東京なのに、ベランダから「クジラ」が見える場所があった!
冬のベランダからクジラが見える東京 あなたが洗濯物を干すとき、ハンガーにかけた洗濯物の向こうに見える景色は、どんな景色ですか? 街中住まいの人は、隣りのマンションやアパート。農村エリアだと山や田畑。島や港町では海も見えることでしょう。 では、東京から南へ約1050km離れた小笠原諸島に浮かぶ絶海の孤島・母島では何が見えるのでしょうか? 「冬は、洗濯物を干してると、ザトウクジラが見えるよ」 え? なんですって? 私(松鳥むう。島旅イラストエッセイスト)の聞き間違いでしょうか? それとも「"ザトウクジラのぬいぐるみ"が見える」の間違いでしょうか? いえいえ……ほんもののザトウクジラです! 体長15m前後の黒いクジラさんです。 「ザトウクジラのブロウ(潮吹き)が見えるのよ。たまに、船が着く港の湾内にも入って来てることもあるよ」 母島で泊めてもらったその知人の自宅の窓からは、たしかに美しく青い海が見えます。 そんな海が見えるだけでも非日常過ぎるのに、ザトウクジラを都会のそのへんに飛んでいるカラスぐらいのノリで紹介されてしまったような不思議な気分です。 日本一の大都会・東京にある島で日本一の大都会・東京にある島で 曲がりなりにも、母島の住所は"東京都"。信じがたいことですが、高層ビルが立ち並ぶ日本一の大都会と同じ"都内"なのです。 ちなみに、その知人の息子さんは幼い頃、東京は下町にある親戚の家に初めて泊まったとき、窓を開けて大泣きしたことがあったそうです。なぜって? それは…… 「お母さん! 窓の外にクジラがいないよー!(号泣)」 悲しむレベルが、もはや異世界状態です。けれども、耳にタコができるほど言いますが、東京都のお話です。 小笠原、ザトウクジラに出会える島 小笠原諸島の有人島は2島あります。父島と母島です。 交通手段は、東京は竹芝桟橋(港区海岸)から週約1便の「おがさわら丸」だけ。父島までは、片道24時間かかります。飛行機なら、地球の裏側に行けてしまうくらいの所用時間です。 母島のある小笠原諸島で見られるザトウクジラ(画像:小笠原村観光局) が、これでも、新船になって1時間半短縮されたのです。母島へは、父島で「ははじま丸」に乗り換えてさらに約2時間。乗り換え時間(約1時間)も合わせると、竹芝桟橋を出て母島に着くのは約27時間後なのです。 気が遠くなる話ですが、実際は、景色の変化に興奮していると意外にもあっと言う間に着いてしまいます。 クジラのジャンプにはしゃいでいたら……クジラのジャンプにはしゃいでいたら…… さて、そんなはるか遠い東京都の海に、毎年、冬になるとやって来るのがザトウクジラたち。ここ小笠原諸島は、彼らの繁殖と子育ての地(もとい……海?)なのです。 国内の他地域でもホエールウオッチングなるものはいくつか行われていますが、小笠原のホエールウオッチングは、ちょっと規模が違います。 父島でツアー船に乗って沖に出るホエールウオッチングツアーに何度か参加したことがあるのですが、最初はブロウ(潮吹き)を遠くに発見しただけで「ザトウクジラが、いたー!」と、きゃっきゃっとはしゃいでいました。 そのうち、遠くでブリーチングというジャンプをするザトウクジラが1頭、また1頭……しまいには、あっちでもこっちでも飛びまくり、ブリーチング祭り状態になったことがありました。 ホエールウオッチングで目の前に姿を現すザトウクジラ(画像:小笠原村観光局) はたまた、1頭のメスを7頭のオスがブホッブホッと息を荒げながら追いかけて行く現場に遭遇したことも。ザトウクジラの黒い背中が透きとおる深く青い海に出たり入ったりと繰り返します。 メスは、どれもこれもタイプではないようで、必死で逃走中。そんなお年頃の8頭が約20人乗りの小さなツアー船のすぐそばを通って行くのです。 オスのブホッという息のしぶきが、風に乗ってツアー船上の私たちにまで届くかと思うほどの至近距離。遠い遠い北の海から、毎年、迷うことなく小笠原諸島にやって来るザトウクジラたちを眺めていると、こう思わずにはいられません。 「地球ってなんて雄大なんだろう。そして、人間は地球上で、なんてちっぽけな存在なんだろう」と。 定期船で「ザトウクジラ祭り」!?定期船で「ザトウクジラ祭り」!?「ツアーに参加しなくても、はは丸(ははじま丸)に乗ってるだけで、2~4月はクジラ見放題よ!」 そう教えてくれたのは、ははじま丸船上で出会った小笠原超リピーターのお姉さん。その言葉通り、2月に乗船した際、私は船上で大忙しでした。 「あ! ザトウクジラがペックスラップしてる! バイバイしてるみたいで、かわいい!」 ペックスラップとは海中で横向きになったザトウクジラが海面上に片方の胸びれを出し、ペシペシと海面を叩く動きのことです。 嬉々と叫んだのも束の間、今度は、少し遠くに別のザトウクジラの姿が見えるではないですか! 「おぉっ! 飛んでる! ブリーチング!!」 「わ! 船のすぐそばにもいる! わー! わー!」 あっちを見、こっちを見、ザトウクジラ祭りの2時間です。もう、ブロウごときでは喜ばなくなっている自分がいます。慣れって怖い。 洗濯物を干しながらザトウクジラを眺める生活、母島では日常風景(松鳥さん制作) 2020年も年末が近づいて来ました。ザトウクジラたちが、冷たい北の海から小笠原諸島へと移動してくる季節の到来です。 いつか、洗濯物を干しつつ「あー、今日もザトウクジラが元気に潮吹いてるねー!」と、つぶやいてみたいものですね。
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