テレ東Pも「奇跡」と自賛 月曜夜10時ドラマ『共演NG』がヒット間違いなしの手堅い証拠
10月26日スタートの秋の新ドラマ『共演NG』。担当プロデューサー自ら「奇跡」と称賛する豪華な顔ぶれで話題の作品はヒットするのでしょうか。社会学者で著述家の太田省一さんが解説します。「テレ東」らしい仕掛けが満載「テレビ東京に『奇跡』が起こりました」 これは、テレビ東京(港区六本木)で月曜夜10時台に放送される秋の新ドラマ『共演NG』のプロデューサーの弁です。主演は中井貴一と鈴木京香、企画・原作が秋元康、そして脚本・監督が大根仁(おおね ひとし)。なるほどテレ東らしからぬ豪華な顔ぶれと言っても過言ではありません。 月曜ドラマ「共演NG」のメインビジュアル(画像:「共演NG」製作委員会、プレミアム・プラットフォーム・ジャパン) しかしよく見ると、実はこのドラマにはテレ東らしい一癖も二癖もある仕掛けが施されています。 まず「共演NG」というテーマ自体が、テレ東らしいニッチ狙いと言えます。物語は、中井貴一と鈴木京香が演じる長年共演NGだった元恋人の俳優同士が同じドラマにキャスティングされたところから始まります。 「あのひととこのひとは共演NGだ」というゴシップニュースは時々目にしますが、真相が私たち視聴者に知らされることはありません。そんな“業界のタブー”をドラマの企画として実現してしまうところが、いかにもテレ東といったところです。 しかもそれを絵空事とばかり思わせない仕掛けにも怠りありません。 もちろんドラマ自体はフィクションですが、物語の舞台になるテレビ局は「日本一小さなキー局」であるテレビ東洋、略して「テレ東」。 どう考えても「これ、テレビ東京のことでしょ?」となります。そんな虚実入り交じったギリギリのところを突いてくるところの大胆さも、またテレ東らしさが発揮されています。 そのあたりには、『孤独のグルメ』や『勇者ヨシヒコシリーズ』などチャレンジングな作品が多いテレ東の深夜ドラマのテイストも感じられます。特に今回スタッフに秋元康と大根仁の名があることは、その印象をいっそう深くさせます。 『モテキ』を手掛けた大根仁のセンス『モテキ』を手掛けた大根仁のセンス 元々放送作家からスタートした秋元康は、世間をあっと言わせるような意外性あふれる企画が得意です。SNSで人気に火が付いた日本テレビのドラマ『あなたの番です』もそうでしたが、テレビ東京では2010(平成22)年に放送された深夜ドラマ『マジすか学園』があります。 内容は、当時ブレーク中だったAKB48のメンバーがみなヤンキーに扮(ふん)して毎回派手な格闘シーンを繰り広げるというもの。アイドルドラマとしてはとても斬新なものでした。 また大根仁と言えば、同じくテレビ東京の深夜ドラマ『モテキ』が思い起こされます。これも2010年の放送でした。 『共演NG』のて脚本・監督を務めた大根仁(画像:TOKYO FM)『TRICK』(テレビ朝日系)の演出なども担当していた大根仁ですが、その名が一気に世に知られるようになったのは、映画化もされてヒットしたこの『モテキ』からと言えます。森山未來の好演も光った『モテキ』はラブコメの名作でした。「大人のラブコメ」と銘打った『共演NG』にも期待が持てます。 「ドラマプレミア10」枠の最初の作品 一方で近年のテレビ東京は、ゴールデン・プライム帯のドラマ作りにも力を入れています。中井貴一と鈴木京香には、すでにそこでの実績があります。 中井貴一は、2018年の新春ドラマスペシャル『娘の結婚』が、テレビ東京初出演にして初主演でした。役柄は、波留が演じる娘の父親。ずっと父娘ふたり暮らしだったところに娘が突然結婚することになり、さまざまな思いを抱く父親の姿を丁寧に描いた佳作でした。 『共演NG』で主演の中井貴一(画像:TOKYO FM) こうした本格的なホームドラマは、かつてであればNHKやTBSあたりの専売特許だったように思います。それをテレビ東京が見事にドラマ化したことに驚きもありました。 鈴木京香のテレビ東京初主演作は、大沢在昌の小説が原作の『冬芽の人』(2017年放送)ですが、2020年放送された『行列の女神~らーめん才遊記~』を覚えている人も少なくないでしょう。鈴木京香が演じるのはラーメン界のカリスマ。その彼女が経営コンサルタントとなって、不振のラーメン店を立て直すというストーリーでした。 実はこのドラマ、月曜夜10時台の放送で『共演NG』とまったく同じ時間帯でした。2018年からテレビ東京ではこの枠を「ドラマBiz」と名付け、経済をテーマにした作品をずっと放送してきました。 江口洋介主演の『ヘッドハンター』や唐沢寿明主演の『ハラスメントゲーム』など良作もあったものの、『行列の女神~らーめん才遊記~』が「ドラマBiz」枠最後の作品となりました。そして同じ枠に新設されたのが、「ドラマプレミア10」。『共演NG』は、その第1作になります。 「テレ東らしく勝つ」ことはできるか「テレ東らしく勝つ」ことはできるか この新たなドラマ枠の設置からは、テレビ東京がテレビ局として一回りスケールアップしようという並々ならぬ意欲が伝わってきます。 ニュースやドキュメンタリーならまだしも、経済に特化したドラマはテレ東らしいニッチ狙いの面白さもありますが、どうしても作品や視聴者層の幅を狭めてしまいます。 ただ、先ほど『共演NG』のユニークな仕掛けにもふれたように、テレ東らしさの核にあるニッチ狙いをやめようということではありません。 『モヤモヤさまぁ~ず2』や『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』のプロデューサーとして知られる伊藤隆行は、開局50周年に際しての社員座談会のなかで、これからのテレビ東京の目標は「テレ東らしく勝つ」ことだと語っています。つまり、テレ東らしいニッチ狙いの企画力はそのままに保ちつつ、同時に視聴率にもこだわっていく。それがテレ東の目指す道というわけです。 港区六本木にあるテレビ東京(画像:TOKYO FM) 全社横断のプロモーションチームが結成されたという今回の『共演NG』は、テレビ東京が「テレ東らしく勝つ」ことが本当にできるのかどうか、ひとつの試金石と言えるでしょう。果たしてテレビ東京が「奇跡」を起こせるのか、期待しながら見守りたいと思います。
- ライフ