ホッピー片手に「自分の居場所、見~っけた!」 都内の立ち飲みイベント描く漫画が人情味あふれて泣ける
今宵もにぎやかな笑い声に誘われるように「立ち飲み屋」に吸い込まれていく人がひとりふたり……。その魅力を、エッセイストでイラストレーターのおのみささんが語ります。麹を使った「立ち飲み」イベント みなさんは「立ち飲み屋」で飲んだことがあるでしょうか? 私は自分の麹(こうじ)好きが高じて、2015年頃から年に5~10回くらい、経堂にある知り合いのお店で「麹酒場」という立ち飲みイベントを開催しています。近所の人や、酒好き、麹好きの人たちが毎回、男女10~20人くらい集まります。 「麹酒場」4コマ漫画「東京ホピリンピック噺」のカット(イラスト:おのみさ) 塩麹、酒かす、甘酒などを使った「麹つまみ」を私が作り、それをみんなで食べ、お酒を飲みながらダラダラと話をする、というゆるーいイベントです。麹つまみは「発酵レストラン」で出しているような凝ったものではなく、塩麹蒸し鶏や塩麹ゆで卵といったシンプルな家庭料理的なもの。 ご存じの方も多いかもしれませんが、麹には、滋養強壮作用や消化促進、美肌効果、老化防止など、身体に良いことがたくさんあります。ふだんなかなか麹を摂ることがないであろう人にも、ふんだんに摂ってもらい、健康になってもらいたいという気持ちで開催しています。もちろん、イベントを通じて知り合った人と、仕事でつながればいいなぁという、“下心”もアリです。 カップルも本も誕生! 「立ち飲み」の魅力とは? 当初は立ち飲みではなく、テーブルに座っていたのですが、「もう少しカジュアルにしたい」と思い、立ち飲みに変えたところ、これがなかなか良いことに。 隣の人だけではなく、遠くに立っている人と話が合えば簡単に移動して話せるし、逆に隣の人の話が面白くなくて、面倒くさいなぁと思ったら、料理を取りに行くフリをして、さりげなく場所を移動することもできる。 いいでしょう! イベントを通して、私の友人や、麹に興味を持つ人同士が初対面にもかかわらず、一緒に酒を飲んで話をし、笑い合っているのをカウンターの中から見ていると、心から「なんて楽しいんだろう!」と思ってしまいます。 そうやってカウンターで顔を合わせ、話し合うことから生まれる物事は、想像以上に豊かな展開を見せるものです。独身者に相手を紹介した結果(無理強いはせず、本人が望んだ場合のみ)、カップルが誕生し、結婚した例もあります。 常連さん同士が、カウンターで話していたことがきっかけになり、本を出版したことも。私自身も、もうすぐ仲間同士で、お酒にまつわるコラムをまとめたZINE(小冊子)を発行予定です。 ふだん知り合うことがないであろう、ミュージシャンや落語家など、文化的で素敵な人と出会って仲良くなることも可能。立ち飲み屋のカウンターを囲んで、カウンターカルチャーが生まれているのです! わざわざ電車に乗って出かけて、お金を払って飲まなくても、SNSで気の合う人と交流しつつ、家で気軽に缶ビールでも飲んだ方がいいという人もいるでしょう。それはそれで、私も好きです。家飲みなら終電も気にしなくていいですしね。 実際、私も手放しで立ち飲みをおすすめしているわけではありません。お酒が入ると説教する人、からんでくる人、セクハラ発言する人など、面倒な人がいますよね。私も何度ムカついたか! そういう輩を避けるためにはまず、「信頼できる店主のいる店」を選ぶことをおすすめします。優しいだけではなく、面倒なことを言う客をちゃんと怒ってくれ、あまりにひどい場合はその人を出禁(出入り禁止)にする。そうすると、自然と感じのいい人たちが集まってきますから。そういう店だとこちらも安心して飲めますよね。 いざというときに助け合える「コミュニティー」になるいざというときに助け合える「コミュニティー」になる「麹酒場」4コマ漫画「美酒乱落語家」のカット(イラスト:おのみさ) 私が立ち飲みを愛し、自らイベントを開催し続けるのは、立ち飲みこそ現代人の「居場所」になり得ると思うからです。 とにかく顔を合わせて話すと、話が早いし、変な誤解も生まれにくいので、信頼関係が築きやすい。自分とは全く違う業種の人なのに「この店が好き」という共通点があるせいか、気が合う人が多いんですよね。 ふらりと店に入って、立ったままお酒を飲むというカジュアルさと、お酒によるほろ酔いで、心をさらけだしたトークをしているうちに、自宅以外に自分が安心して過ごせる居場所ができ、いざというときに助け合える仲間もできます。 実際、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災のときは、立ち飲み居酒屋が、都心で働く常連さんたちの避難所のようになっていたそうです。私がイベントを行うお店も、普段から常連さんの近況(病気やけがや仕事のことなど)をよくうわさしています。 2016年の熊本地震や「経堂こども文化食堂」の募金箱が常に置いてあり、その箱にほこりがかぶることはありません。みんな自分の募金が正しく使われると分かっているのです。 私自身も、常連さんたちに仕事や人間関係のことなど、話せる範囲で話を聞いてもらい、適切なアドバイスをいただいています。私がアドバイスすることもあります。家族でも恋人でもないからこそ話やすい、ということもありますよね。 災害、病気、事故……。人生には、個人の努力だけではどうにもならない出来事が起こります。そんなときに求められるのが「居場所となるコミュニティー」の存在です。楽しく飲んで食べていたら、いつの間にか居場所や仲間ができていた! なんて、素敵だと思いませんか? 人と人とのコミュニケーションは難しいですし、一朝一夕でどうにかなるものでもありません。だったらアレコレ考えずにその場に飛び込んでしまうのが一番! 失敗したらしたで、立ち飲みしながら、話しやすい人に「コミュニケーションがうまくいかない」という話をすればいいのです。そうやって話していくうちにいつの間にか少しずつ、自分の居場所ができていくのです。
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