現代の若者が平成文化の「不完全さ」をエモく感じる理由
チェキ、ポチャッコ、デコ文化 流行は繰り返す、とはよく言いますが、令和を生きるZ世代(1996~2012年に生まれた若者たち)の間では今まさに、平成後期にはやった遊びやアイテムが注目を集めています。 大人にとっては懐かしく、若者にとっては新鮮。アナログ文化の魅力とは?(画像:富士フイルム) およそ20年前の流行ですから、現在30~40代前後の人たちにとっては、きっと青春時代をともに過ごした懐かしいキーワードがめじろ押しのはず。 具体的なアイテムと彼らの楽しみ方、そして流行の理由や背景についてご紹介していきます。 プリント写真はオタ活で大活躍 まずは1998(平成10)年に発売された富士フイルム(港区赤坂)製のインスタントカメラ「チェキ」や、スマホなどで撮影した画像をコンビニのマルチコピー機で紙に印刷する「ネットプリント」(若い子は「ネップリ」と略すそうです)。 ネップリに関しては、かつては履歴書に貼る証明写真の印刷などで利用する人が多かったでしょうか。 現在は、紙に印刷した写真をお気に入りのアイテムやスイーツの周囲に配置して飾り立て、その状態をさらに撮影してSNSにアップする、いわば手作りの「おしゃれ小道具」のひとつとして使うそう。 Instagramで「#ネップリ」というハッシュタグが付けられた投稿一覧のスクリーンショット(画像:ULM編集部) さらに好きな有名人・芸能人の写真をプリントアウトしてキーホルダーなどのオタ活(オタク的な活動)グッズを自作するなど、使い方は現代風にアレンジされていっています。 ポケモンもすでに「なつコン」ポケモンもすでに「なつコン」 それから、「美少女戦士セーラームーン」や「おジャ魔女どれみ」といったアニメのキャラクター。 また1997(平成9)年から開始し現在も放送中の「ポケットモンスター(ポケモン)」も、現代の若者には“懐かしい”コンテンツのひとつとして注目されているのだとか。 「美少女戦士セーラームーン」25周年プロジェクト公式サイトのスクリーンショット(画像:(C)武内直子・PNP・講談社・東映アニメーション) 彼らがよく使う動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」では、こうした当時のアニメ動画に載せて最近人気のラップ曲を流すといった、新旧文化の融合を感じさせる“チルい”動画をいくつも見つけることができます。 ちなみに「チルい」とは、英語の「chill out(チルアウト)」が語源で、くつろいだ様子を表す若者用語です。 往年のキャラが24年ぶりの快挙 懐かしキャラの復権は、アニメ以外にも。 サンリオ(品川区大崎)が毎年行うファン投票「サンリオキャラクター大賞」では2020年6月、犬のキャラ「ポチャッコ」が24年ぶりとなるトップ3入りを果たしました。 Instagramを検索すると「#ポチャッコネイル」や「#ポチャッコカフェ」といったハッシュタグが見つかり、若い女性たちの人気ぶりがうかがえます。 Instagramで「#ポチャッコカフェ」というハッシュタグが付けられた投稿一覧のスクリーンショット(画像:ULM編集部) そして、平成のギャルたちがガラケー(携帯電話)をラインストーンやキーホルダーで飾り立てた「デコる文化」。 現代の東京ではラインストーンではなくステッカーでデコるのが主流らしく、スマホの背面やペンケースにステッカーを所せましと貼りまくっている若い女性たちに何人も出会いました。 手に入れられない「不完全さ」手に入れられない「不完全さ」 さて、ここまで懐かしいアイテムの再流行を見てきましたが、あらためてなぜ、これらが今の若者に刺さるのかを考えてみたいと思います。 例に挙げたアイテムや文化に共通するキーワードは何か。それは、デジタル令和の現代では逆に手に入りにくくなった「不完全さ」ではないでしょうか。 懐かしさを感じさせるセピア色の写真(画像:写真AC) インスタントカメラには、一眼レフに引けを取らない性能を追求したスマホのカメラが作り出せない、画質の粗さや風合い、ノスタルジックな雰囲気があります。 アニメのキャラにもまた手描きならではの温かみがあり、デコ文化に至っては、スマホの背景画像をデジタル制作するのではなくステッカーを貼ることでデコレーションしており、まさにアナログ文化そのものと言ってもいいでしょう。 デジタルネーティブと呼ばれる彼らにとってこうした文化は、「アナログ回帰」どころか、ほぼ「初めまして」な世界観。とにかく新鮮に映るようです。 インスタントカメラのようなザラつき感ある画像が撮れるスマホ用カメラアプリは、すでに何年も前から人気を獲得していたものの、わざわざ紙に印刷するネットプリントは、現代では「ひと手間掛けて」作るもの。 人とはちょっと違った遊び方をしている、という自分らしさの充足にもつながっているようです。 デジタル領域の限界値はどこかデジタル領域の限界値はどこか そして2020年春、新型コロナウイルス禍で強いられた自粛期間には、生活の必要に迫られてアナログな体験をすることにもなりました。 友達とよく行っていたカフェのお気に入りスイーツを手作りしてみたり、母親に教わりながら布マスクを自作したりといったチャレンジがその例です。 外出自粛の期間は、さまざまな人が布マスクを初めて手作りした(画像:写真AC) スマホのカメラで撮れる高画質な画像とはつまり、カフェで食べられるおいしいスイーツや、ドラッグストアで売られている隙のない不織布マスクといった「完成品」です。 技術が果てしなく進歩していき、常に「完成品」ばかり手に入れてきた彼らが、ほとんど初めて触れた「不完全」なアナログ文化に魅了されている様子は、デジタル領域が再現しきれない限界値を示しているのかもしれません。 何でもそろっていて何でも選べる今だからこそ、自分だけの手触りを感じるアナログなものに彼らは引かれているのでしょう。 今後もさまざまな技術革新が登場するのでしょうが、昔ながらの良さから学び、自分のオリジナリティーを生み出していく精神は、いつの時代も変わることなく若者の心を大きく動かしていくのだと考えます。
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