目立たないけどノーベル賞輩出 実は早大より古い「東京理科大」とはどのような大学なのか
大学郡名のひとつとして知られる「早慶上理」(早稲田大学、慶応義塾大学、上智大学、東京理科大学)。前者3校に比べ知名度が若干低めな東京理科大学の魅力について教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。大村智博士を輩出 2015年、北里大学特別栄誉教授の大村智博士がノーベル生理学医学賞を受賞しました。 そんな大村博士が修士課程をおさめた大学は、東京理科大学(新宿区神楽坂)です。日本人受賞者は国立大学出身者の独壇場であるなか、唯一の私立大学出身者。この偉業は上位私立大学の双璧を成す早稲田大学(新宿区戸塚町)、慶応義塾大学(港区三田)もいまだに達成していません。 東京理科大学 神楽坂キャンパスの外観(画像:(C)Google) 理系大学として確かな実績を上げている東京理科大学ですが、早稲田大学や慶応義塾大学、上智大学(千代田区紀尾井町)と比べて一般的に知名度が低い印象です。 ということで今回は、地味ながらも実はすごい東京理科大学に迫っていきます。 京大や早大よりも古い 東京理科大学の前身「東京物理学講習所」が創設されたのは、1881(明治14)年にさかのぼります。早稲田大学の前身「東京専門学校」がその翌年に開校したことを考えると、国内でもトップクラスの歴史を持つ大学と言えます。 中村精男、寺尾寿ら東京帝国大学理学部物理学科の卒業生21人の有志によって創設された東京物理学講習所は私塾で、創設2年後に名称を「東京物理学校」に改めました。 1897(明治30)年に京都帝国大学が創設されるまで、日本国内で自然科学を学べるのは東京帝国大学と東京物理学校だけだったということもあり、多くの学生が門をたたきました。夏目漱石の作品「坊ちゃん」の主人公である新任教師も、東京物理学校卒という設定です。 物理学のイメージ(画像:写真AC) 最大の特徴は、創設当初から夜学校として、昼間に仕事をしている人向けに高度な勉学の場を提供していた点です。現在も日本で唯一の夜間学べる理学部は数学科や物理学科、化学科の3科構成となっています。 大村博士も高校教師として働く傍ら、夜学校に学んでいました。このことは、夜学校であっても非常に質の高い研究の場であることを証明しています。 キャンパスは、 ・神楽坂キャンパス(理学部第一部・二部、工学部〈工業化学科〉、経営学部) ・野田キャンパス(千葉県野田市。薬学部、理工学部) ・葛飾キャンパス(葛飾区新宿。理学部第一部〈応用物理学科〉、工学部〈建築学科、電気工学科、情報工学科、機械工学科〉、工学部第二部、基礎工学部〈2~4年次〉) ・長万部キャンパス(北海道長万部町。基礎工学部〈1年次〉) があり、特に神楽坂キャンパスは、東京メトロやJR総武線など5線が乗り入れする飯田橋駅から近いため、立地もよく通学しやすい環境です。 しかし知名度が低いしかし知名度が低い 理系大学として歴史も実績も兼ね備えている東京理科大学ですが、前述のとおり、他の有名私立大学と比べて知名度が低い印象があります。 東京理科大学出身者の多くは就職で研究畑に進むため、表に出ることがあまりありません。会社を引っ張る人材というより、裏方となって企業を支える専門性の高い人材と言っていいでしょう。 また理工系総合大学ということもあり、一般認知度がなかなか高まらないと考えられます。日本では法学部や政治経済系学部出身者が企業のトップや政治家になることが多く、その中でも特に東京大学、早稲田大学、慶応義塾大学、そしてMARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)や日本大学卒業者の割合が高くなっています。 そんな東京理科大学にも1993(平成5)年、初の文系学部となる経営学部が新設されました。同学部は理工系の強みを生かしたデータ重視の経営学を学べるため、他大学の経営学部とは異なるカリキュラム内容となっています。 起業家たちのイメージ(画像:写真AC) 1年次にアントレプレナーシップ(起業家教育)入門を学ぶなど、かなり先鋭的な内容を学べます。また2016年4月に創設されたビジネスエコノミクス学科では、企業から引く手あまたのビックデータ解析に力を入れており、文系学部と言えど、理系学部と同等の実践的な教育が受けられます。 歴史ある東京理科大学の中では新しい学部ですが、これまでと違う人材を輩出していくのか注目したいところです。 約4割の女子学生が大学院へ 理系学部というと、どうしても男子学生の割合が高くなりがちです。東京理科大学も一見すると男子学生が圧倒的に多いイメージがあります。 しかし2020年3月卒業見込みの学生の性別人数を見ると、男子学生3416人に対し、女子学生は1042人と女子学生の割合は意外と多くなっています。他大学とともに女子中高生向けの「リケジョ」啓発活動を行うなど、実像が伝わりにくい理系学部の女子学生のリアルな姿を積極的に行っています。 リケジョのイメージ(画像:写真AC) また、2019年3月卒業生の4割近い女子学生が大学院に進んでおり、研究熱心かつ勉学に励める環境にいることを裏付けています。 進路状況掲載からわかる大学側の自負進路状況掲載からわかる大学側の自負 女子学生の就職先として一番多いのは情報産業で、大学で学んだ知識を活用できる職種を選択しています。卒業生の6割近くは就職を選択していますが、公務員や教員も多く、大企業に強い実績があります。 女性教員のイメージ(画像:写真AC) 母数が大きく男女別のデータを公表していない他の有名私立大学と比べても、いかに女子学生が狭き門をくぐり抜けているのかがわかります。ウェブサイトではその進路状況を詳しく載せていることからも、優秀な人材を送り出している自負が大学側にあると感じられます。 控えめな実力主義の大学 東京理科大学は早稲田大学・慶応義塾大学や上智大学のように、華やかな感じはないものの、創設から専門性の高い教育を受けられ、即戦力を育てる校風が受け継がれています。 東京理科大学のウェブサイト(画像:東京理科大学) 開学以来の伝統ある夜間学部も健在で、学費も国立大学並みに抑えられているなど社会人が通いやすい仕組みを作り、幅広い年代に門戸を開いています。 都内の他大学に比べれば確かに地味ですが、確かな学力と社会に出てからすぐに戦力となる知識を学べる、評価の高い大学といえるのではないでしょうか。
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