ネスレ日本が平日朝に、乗客たった10人の「無料バス」を走らせるワケ
ネスレ日本(神戸市)とケイエム観光バス(大田区大森南)が提携し、12月2日から期間限定で通勤バスを走らせています。いったいなぜでしょうか。「食品による社会問題解決」という企業理念 依然として大きな課題となっている都内の満員電車。国土交通省が2019年7月に発表した「都市鉄道の混雑率調査結果」によると、朝のピーク時における混雑率は東京メトロ東西線で199%、JR東日本総武緩行線で196%と、特に朝の通勤ラッシュは早急に緩和しなければならない状況です。 そんななか、食品・飲料大手のネスレ日本(神戸市)はケイエム観光バス(大田区大森南)と提携し、2019年12月2日(月)から平日5日間限定で、池袋駅東口から東京駅八重洲口にかけて通勤バスを走らせています。詳しい内容を知るため、11月29日(金)に行われた記者発表を取材しました。 今回の通勤バスイベント「YuGa(ユーガ)×ネスカフェ “優雅な通勤バスで朝食を”」は、12月2日(月)~18日(水)の5日間行われています。午前8時に池袋東口を出発し、東京駅に着くのは8時40分の予定とのこと。 乗車する飛行機のビジネスクラスシートをイメージした豪華なバス「YuGa」では、各席に簡易スリッパやブランケット、USB充電コネクタ等、そして座席にはテレビモニターも完備。イギリスやスイス、メキシコなど世界の朝食とコーヒーも提供されるなど、通勤とは思えない贅沢なひとときが味わえます。乗車人数は各10人、参加費は無料です。 「YuGa」の外観(画像:アーバンライフメトロ編集部) もともと母乳で育つことのできない新生児の粉ミルクを開発したことでスタートした経緯があるネスレ。今回の通勤バスも、社会問題を食品や飲料でいかに解決していくかといった企業理念に基づいていると言います。 「ゆっくり朝食を摂る」という習慣「ゆっくり朝食を摂る」という習慣 記者発表に登壇したネスレ日本飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒービジネス部部長の島川基(もとい)さんは、「日本人は仕事や家事、育児でとにかく朝から時間がありません。仕事のパフォーマンスや生産性に大きな影響を及ぼす朝食を欠食する習慣や、通勤混雑の緩和に役立てたいと思っています」と意気込みを語りました。 「YuGa」の内観(画像:アーバンライフメトロ編集部) ネスレとしては「日本の朝を変えたい」という大きな目標を掲げていますが、乗車人数は毎回たったの10人。 「たったの10人を乗せるだけで通勤ラッシュの解決になるはずがない」 と疑問に感じた筆者は島川さんに、企画の詳しい意図や思いを聞きました。 ――まず、今回の企画が12月になったのはなぜでしょうか。 コーヒーは寒い時期と暑い時期に需要が伸びる――という背景があります。しかし一番は、年間を通して最も忙しい年末だからこそ、ゆっくりとした朝の時間の大切さを訴求できるのではないかと思ったからです。 ――「毎朝ちゃんと朝食を食べよう」という狙いであれば、今回のバス到着地である東京駅で手軽に食べられる朝食を提供するといったやり方もあると思います。なぜ、バス移動という手段にしたのでしょうか。 ポップアップショップを出店するだけでは、「外出する場所」で終わってしまいます。朝食を摂るための外食は、手段としてなかなか長期的に続きませんよね。やはり朝食を摂るのはそれぞれのご家庭。まるで家にいるかのような気分でコーヒーと朝食を摂ってほしいという思いから、リラックスできる豪華なバスでの提供を企画しました。 「まずは個人が変わらなければならない」「まずは個人が変わらなければならない」――今回、通勤混雑解消のためにもっと大人数での運行にしなかったのはなぜでしょうか。 もちろん、たくさんのお客さまを乗車させて運行することで通勤混雑解消に直接的に繋がります。しかし、それでは満員電車に乗っているときの感覚や時間の過ごし方とあまり変わりません。 過去にも東京メトロさんと提携し、上野駅と大手町駅でコーヒーの無料提供などを行いました。そうしたさまざまな施策をしてきた中で、抜本的に通勤混雑を解決するのは個人の意識がとても大きいと感じています。 時代の流れとしても「11時に出勤してOK」という会社さんが増えていますが、個人が「それでも9時に行かなければ」となってしまう。トップダウン的では変わらないんです。まずは個人が変わり、そして個人と個人が所属するコミュニティが変わり、最後に社会や行政も変わらざるを得なくなる。バスに乗車するのは毎回10人だけですが、企画の存在が周知されることで実際に多くの人が朝の習慣を変えていき、結果として通勤混雑緩和に少しでも繋がってほしいと願っています。 バス通勤が推進されない東京の交通事情 食品や飲食を提供する事業者として、コーヒーや朝食をフックにした個人の習慣や意識の変化によって長期的な通勤混雑緩和を目指すネスレ。 ケイエム観光バス取締役社長の渋谷勉さん(画像:アーバンライフメトロ編集部) 一方で、企画を提携したケイエム観光バスは東京の通勤混雑についてどう考えているのでしょうか。「そもそもバス通勤が増えれば、電車通勤が減るのではないか」という単純な疑問を持った筆者は、ケイエム観光バス取締役社長の渋谷勉さんにも話を聞きました。 ――今回、なぜ池袋~東京駅というルートになったのでしょうか。 今回の池袋駅~東京駅は「YuGa」の通常ルートではありませんが、今回の企画で発着駅に大きな駐車場が必要でした。そのため、ターミナルである池袋駅と東京駅のルートになりました。 ――実用的な通勤混雑対策を行っているバス会社が、あまりない理由を教えてください。 バスは道路状況によって渋滞してしまうため、どうしても正確な到着時間が読めません。そのため、東京の各バス会社も郊外から都心といった長期的なバス運行は需要が高いとわかっていながらも、実用化にはなかなか踏み込めないのが現状だと思います。「時間が読めない」という問題をどうクリアしていくかは、電車通勤のラッシュの分散にもつながるので、弊社のみならずバス業界全体の大きな課題です。 なお同バスは、17~18日分については、現在も応募可能です。
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