大人にも広がる「電話恐怖症」 受けるのも掛けるのも“怖い”理由とは?
最近の若者は固定電話に慣れておらず、職場に掛かってくる電話も取りたがらない、といった話をしばしば耳にします。しかしこの「電話恐怖症」、若者だけでなく大人にも広がっているようです。一体なぜなのでしょうか。ライターの鳴海汐さんが現状をリポートします。テレワーク浸透、都内企業の電話離れが加速 2020年以降大きく変わったことのひとつに、会社員の働き方があります。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、東京都は「テレワークでSTAY HOME」を呼び掛けています。 東京都が発表した最新(2021年5月)の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は64.8%。つまり半数以上、ほぼ3社に2社の企業がテレワークを導入しています。 若手の新入社員だけでなく、実は大人にも多い「電話恐怖症」とは?(画像:写真AC) 取引先企業に電話を掛けても「本日、担当者は在宅勤務をしておりますので、メールでご連絡をいただいてもよろしいですか?」と返されることもしばしば。仕事におけるコミュニケーションツールは社内外を問わずチャットやメールがメインになっていると言えそうです。 「電話離れ」が進んでいるわけですが、この傾向を喜んでいる若い世代は少なくないのではないでしょうか。 「新人は電話を取らないといけない」?「新人は電話を取らないといけない」? 近年、固定電話に慣れていない若い世代が職場の電話に出ないと言われています。 世の中には「新人はほかに仕事ができないのだから電話に出るべき」という考えの人が圧倒的に多いようですが、筆者は完全には賛成できません。自身が会社員時代に30代で転職し、入社初日かその翌日から電話に出ることになった“恐怖”を思い出すからです。 東京都が2021年6月3日に発表した、5月の都内企業のテレワーク実施率。テレワークが浸透し、会社で電話を取る機会は急速に減った(画像:東京都労働環境課) 取引先からの電話を取り次ぐにも、社員の名前も覚えていないし、電話機の転送の方法もあやふや。そしてまだ会社の取扱い商品の概要も覚えていないのに、一般のお客さんからの問い合わせ電話に出るなんて! 動揺とともに腑に落ちない思いでいっぱいになりました。 シーンと静まり返る職場で皆が筆者の応対を聞くなか、何度も電話を保留にして同僚に質問するという冷や汗ものの状態を経験しました。先方からの印象も当然良くないはずです。 「そうやって皆仕事を覚えていくんだ」では収まりきらない、非合理とも感じられるモヤモヤがしばらく続きました。基本的な知識に加え、会社にとってのVIPの存在などある程度の事情を知ってから電話対応をスタートさせた方が、会社にとってもメリットが大きいのでは? というのが持論です。 電話は掛けるタイミングにも気を遣う電話は掛けるタイミングにも気を遣う 電話は、受けるだけでなく、掛けるのにも少なからぬ緊張を要します。「電話は相手の手を止めるもの」なので、迷惑をかけてしまうという感覚があるからでしょう。電話で説明することに不安を感じ、あらかじめメールを送っておくなどの対応をする人もいるのではないでしょうか。 電話の何が“怖い”かというと、声色などから相手の気分を察知しやすいところです。そのため、朝は「先方が忙しいだろうから」、昼前は「おなかが空いて落ち着かないだろうから」、13時頃だと「まだ休憩中かもしれないから」、などとグズグズします。14時頃になりコーヒーを飲みながら勇気を奮い立たせ、意を決して電話を掛けるのです。 そして携帯電話に掛けて、相手の通話口から風の音が聞こえれば、外出中だったかと萎縮します。固定電話に掛けて、「席を外しております」と聞けば、折り返しの申し出に恐縮したり、相手が出なくてホッとしたり、また緊張が先延ばしかとがっかりしたり……。 難しいのは仕事上の電話だけではない なぜ仕事の電話には、こんなにも苦手意識が付いて回るのでしょうか。現在40代の筆者の場合、プライベートにおいては20代前半くらいまでは家の固定電話、その後はPHSや携帯電話を使って人と長電話することが当たり前だった世代です。 それがいつの間にか、友人との連絡・コミュニケーションはSNSでのチャットになり、電話で話すことはほとんどなくなりました。 電話をよく使っていた時代においても、お店に電話するのは多少の緊張を伴うものでした。 美容院や飲食店への予約も、電話を掛けるタイミングが気になってしまう(画像:写真AC) 夕方の飲食店の予約は、できるだけ店内が忙しくなさそうな開店直後に電話しますが、呼び出し音が長引くほどに、ハラハラ。この忙しそうなときに電話か! とか思われるのではないかと想像してしまうからです。 美容院やエステ、鍼灸(しんきゅう)院などで担当さんと話すことになる状況も勇気が要ります。お店で対面で楽しく会話しているときのテンションに合わせないといけないと考えてしまうからです。自分が元気なときでないと、電話を掛けるのが面倒に感じられてしまうのです。 「オンモード」と「オフモード」「オンモード」と「オフモード」 ほとんどしなくなった友人との通話ですが、SNSでチャットしている最中に、友人が今なら通話できると考えていきなり電話をかけてくることがありますが、実はこれは苦手という人も少なくないかもしれません。 着信音が鳴る携帯を眺めてやり過ごしてしまったという経験は一度くらいあるのではないでしょうか? 友人からの着信でも、家にいるときはつい出るのを躊躇してしまうことも(画像:写真AC) 家の外に出ているときはまだ外交モードが「オン」になっているので、待ち合わせなどの通話は大丈夫。ですが、家でオフモードのときに電話に出るのは妙に辛い。 オフモードのときは、家族レベルは大丈夫ですが、全く知らない人よりも少しでも知っている人や親しい友人から掛かってくる電話の方が、相手のテンションに合わせる必要があるから気を遣ってしまうのでしょう。 若者以外も……実は多い「電話恐怖症」若者以外も……実は多い「電話恐怖症」 新卒でもない自分がいつまでも電話が苦手はおかしいことなのかとインターネットで検索してみると、大人世代、特にオーバー40らしき人でもけっこういることが分かりました。 とくに、美容院の電話予約が苦手な人がけっこういるようで、「ネット予約ができるお店に変えた」という書き込みもちらほら。 電話が苦手な人は思ったより多いのかもしれないと考えていたところ、全国300人を対象とした「日々のコミュニケーション手段に関する意識調査」という2020年の国内の調査(セゾン自動車火災保険)を見つけました。 「自宅や勤務先の固定電話が鳴ると緊張する」「固定電話に電話を掛けるときに緊張する」「留守番電話にメッセージを入れることが苦手だ」などの10の質問から割り出した「電話恐怖症」と仮定される人は40.3%に上りました。 彼らのうち90.9%が「電話をする前に話す内容や言葉を準備する」など、事前に時間を要しているようです。 電話恐怖症の人の77.7%が「お店に予約を入れるときは電話よりインターネットを使う」ことを選ぶのですが、その理由に「雑な対応をされると傷つく」という人がいました。雑な対応でなくても、相手から忙しさを感じたらきっと恐縮してしまうのでしょう。 「日本人が内気だから」ではない「日本人が内気だから」ではない この電話恐怖症ですが、日本人の内気さのせいかと思ったのですが、そうではないようです。 2019年のイギリスの電話応答サービスFace For Businessが2019年に500人のオフィスワーカーに行ったアンケートではオフィスの電話に出るのに不安を感じたことがある人が62%いました。 世代別に見ると、ミレニアル世代 (1981 年から 1996 年生まれの世代) は76%が該当するという事実があるものの、ベビーブーマー世代(1946 年から 1964 年生まれの世代) にも40%います。 その恐怖の内訳はというと、「質問に対処できないかもしれない恐怖」が33%、「電話での(気まずい)沈黙への恐怖」が15%、「相手が自分を否定的に考えるかもしれないという恐怖」が9%などとなっています。 電話ならではの効率性・メリットは活かしつつもチャット・メールをメインにいくつか海外の電話恐怖症に関する記事を読みましたが、心理学者が言うのは、「数をこなすことで克服を」ということ。しかし筆者の経験からすると、電話に多少慣れても緊張がゼロになることはないと思われます。 電話とメール、上手な使い分けを電話とメール、上手な使い分けを もちろん、電話によるコミュニケーションの良さも認識しています。 チャットやメールなどは打ち込むのに時間がかかりますが、電話だと短時間で伝えることができます。相手の反応を見て、次の話をするといった発言の往復が短時間で済みます。声音などから相手が乗り気なのかどうか、チャットやメールより反応が読み取りやすいことも利点です。 チャットやメールで済む用件は、なるべくそれらで済ますというのも現代の働き方にマッチしていると言えるかもしれない(画像:写真AC) 逆にチャットやメールは、相手のその時点での都合を考えずに連絡をしておける、即答が要らず、よく考えながら書くこと、書き直しができることが便利です。そしてなんといっても会話が記録に残るところが強みになります。 今後も使い分けしていくべきだと考えますが、電話恐怖症が世の中にこんなに多いのであれば、皆がその事実を認識し、チャットやメールで済むことはそちらを積極的に活用していくという流れを強化していくのが妥当かもしれません。 また「メールだけでは失礼だから電話しなければ」という考えは「決してそんなことはない」「むしろ、すでに前時代的なマナー」なのだという風潮ができれば、コミュニケーション上のストレスが世の中から減っていくのではないかと感じています。
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