YouTuberに「感謝」と「ねぎらい」を感じる、10~20代の独特な「心理特性」
誰にも情報発信の機会が与えられた時代 2020年上半期、話題になったテレビドラマのひとつに『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)がありました。 2000(平成12)年前後のJポップ界で人気の頂点を極めた歌手・浜崎あゆみの自伝的小説をドラマ化した同作。 第1話冒頭でまだ少女のあゆが「わたし、東京に行く。東京に行って、夢をかなえる」と宣言して上京するシーンが象徴するように、かつて日本において「有名になる」「アーティストになる」という夢をかなえるためには、何をおいてもまずは東京へ出ることが必須条件でした。 しかし2020年現在、在住地や外見の美醜によって「有名になれる・なれない」を左右される時代は過ぎ去ろうとしています。言わずもがな、YouTubeやTikTokなどネット上のプラットフォームが整い、誰にも等しく情報発信の機会が与えられるようになったからです。 若者がYouTubeを選ぶ「世代特性」とは テレビを付けていても、YouTuber(ユーチューバー)の動画紹介や実際テレビ番組に出演している姿を見掛けない日はない昨今。その勢いや影響力は今や、若者世代に限って言えば既存メディアの代表格であるテレビそのものをも凌駕(りょうが)するほど。 YouTubeを視聴した経験がある10・20代は実に約9割。若者ならではの人気の理由は?(画像:YouTube) 実際、若者はどの程度YouTubeを見ていて、どのような点に魅力を感じているのでしょうか? 若年層のトレンド調査を行い情報発信している「TesTeeLab」(運営・テスティー、中央区日本橋兜町)のアンケート結果を読み解くと、YouTubeの人気理由だけでなく、今まさにテレビが直面している「テレビ離れ」の要因の一端までもが垣間見えてきます。 10・20代の視聴経験率はおよそ9割超10・20代の視聴経験率はおよそ9割超「YouTuberに関する調査」は2020年8月、10~20代の男女計1347人(10代男性320人、10代女性319人、20代男性354人、20代女性354人)を対象に実施しました。 まず「YouTubeを視聴した経験があるか」を尋ねたところ、10代男性で94.1%、10代女性で95.6%、20代男性で86.4%、20代女性で89.8%が「ある」と回答。 10代女性を筆頭に、各性別・年代で“ほぼ全員”と言っても過言ではない利用率が確認できました。 利用頻度は、「毎日利用している」が10代男性74.4%、10代女性67.2%、20代男性57.5%、20代女性51.3%。10・20代の男女とも、過半数かそれ以上が日々のルーティーンとしてYouTubeを視聴していることが分かります。 リラックスタイムはYouTubeタイム 続く「YouTube動画を視聴するタイミング」に関する問いでは、彼ら若者がテレビよりYouTubeを好む理由を考える上での重要なヒントがのぞきます。 10・20代の男女という四つの全区分で最も多かった視聴タイミングは「休憩中」で6~7割(複数回答)。続いて「就寝前」が同じく全4区分で2位(4~5割)となり、ちょっと息抜きしたいときやお休み前にYouTubeを開く傾向が強いよう。 10・20代が「動画を視聴するタイミング」についての調査結果。休憩中、就寝中が多いという結果に(画像:TesTee) これはまさに、かつてテレビがほしいままにしてきたリラックスタイムの過ごし方ですが、上記データからも分かるように多くの若者がYouTubeを利用し、自分好みの番組を見たいときに視聴する過ごし方へと移行している模様が見て取れます。 それでは、YouTubeとテレビ地上波放送との違いとはなんでしょうか。 筆者が考える重要な違いのひとつは、「CMをスキップできるかどうか」です。 ミレニアル世代(1980~1995年生まれ)や Z世代(1995~2009年生まれ)、さらにアルファ世代(2010年以降生まれ)などと呼ばれる若者たち。彼らはインターネットが日常生活に組み込まれており、日々多くの情報を目にしているため「無意識下」で常に情報の収集・取捨選別をしていると言われます。 そのため、テレビ以上にネット利用が原体験としてある10~20代前半にとっては特に、テレビはCM放送をスキップできないことすら時間を持て余し退屈することにつながっている、と考えられるのです。 「好きなジャンルはバラバラ」という特徴「好きなジャンルはバラバラ」という特徴 自分の好きなときに好きな場所で見られるYouTube。10代男性の約4人に3人、10代女性の約3人にふたりが「毎日視聴する」ほど人気のコンテンツとはどのような内容なのか、さらにアンケート調査の結果を見ていきましょう。 YouTubeの「好きなジャンル」を問う質問では、先の利用頻度や視聴タイミングとは対照的に、性別・年代で見事にバラバラという結果になりました。 1位こそ男性は「ゲーム実況」、女性は「美容・ファッション」で10・20代とも同じだったものの、2位以下は「やってみた系」、「雑談系」、「歌ってみた/踊ってみた」「大食い」「その他」(音楽・ディズニー・お笑い・アニメ)など、ランクインしたジャンルは多種多様。 この「多様」というキーワードも、YouTubeが若者に人気の理由のひとつでしょう。 昨今のテレビ番組は大きな“失敗”を恐れてか「どの局のどの時間帯も同じようなモノばかりになった」と視聴者から指摘されてしまうような番組編成が目立ちます。 東京でいえば在京キー局と呼ばれる日本テレビ・テレビ朝日・TBSテレビ・テレビ東京・フジテレビ、それにNHKやMXテレビなど数局しか選択肢がない中で、YouTubeには実に31万チャンネル以上もの登録があり、有名YouTuberから一般人の投稿するコンテンツまで数限りない選択肢があるのが実情です。 日本のYouTuber情報を発信するサイト「YuTura(ユーチュラ)」が公開した2020年10月時点の累計動画再生回数ランキングでは、企業とのタイアップでコンビニ商品を売り切れにするほどの影響力を持つ「はじめしゃちょー」や「ヒカキン」、世界中の料理や屋台ご飯を紹介する「Travel Thirty」など、ジャンルを問わないさまざまな動画がランキング上位に名を連ねています。 自分の好きなジャンルで見たい番組を自分自身で選び出す。そうした視聴スタイルが可能なYouTubeは、情報の取捨選択が得意な若者と非常に親和性が高く、テレビ以上に相性が良いと言えるのかもしれません。 消費行動にも直結する実態、その理由消費行動にも直結する実態、その理由 さて、このように現代の娯楽コンテンツのひとつとして確たる地位を築いているYouTubeですが、注目すべき影響力はこれだけに限りません。 先のアンケート調査で「YouTube動画を見て消費行動を起こしたことがあるか」という問いに、10代の69.9%、20代の55.7%が「ある」と回答しています。 具体的な行動としては、10・20代男女とも「動画で紹介していた商品を購入」が最多。男性よりも女性の方がその割合は高く(10代46.5%、20代34.0%)、好きな動画ジャンルの1位が「美容・ファッション」の女性ユーザーたちにとって、動画視聴は関連商品の購入に結び付きやすい傾向にあるのでしょう。 YouTube視聴によって商品購入などの消費行動を喚起された経験のある10・20代は過半数に上る(画像:TesTee) さらに、商品の購入だけでなく「動画で紹介していたお店に行く」も、2~3割の人が経験済み。つまり、ここまでのYouTube利用動向をまとめると、 1.スキマ時間があればYouTubeを開く 2.興味ジャンルの動画を自ら選択し、視聴する 3.興味ジャンルでの情報収集は、購買行動にも直結する と言えるのではないでしょうか。 若者ならではの心理特性「共感力」 最後にもう1点。現代の若者独特の「心理的特性」がYouTube視聴を後押ししている側面にも触れたいと思います。 ミレニアル世代・Z世代と呼ばれる若年層は、SNSで自身の気持ちや日常生活を発信することに抵抗を持たない世代です。また自分自身が情報発信した経験があることから発信者側への「共感力」が高いことも特徴と言われます。 スマートフォンなど身近なデバイスを使って、空いている時間に好きな場所でアクセスできるようになった動画コンテンツ。 リラックスした時間に自分の好きなコンテンツに触れることは「共感」を生み、その気持ちは「応援」という形に代わって「視聴すること」「コメントすること」、さらには「紹介された場所へ行く」「紹介された商品を購入する」という行動を生んでいるのです。 YouTuberは「努力家」「頑張り屋さん」YouTuberは「努力家」「頑張り屋さん」 このことを象徴するように、先の「YouTuberに関するイメージ調査」では次のような声が寄せられました。 ・面白く、時代の先をいく。誰もやっていない気になることをやってくれる(17歳 女性) ・夢を持って頑張っている(18歳 男性) ・離れていても動画で笑顔にできる身近な存在(19歳 女性) ・成功者が多いイメージ(人生のやりたいことを見つけた人とか)(21歳 男性) ・世間的には悪く言われることもあるけど、それぞれ目に見えないところでものすごく努力している(21歳 女性) ・自身の可能性を日々磨いてる、頑張り屋さんな人(25歳 女性) YouTuberという職業を「楽しそう」と感じる一方で、動画を作成する大変さをねぎらう声や、「楽しませてくれる」「笑顔をくれる」など一視聴者として感謝を表すポジティブな意見が多く見受けられました。 今回テーマとしたYouTubeには多くのチャンネル・配信者がいますが、その中にはトップYouTuber同士のコラボレーション企画も多々あります。 旧来のTV番組では見られなかった、垣根のない共同コンテンツ・共同演出が可能なことも、新しいプラットフォームであるYouTubeならではと言えるでしょう。 そんなつながりも実現できるプラットフォームだからこそ、若い世代の興味関心を強く引きつけているのかもしれません。
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