都内の大学、今後どうなる? 「就活支援」の変化から見る近未来のキャンパス予想図
少子化が進むなか、各大学が自校PRのひとつとして掲げるのが「就職活動の支援」です。その“本気度”は、各校いかほどなのでしょうか。今夏、都内の大学20校以上のキャリアセンターを訪ねて歩いた日沖コンサルティング事務所代表の日沖健さんが読み解きます。20以上の大学を訪ね歩いて分かったこと 大学は東京都内の至るところにあり、一般人でもキャンパスに入れるのに、内部の様子は意外と知られていません。 筆者(日沖健。日沖コンサルティング事務所代表)はこの夏、新著『経営コンサルタントが伝えたい、納得できる会社の選び方』(産業能率大学出版部)を献本するために都内の20以上の大学の「キャリアセンター」を訪問しました。そこで感じた最近の大学の目を見張るような変化や、学生の就職を支援するキャリアセンターの一長一短などについて紹介しましょう。 すっかり様変わりしたキャンパスの風景 各大学を訪れてまず目に留まるのは、校舎をはじめとする建物に関する変容です。明治大学や東洋大学、法政大学などは建て替えが成され、近代的な建物に生まれ変わっていました。都心のオフィスビルのような無機質な建物ではなく、機能性と優美さ・温かさを両立した外観。芸術作品としてもかなり楽しめる居住まいには思わず目を見張りました。 続いて学生食堂です。訪問したうちの何校かで実際に食してみたところ、昔は「安い、まずい」が相場だった学食が、今では多くの大学で「そこそこ安い、かなりうまい」に改善されています。そして東京大学の『日比谷松本楼』、明治大学の『椿山荘』といった有名店を構えている大学も増えています。上記の建築物と合わせて、これらのインフラが大学の新たな付加価値になっているのでしょう。 もうひとつ個人的に変化を感じたのは、校門の番をする守衛さんです。昔の守衛は、学生運動の名残りからか、外部からの訪問者をどこか「不審者扱い」するきらいがあったと記憶していますが、今回の訪問ではどの大学へ行ってもアポなし訪問の筆者に笑顔で丁重に対応してくれました。時代とともに求められるものが変化している表れなのかもしれません。 さまざまな変容を遂げる大学のイメージ(画像:写真AC) さて、肝心の訪問先キャリアセンターですが、こちらも筆者の時代と比べるとずいぶん様変わりしていました。 かつては「就職課」なんて呼び名で呼ばれていましたし、そもそも就活支援組織が存在しない大学も珍しくありませんでした。これが就職氷河期の1990年代以降になると、各大学が続々とキャリアセンターを開設(「キャリア支援室」など微妙に違う名称も)。今ではキャンパスのもっとも便利な場所に明るい事務所を構えている大学も多く、すっかり「大学の顔」になったようです。 キャリアセンターにはキャリアコンサルタントの資格を持つ職員らがいて、以下のような多彩なサービスを学生に提供しています。 1. 相談: 学生からのキャリア相談に応じる 2. 紹介: 求人・会社説明会・インターン・OBなどを紹介する 3. 教育: セミナーや資格取得講座を開催する 4. 情報提供: 業界・企業・就活イベントなどの情報を提供する 昔話を恐縮ですが、私が就職活動をした1987(昭和62)年は当然インターネットなどなく、志望する企業にハガキで資料請求することから就活を始めました。就職課があったかどうかさえ記憶にありませんし、大学からの支援は一切なし。それと比べて今の学生は、至れり尽くせりだな、と少しうらやましくなるほどでした。 キャリアセンター運営に垣間見る「本気度」の温度差キャリアセンター運営に垣間見る「本気度」の温度差 ただし、キャリアセンターの活動実態は各校で大きく異なるようです。今回の訪問を通して筆者は、キャリアセンターは大きく3つに分類できるのではないかと考えています。 第一は、実質的にほとんど活動していないケース。これは国立大学に多い印象を受けました。 キャリアセンターの場所は分かりにくく、事務所は狭く、職員は2~3人いるだけ。室内はひっそり静まり返り、学生には滅多にお目にかかりません。国立大学の学生は、昔も今も就職でさほど苦労しないので、大学側に支援を期待していないのでしょう。筆者を飛び込み営業と勘違いして追い払おうとする大学もあり、こちらが面食らってしまうことがあるほどでした。 第二は、多彩な活動を展開してきたものの、ここ数年やや手抜きをしているケース。私立の下位校に多いという印象です。 キャリアセンターの大きな目標のひとつとして「内定率の向上」がありますが、近年就活が空前の売り手市場になり、内定率が100%に近づいたためにホッとひと息ついているのでしょう。筆者が「内定を取るだけでなく、納得できる良い会社を選ぶことが大切です」と力説しても、担当者は「そうですか」という感じであまり手応えを感じられませんでした。 第三は、最近、学生への支援をさらに強化・充実しているケース。私立の中上位校に多いと思われます。 内定率アップに満足することなく、学生により良い会社に入ってもらおうと、多彩な活動を展開しています。室内は学生がたくさんいて、活気にあふれています。担当者は筆者の話に積極的に耳を傾けてくれました。 もはや「日本の高卒者」だけでは立ち行かない 大学がここまで大きく変わった背景は、もちろん少子化の影響があります。高校生の大学進学率は上昇し続けていますが、それを上回るスピードで少子化が進み続けていて、その傾向は今後も変わらないことがほぼ確実です。大学がこの先生き残るためにはいかに自校に学生を呼び込むか、それを結実させるためには今後いっそうの変化を求められることになるでしょう。 では、これから大学はどう変わっていくでしょうか。 さまざまな変容を遂げる大学のイメージ(画像:写真AC) 少子化がますます進むなか、大学は日本の高校を卒業した学生以外もターゲットにする必要があります。その手段として挙げられるのが、まず海外からの留学生。こちらはすでにかなり増え始めています。もうひとつは、地域の高齢者です。 今は「大学=若者が集う場所」となっていますが、時間と資金力がある高齢者は有望な市場。今後、高齢者を取り込もうという動きが活発化すると予測します。 未来の大学は、日本の若者、高齢者、海外からの留学生など多様な人が集う地域の中心として繁栄しているかもしれません。
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