男女の対立は何も生まない――子宮頸がんの元女性患者が男性を巻き込んで活動を続けるワケ
- フェムテック
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アーバンライフ東京編集部
近年、社会で広く取り上げられるようになってきた、女性特有の健康課題。盛り上がりの背景には、「フェムテック」と呼ばれる商品やサービスの台頭がありました。2021年6月15日(火)に開かれる関連イベントを前に、主催者の女性に話を聞きました。
女性の健康について、社会全体で考える
「『不妊治療』は女性だけの課題ではない」という認識は、近年少しずつ広がりを見せていますが、それでは「『子宮頸(けい)がん』は女性だけの病気ではない」、という投げ掛けについてはどうでしょうか?
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日本産科婦人科学会によると子宮頸がんは、そのほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが原因。性的接触(性行為)によって子宮頸部に感染すると言います。その感染を高い割合で防ぐワクチンと検診で、最も予防しやすいがんが子宮頸がんです。
男性にも女性にも感染するありふれたウイルスである一方、国内では毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、毎年約3000人が死亡しているとの統計もあります(同学会ウェブサイト「子宮頸がん」を参照)。
女性が罹患(りかん)・発症する病気であることは違いないのですが、その要因には男性も深く関わりを持っている。だから女性だけでなく男性も一緒に予防意識を高めていこう、というのが冒頭の発信です。
「フェムテック」商品とは?
子宮頸がんにとどまらず、女性が抱える健康課題――例えば生理痛や月経周期の乱れ、PMS(月経前症候群)、妊娠中の体調不良、不妊症、更年期障害など、これまで表立って話題にすることがはばかられてきたテーマが今、徐々に注目を集め始めています。
きっかけのひとつとなったのは、女性(Female)の問題を最新技術(Technology)で解決することを掲げる「フェムテック」や「フェムケア」商品・サービスの台頭。
2021年6月15日(火)には、フェムテックの現状を通して女性や社会全体の健康と幸福について考えるオンライン配信イベントが開催されます。
女性だけでなく、ぜひ男性にも参加してもらいたい内容になっている、と主催者は言います。
女性がん経験者だからこその思い
イベントを主催するのは一般社団法人シンクパール(千代田区永田町)。代表理事の難波美智代さんは、2009(平成21)年に子宮頸がんを経験した当事者のひとりでもあります。
「当時から起業をしていたので、治療で仕事から離れてしまうと収入が途絶えるなど、影響は少なくありませんでした。会社勤めの女性であっても、休暇取得の理由を事細かに申請しなくてはならないためちゅうちょしてしまうといった、さまざまな課題があることをあらためて痛感しました」
こうした体験から同年、シンクパールの前身となるNPO法人を設立。これまで延べ10万人以上への検診啓発に取り組んできたほか、教育現場や企業などで健康全般に関わる講習会やコンサルティングをたびたび行ってきました。
多様化する「女性の健康」商品
あれから12年。「これまでにない時流の勢いを感じています」(難波さん)と語るように、この2、3年で国内でも知られるようになったフェムテックは、難波さんたちの活動にとっても大きな追い風となっています。
・生理や排卵の周期を自動計算して、情報とともに知らせてくれるアプリ
・ナプキンやタンポンに次ぐ新たな生理用品「月経カップ」
・ナプキン無しでも経血を吸収してくれるショーツ
・閉経や更年期の悩みを医師にチャットで相談できるサービス
・生理周期などの健康状態を計測できるウエアラブル端末
など、関連する商品やサービスは今、実に多様な広がりを見せています。
フェムテック・ブームの大きな特徴のひとつは、民間企業がビジネスとして推進の一翼を担っていること。全人口のおよそ半数に当たる女性全員がターゲットとなるため、業界は年々活況を帯びています。そしてそれに後押しされるように、女性の健康課題に関する周知や議論も格段に進み始めていると言えそうです。
政治・医療・民間が一丸となって
6月15日(火)にオンラインで開かれる「第7回NIPPON女性からだ会議(R)2021」は、衆議院第1議員会館(千代田区永田町)から生配信。
自民党の野田聖子幹事長代行ら国会議員のほか、産婦人科医や、性教育に力を入れる女性タレント、女性向けSNSマーケティングを展開するインフルエンサーなど、各界の多彩な顔ぶれが集結し、女性の体と健康について多角的な議論を展開する予定です。
イベント当日に向けて、フェムテックやフェムケアの事業に取り組む9企業への投票も受け付けています。
なぜ「女性の健康」を問いかけ続けるのか
難波さんが「女性の健康」をテーマに活動し続ける一番の理由は、その取り組みがひいては「社会全体の幸福」の向上につながると考えているから。
女性の社会進出やジェンダー平等意識の高まり、SNSの浸透などによって、女性が自分の意見を発信したり社会で活躍したりする機会はますます多くなっています。
しかし一方で、その重要な土台となる女性の健康課題については、前述の通りこれまでどちらかと言えばタブー視され、なおざりになっていた感が否めません。
「でも、それらの課題は今や、科学や技術の力でどんどん解決していける時代になりました。最終的には『困り事を解決する』のではなく『困り事自体がない』社会になっていくのが一番です。それによって女性たちのパフォーマンスもより高まり、社会全体の底上げが期待できるはずですから。女性が健やかに過ごせたら、社会はもっと輝くと、心からそう思っています」
男女対立の先に解決はない
女性の社会進出などに併せて、近年とりわけ活発に議論されるようになっているのが、ジェンダーやフェミニズムの問題です。
女性の自由な選択を広げるための重要なテーマである半面、一部では「女性ばかりが虐げられている」「男性は社会的強者であることに無自覚だ」といった、攻撃的とも取られかねない発言がなされることもしばしば。
女性に関する問題を解決していくために、必要なこととはいったい何なのか? そんな問いを難波さんに向けたところ「女性だけで抱え込もうとするのではなく、男性も巻き込んで社会全体で考えていくことが何より大切」という答えが返ってきました。
「女性の問題について女性だけが知っていても、改善につながっていくことは少ないのでは。現状、政策決定などの重要な場面には男性の存在も不可欠です。だからこそ(対立よりも)『社会をより良くするために皆で一緒に考えよう』という姿勢がより大切になってくるのではないでしょうか」
全ての人の悩みを社会で包摂する
もちろんその先には、男性が抱える特有の問題、あるいはLGBTなど性的少数者が感じる課題についても、社会全体で考えていく将来像が広がっています。
「男性ばかりの組織での講演で『子宮頸がんは女性だけの病気ではないんですよ』とお話しすると驚かれることもあるのですが、同じように男性自身の問題についても共有していけるのが理想です。(生物学的に)全く違う者同士がともに仕事をしたり生活したりするのですから、お互いの違いを知って、理解し合える仕組みが整った社会を目指していきたいですね」
あくまで明るく、前向きに、がモットー。難波さんのそうした姿勢が、12年にわたる同会の活動を発展させてきた一番の推進力となっているのかもしれません。