新型コロナウイルス流行で懸念される「マスク依存症」の再来
一向に解消されないマスク不足 新型コロナウイルスをめぐる国内の情勢は刻一刻と変化しています。 東京では1日当たりの感染者数が連日最多を更新し続け、2020年3月28日(土)には新たに63人の感染を確認。首都圏一帯で週末の外出自粛要請が出されるなど、緊迫した状況が続いています。 一方で、コロナによる「自粛疲れ」で気の緩みも指摘されました。 文部科学省が学校の一斉休校を解除すると発表した20日(金)頃に「コロナ収束ムード」が広まったとみられ、この日を含む3連休には前週より多くの人が街へ繰り出したと言われています。 東京都内でも人気の桜の名所、目黒川(目黒区)周辺では若者を中心に人出が見られた様子がテレビなどで報じられました。 マスクをしていると小顔に見えるって、本当?(画像:写真AC) テレワークや時差出勤をいったん終了した人も多いようで、都内の朝夕の電車は再び満員です。もともとマスクを装着していない人は一定数いましたが、近頃マスクの手持ちが切れた人が多いのか、着用率が下がってきていると憂慮するつぶやきがSNSで見受けられます。 マスクをしていない = 配慮に欠ける? 新型コロナウイルス対策としては、マスクを装着していれば、もし自分が人知れず感染していた場合に咳(せき)をして人に移すのを防ぐ効果があると言われています。 空気中を漂う新型コロナウイルスはマスクの生地を簡単にすり抜ける小ささなので、マスク装着だけで完璧な予防はできないものの、少なくとも人のつばきが直接口や鼻に入ることを防ぎますし、のどを潤して感染しづらくする効果を私たちは期待します。 しかし、こうした科学的な理由だけでなく実は電車内の「人権確保」目的でマスクを付けているという人も少なくないのではないでしょうか。 いまだにどこに行ってもマスクは売り切れで入手困難であることを皆が分かっているのにも関わらず、「マスクをしていない人 = 社会性とデリカシーに欠ける人」といった風潮があるからです。マスクをしていても咳(せき)をすれば周囲からにらまれてしまうのに、マスクなしなら針のむしろでしょう。 そもそも「なぜ」マスクを付けたがるのかそもそも「なぜ」マスクを付けたがるのか 日本ではもともと、春と秋は花粉症で、冬は風邪対策でマスクを付ける人が多くいます。ひと昔前までは、風邪をひいたらマスクを付けていましたが、いつの間にか風邪予防を目的に付ける人が増えました。 さらにここ数年は、夏にマスクも珍しくなくなりました。つまりオールシーズンです。夏風邪対策よりもマスクのそれ以外の効能を求めている人が多いのでしょう。 それは美容目的。マスクをすると呼気で口周りの肌の保湿がかなうという美容効果がありますが、もっと分かりやすい効果もあります。 まずはすっぴん隠し。芸能人は特に、ノーメーク時に、顔バレ防止対策と併せてマスクを付ける人が多くいるのを私たちは知っています。 マスクをしていないと何となく落ち着かない、なんてことありませんか?(画像:写真AC) マスクは顔の下半分が隠れるので、目元がより印象的に見えて、ミステリアスな仕上がりになるのも人気の理由。マスク補正としては、中央に接着線が縦に入った立体マスク(北海道知事が「緊急事態宣言」の会見のときに付けていたタイプです)には、鼻を高く見せる効果があるように思うと、筆者の友人が言っていました。 マスクを顎(あご)にずらして小顔効果を狙う若者もいますが、装着したままでも小顔効果があると言われているのが黒マスクです。膨張色の白と違って収縮色の黒が顔を小さく見せるというのです。より顔にフィットする形状で小顔効果を持たせた白やピンクの蛇腹タイプのマスクも発売されています。 隠す心理、隠すことに慣れてしまう危うさ隠す心理、隠すことに慣れてしまう危うさ マスクを美容目的で使うことについていろいろ書いてきましたが、ここで本題です。 実は今回、新型コロナ対策でマスクをする時間が長くなることで、マスク依存症が増えてしまうのではないかという危惧があります。 マスク依存症になると、マスクを外せないだけでなく、心が内向きになっていってひきこもりにつながる可能性があるとも指摘されています。過去には朝の情報番組で「マスク依存」についての特集が組まれたり、ウェブ上にはマスク依存症かどうかを診断するチェックシートが公開されたりしているほど。 日本でこんなに年間を通じてマスクを付けるようになったのは、一体いつごろからなのでしょうか。一説には、2009年の新型インフルエンザが流行して、皆が長時間マスクを装着した後と言われています。 感染しないようにとマスクを毎日付けているうちに、このマスクというアイテムの便利さのとりこになったのでしょう。もちろん予防目的でマスクを付けるのはいいことなのですが、そこには危険があるのです。 時にはマスクを手放す勇気も必要(画像:写真AC) マスクを付けていて、他の人との間に常に壁を作っているような気分になったことがありませんか? 自分の鼻と口を隠すことで相手に表情が伝わりにくくなりますが、自分の視界は遮(さえぎ)られていません。自分が固い殻の内側で守られているような不思議な安堵(あんど)感があります。 私自身、2019年末に咳で1か月ほどマスクを付けていたのですが、人前でマスクを外すことに強い恥じらいを感じるようになりました。特にマスクを付けた姿しか見せていなかった人々の前で外すことになったとき、「へー、マスクの下はそうなってたんだ~」とか思われたら……なんて想像し、かなり勇気がいったのです。 40代の筆者でそうなのですから、多感な若者ならなおさらなのではないでしょうか。 時にはマスクを外す「練習」も必要時にはマスクを外す「練習」も必要 マスクは自分を守ってくれる、なんでも隠してくれるという気分にさえなってしまいがちなのですが、筆者が時折思い出すのが友人の体験した恐ろしい話です。 当時バリバリと総合職で働いていた彼女は花粉症もち。忙しい日に、マスクでどうせ見えないからと、鼻水を出るがままにしていたそうです。あるタイミングで洗面所に行ったとき、鼻水でマスクに大きなシミができていたことに気づいたそうです。 それまで顔を合わせて会話をした人々の顔が次々に浮かんでがくぜんとしたそう。当時大笑いしましたが非常に恐ろしい話だと思いました。マスクは万能ではありません。 マスク依存症になった人は、マスクなしの状態を少しずつ増やしていく、もしくは上司との会話やプレゼンテーションなど緊張を強いられる場所でこそマスクを外すといった実践的な治療をしていくそうです。 今はただでさえ、「この人が感染者だったら」と他人に対し疑心暗鬼になりますし、人と距離を保つことが強いられる時期です。人が怖くなりやすい要素が満載と言えます。 もちろん新型コロナウイルス対策が重要ですが、マスクを外せるところでは外すことを今から意識しておくとよさそうです。例えばランチタイムや出退勤で人混みのない場所を歩くとき、オフィスで人との距離があるとき。一時でいいので、マスクを外してみませんか。新型コロナ対策と同時に、自分自身の心のバランスも上手に取っていきたいものです。
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