東京に「子育てに安心なエリア」など本当に存在するのだろうか
近年変化したエリアと学力の相関性 東京で結婚して家庭を持つ場合、特に考えなければならないのは子どもの教育問題です。そのため、住むエリアは重要な問題となります。独身時代や夫婦だけの世帯であれば、憧れの町に住めますが、子どもの教育を考えるとそうはいきません。 もちろん幼稚園から有名私立小学校に入学して、そのままエスカレーター式であれば安心ですが、そのようなことができる家庭は一握りでしょう。 住むエリアを選ぶ際、ひとつの指標となるのが「各区の学力」です。しかし、東京都は各自治体の公立校学力調査は長らく平均点を公開していません。 現在入手できる2008(平成20)年の平均点を見ると、小学校のトップは渋谷区で81.6点。以下、千代田区の80.8点、目黒区の79.6点、杉並区の79.5点と続きます。対して、ワースト3位は下から大田区の74.7点。足立区の75.2点、板橋区の75.2点です。 2008年時でもっとも学力が高かった渋谷区(画像:(C)Google) 日本にも貧困層が存在することが話題になった2000年代初頭、このような学力格差は大きくクローズアップされました。当時の論調は貧困層が多いとされるエリアは必然的に学力も低下するというものでした。 ところが、それから十数年を過ぎた現代において論調は変わりつつあります。というのも、多くで再開発が進み、タワーマンションなどができて新住民が増えた結果、環境が一変しているエリアがあちこちにできたからです。 キーワードは「モザイク状態」キーワードは「モザイク状態」 例えば、葛飾区の金町一帯は激変したエリアといえるでしょう。 もともと金町一帯は工場群とそこで働く人々、そして商店街という純然たる下町でしたが、工場移転後の再開発で東京理科大学(新宿区神楽坂)が葛飾キャンパス(葛飾区新宿)を設置。さらに周辺にマンション開発が進んだことで、そのエリアだけ新たな山の手のような空間を生み出しています。 東京理科大学の葛飾キャンパス(画像:(C)Google) これは極端な例ですが、23区には区内の教育格差が大きなエリアが当たり前に存在しています。例えば北区は、もともと工業地帯として発展した王子区と高級住宅地だった滝野川区が合併してできた区です。 しかしいまだに王子駅をおおよその境界線にして、雰囲気の異なる町並みが広がっています。この差がそのまま教育レベルの差になっていることは知られています。また墨田区でも、江戸時代から発展してきた南部と明治以降に人口が増加した北部とでは、教育レベルに差があります。 国勢調査は最終卒業学校も調査しています。これ基にすれば町別の大卒者の割合を知ることができます。ただ正確な統計は時間がかかるため、現時点で最新データは2010(平成22)年となっています。 これによると北区は南部の大卒率が約20%、北部が約17%になります。ただ、単純に南部の学力が高く、北部が低いわけではありません。赤羽周辺は一般的な南部よりも大学進学率が高くなっており、さらに田端方面も約36%と特出しているエリアがあります。このようなことからも、実態としてはモザイク状態となっているのです。 このモザイク状態がもっとも激しいのは大田区です。前述の通り学力調査では最下位の大田区ですが、区全体の大卒率は約23%となっており、杉並区の約33%、世田谷区の約28%より低くなっています。 しかし大田区の高級住宅地・田園調布を見ると大卒率は約41%にも達しており、千束や南久が原のようなエリアは30%を超えています。同様の現象はほかの区でも起きていて、江東区は区全体の大卒率が約24%ですが、豊洲は約39%、有明は約42%となっています。 子育てエリアはミクロな目線が必要子育てエリアはミクロな目線が必要 つまり子育てを考えて住む町を決めるのであれば、区市町村の単位ではなく、もっと小さな視点で子育てに適しているかを見る必要があるのです。 前述の大卒率はひとつの指標にすぎません。というのも、23区でも特にブランド力のある某区の場合、区全体、エリアの大卒率は高いものの、決して子育てによい環境とはいえないからです。 とりわけ公立小学校に子どもを通わせる場合には注意が必要です。ブランド力の高いエリアのため、当然、そこに住んでいることをステータスだと考えて引っ越してくる人は少なくありません。 お受験のイメージ(画像:写真AC) そうした住民が住むステータスの次に考えるのは、子どもをお受験させて名のある名門校に入学させることです。結果、公立小学校にはお受験に失敗した子どもが多数となります。早いうちに体験した挫折がプラスになる子どもはあまりいませんし、むしろそれが原因で問題行動を起こす子どもさえいます。 また東京都では2000年代中盤以降に団塊世代の大量退職が始まってから、新卒教員の採用数を増やしました。結果、新任者に対する教育がまったく追いつかず、そのひずみはいまだに続いています。 ひとつ結論があるとすれば、子どもを通わせて安心なエリア・住んで安心できるエリアなどは存在ないということです。実態はモザイク状態。やはり欠かせないのは、子どもをフォローする家庭での教育となるのです。
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