お店みたいな「あんかけ焼きそば」って自宅で再現できる? 都内の町中華にコツを聞いてきた
町中華の人気メニュー・あんかけ焼きそば。その味を家で体験したい人のために、食べ歩き評論家の下関マグロさんが人気の町中華を取材、コツを聞いてきました。お客さんの7割が注文「あんかけ焼きそば」 筆者(下関マグロ)は町中華(地元に根ざした大衆的な中華料理店)のあんかけ料理が大好きで、特に「あんかけ焼きそば」は一年中食べたいくらいお気に入りです。 家庭で再現するのは難しいので、今回はあんかけ焼きそばの人気店に作り方のコツを聞きに行ってきました。お店は「水新菜館」(台東区浅草橋)という老舗です。 台東区浅草橋にある「水新菜館」(画像:下関マグロ) 店主の寺田規行(てらだ のりゆき)さんによれば、同店のあんかけ焼きそばは、ランチのお客さんの7割が注文するのだとか。もちろん筆者も何度も食べに行っています。ビールと一緒に食べるとまさに至福のときです。それにしても日本人って、あんかけ料理が好きですよね。 「お豆腐のあんかけとか、もともと和食にあんかけ料理がありますからね。ちなみに、中華料理であんかけ焼きそばは『什錦炒麺(スーチンツァオメン)』。什錦が五目という意味で、炒麺は焼きそばなんです」 えっ、あんかけという意味ではないのですね。驚きました。 「そうなんです。昔、誰かが什錦炒麺を『あんかけ焼きそば』と訳したんでしょうね」 具材たっぷりのあんかけ焼きそば なるほど。それでは早速、あんかけ焼きそばを注文してみましょうか。 数分後やってきました。水新菜館のあんかけ焼きそばはとにかく具材がたっぷり。まるで宝石箱のようです。ぱっと見、 ・白菜 ・にんじん ・きくらげ ・フクロダケ ・たけのこ ・小松菜 ・豚肉 ・えび ・うずらのたまご が入っています。 あんかけ焼きそばのキモは麺です。麺は油をたっぷり入れた中華鍋で焼きますが、この焼き方にお店の特徴が出ます。水新菜館では、ゆでた中華麺をおにぎりのように丸めて、中華鍋で焼きます。 容器にあらかじめ用意された焼いた麺(画像:下関マグロ) 麺は丸めてあるので表面はパリッと焦げて、中心に近いあたりはもっちりしています。店によっては注文を受けてから麺を焼くところもありますが、水新菜館では麺をあらかじめ焼いて、ストックしています。 あんかけのポイントは「最後に5秒待つ」あんかけのポイントは「最後に5秒待つ」 ここからは、調理場を担当するチーフの若目田耕太郎(わかめだ こうたろう)さんにあんかけ焼きそばの作り方を見せてもらいます。ちなみに昔ながらの町中華では、店主のことをマスター、調理長のことをチーフと呼ぶところが多いです。 まずは、具材を油通ししていきます。油を通すのは一瞬。家庭では再現が難しいですね。しかし「フライパンでそのまま炒めても大丈夫ですよ」と若目田さん。 中華鍋に白菜を入れ、先ほど油通しをした具材を中華鍋に戻して少し炒めたら、そこへスープを入れます。 スープは、町中華の命ともいえるずんどう鍋で煮込んでいます。と、ここで寺田さんがいきなり話しかけてきました。 「なんでずんどうっていうか知ってる? 鍋の直径と深さが同じだからなんだヨ」 へぇ、知りませんでした。 話を戻しましょう。家庭でスープを取るのは大変なので、中華調味料に水(お湯)でもオッケーです。ここへ調味料を加えていきます。 「まずは醤油、それからオイスターソース、砂糖、こしょうを入れていきます」 意外とシンプルなんですね~。 「ここで味見をします」 味見は必ずするのでしょうか? 「必ずしますね」 さてここから、あんかけの工程です。 「水と片栗粉を1対1で混ぜたものを入れていきます」 これを入れないとあんかけにはなりませんね。なにかコツはあるのでしょうか? 「水溶き片栗粉は一度に全部入れずに、3回位に分けて入れてください」 水溶き片栗粉は一度に入れずに、様子を見ながら3回に分けて入れる。様子を見て固さが足りなければ、さらに水溶き片栗粉を追加する(画像:下関マグロ) 若目田さんは水溶き片栗粉を入れたあと、お玉でスープをすくってあんの硬さを見ています。まだもう少しと、水溶き片栗粉を少し足し入れました。 「最後にごま油をかけまわします。ここからがポイントなんですが、すぐに火からおろさないで5秒待ちます」 この5秒であんがまとまるわけなんですね。 色味のある具材を見える場所に盛り付けます色味のある具材を見える場所に盛り付けます 筆者が見ていて感じたのは、水溶き片栗粉を入れる仕上げの工程は思った以上にじっくり時間をかけて行うということ。5秒ルールは非常に勉強になりました。そして、盛り付けも丁寧に行われます。マスターの寺田さんいわく 「色味のあるもの、例えばにんじんやきくらげなんかを見えるところに置きます」 なるほど、見た目も大切ですね。 皿に焼いた麺を置き、その上からあんをかけていく(画像:下関マグロ) 筆者も自宅でときどき、あんかけ焼きそばを作りますが、今回、素人とプロの違いを感じることがいくつかありました。 まず、先に麺を焼いておくことです。いつも筆者はあんと同時に麺を焼いてしまい、あたふたしていました。あとは、水溶き片栗粉を一度にまとめて入れていました。こうするとダマになってしまうようです。なめらかなあんにするには、少しずつ様子を見ながら水溶き片栗粉を入れなければなりません。 若目田さんによると、お玉でスープをすくってサラサラと落ちるようではまだ固さが足りないとのこと。お玉からゆっくり落ちてくるようになれば、ちょうどいいのだそうです。 また、筆者はできあ上がったあんを一気に麺にかけていましたが、プロはゆっくりと少しずつ見栄えがいいようにかけていました。こういう細かいポイントが大切なんですね。いやぁ、勉強になりました。 水新菜館の歴史 水新菜館はJR浅草橋駅から歩いて3分。駅から江戸通りを北に歩けばすぐに看板が見えてきます。赤い看板に白い文字で「中華料理 水新菜館」とあります。 現在の店主である寺田規行さんの曽祖父(そうそふ)・寺田新次郎さんが、1897(明治30)年に果物屋として創業したのがお店の始まりだといいます。当時は果物のことを「水菓子」と呼んでいて、水菓子を売る新次郎さんのお店ということで「水新」という店名になったそうです。戦後は、飲食もやっていて、フルーツパーラーとなり、あんみつ、焼きそば、ラーメンなども出していたそうです。 本格的に中華料理にシフトしたのは現在の店主・規行さんの代になってから。店名にも「菜館」をつけて「水新菜館」となりました。それが1974(昭和49)年のこと。 寺田さんは当初、厨房(ちゅうぼう)で中華鍋を振っていたそうで、あんかけ焼きそばは当時からメニューにあったといいます。 右がマスターの寺田規行さん、左がチーフの若目田耕太郎さん(画像:下関マグロ) ランチ時は行列ができる水新菜館ですが、行列が苦にならないように、規行さんはしばしば、お客さんに「もうすぐだからね」と声をかけています。ちょうネクタイをした独特な接客スタイルもこの店の特徴です。 ちなみに、あんかけ焼きそば以外のメニューもおいしいです。筆者のおすすめは「うま煮定食」です。うま煮にごはん、ザーサイ、スープがついて1040円(税込み)。こちらもあんかけ料理ですね。 前述のとおり、あんかけ焼きそばにはきくらげが入っていますが、うま煮にはしいたけが入っています。こちらもおいしいです。浅草橋方面に行ったときは水新菜館に寄ってみてください。
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