないはずです。会社の良さはそれぞれ。大切にしている風土を壊すことは、その会社にとってのリスクになりえます。 業務再設計、セキュリティー、風土……それぞれに伴うリスクを考えれば、テレワークの導入は簡単な決断ではありません。 自然災害時に今後どうするか しかし一方で、テレワークを導入しないこともまたリスクです。今、目前には新型コロナウイルスの脅威がありますが、他にもテロや自然災害など、さまざまな困難が想定されます。それらが現実化してしまったときに、備えができているかいないかは企業にとって死活問題です。 中には接客業など、その場にいなくては業務がこなせない仕事もあります。それでも、オリィ研究所(港区芝)が開発した分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使って、遠隔操作で接客する試みが行われるなど、テクノロジーが新たな可能性の扉を開きつつあります。一概に、テレワークの導入が未来永劫(えいごう)に不可能とは言い切れません。 「天からの警告」のイメージ(画像:写真AC) 今すぐテレワークを導入できなくとも、導入しないリスクとのてんびんの中で準備を進めることは可能なはずです。新型コロナウイルスの脅威は、働き方が変わらないことのリスクを考えるきっかけとなる、「天からの警告」と受け取ることもできるのではないでしょうか。
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