都内に「名水百選」スポットがあった! 国分寺駅から歩いて20分、秋の湧水地の魅力とは
多摩地域中部に位置する国分寺市に、全国「名水百選」に選ばれた「お鷹の道・真姿の池湧水群」があります。その魅力について、地形散歩ライターの内田宗治さんが解説します。多摩地区の代表的な湧水ポイント 崖下近くや斜面から、こんこんと水が湧き出て、そこを源流として、澄み切った小川の流れが始まるといった湧水ポイントが、多摩地区にはいくつかあります。 その代表的なスポットが、1985(昭和60)年、環境庁(現・環境省)による全国の「名水百選」にも選ばれた「お鷹の道・真姿の池湧水群」(国分寺市)です。JR中央線国分寺駅から歩いて20分ほどで行くことができます。 お鷹の道、真姿の池脇の湧水スポット。2021年10月26日撮影(画像:内田宗治) お鷹の道とは、江戸時代に尾張徳川家の鷹狩の場だったことに由来して名付けられた散策路で、傍らに真姿の池からのせせらぎが並行しています。 真姿の池は、平安時代に絶世の美女とうたわれた玉造子小町が重い病に苦しんでいた際、国分寺の薬師如来の導きに従ってこの池の水で体を洗うと、元の美しい姿に戻った伝承からの命名とされています。 すぐ近くに武蔵国分寺跡があるので訪れる人も多く、駅前など何か所か案内板も立てられています。 季節によって変化する湧水量 あまり知られていませんが、湧水地の散策は秋がうってつけの季節です。 例年、湧き出る水の量が最も多くなるからです。秋の長雨の後など、水量が豊かで水流も速くなり、あたりに生気があふれているように感じます。 お鷹の道、真姿の池脇、湧水の上での野菜スタンド。2021年10月26日撮影(画像:内田宗治) 筆者(内田宗治、地形散歩ライター)はこの近くに十数年前から住んでいるので、真姿の池周辺の湧水状況を、ほぼ毎日目にしてきました。例外の年もあるのですが、冬や夏ですと概して湧水量が少なくなります。 湧き水や井戸水は通常の水道水よりも「夏は冷たく冬は暖か」なのでそれを実感するにはいいのですが、湧水の流れに勢いがないので、見ているこちらも何となく元気が出てきません。 とはいえ、夏の水辺はやはり涼しげですし、寒い冬の日は、水温が外気より温かなので、水面から湯気がゆらゆらと出ていて趣があります。 秋に湧水量が増加する理由秋に湧水量が増加する理由 真姿の池周辺にいくつかある湧水ポイント(おたかの道湧水園〈国分寺市西元町〉など)では、夏などほとんど水が湧き出ず、そこからの小川も完全に干上がってしまうことがあります。 一方、真姿の池脇の湧水はそんなときでも枯れることはありません。水量が少ない時期に訪れた人が、「昔と違って湧水もずいぶん少なくなってしまったのでしょうね」と話しているのをよく耳にします。そのため筆者は、 「秋にもう一度来てみてください。もっとたくさん、本当に音をたてて流れていますよ」 と知らない人でもつい話かけてしまうことがあります。 お鷹の道、真姿の池脇の湧水からの流れ。2019年12月4日撮影(画像:内田宗治) 国分寺市では、市内の湧水地十数か所で毎月流水量を測定しています。例えば真姿の池からの流れでは、11月は毎秒約17lで、最も少ない2月の約4倍、8月の約2倍の水量です(いずれも過去5年間の各月平均で比較)。雨が続いた後の10~11月では、水量が毎秒30lを超えるときもあるほどです。 なぜ秋に湧水量が増加するかというと、広葉樹が芽吹く春から夏にかけては、樹木が地中の水分を盛んに吸い上げるためなどです。 真姿の池の南西200mほどの所に、武蔵国分寺跡(同)があります。奈良時代の741(天平13)年、聖武天皇が仏教による国家鎮護のために全国に国分寺建立を命じた際のもので、講堂跡、金堂跡などが整備され礎石などを見ることができます。 付近にも多くの湧水スポットが存在付近にも多くの湧水スポットが存在 真姿の池湧水群と武蔵国分寺の関係を地理的・歴史的に見てみましょう。真姿の池からの流れは、約1km下流、国分寺駅南側の不動橋で野川に合流します。 武蔵国分寺跡の金堂跡。2019年12月12日撮影(画像:内田宗治) 野川は国分寺駅の北西、線路に隣接する日立中央研究所(国分寺市東恋ケ窪)内の大池や、JR武蔵野線小平トンネル(西国分寺~新小平間)からの湧水などを源流として、東急田園都市線二子玉川駅近くで多摩川に合流する川です。 ほぼ野川の北側に沿って、国分寺崖線という高低差10~20mほどの崖が約30km続いています。野川はこの国分寺崖線下の湧水を集めながら流れていきます。 国分寺崖線沿いには野川下流側から順に、 ・成城 ・深大寺 ・大沢 ・都立野川公園 ・貫井神社 ・国分寺 付近に比較的多くの湧水スポットがあります。 これらを俯瞰(ふかん)してみると、湧水スポット付近には多くの場合、神社かお寺があることが分かります。大昔から人々は水が豊かにある地に住み、その中心に神社やお寺を建ててきたわけです。 知っておきたい武蔵国分寺との関係 舗装道路や建物の上に降った雨水は地中に染み込むことなく下水管に取り込まれるので、各湧水スポットの水量は昔に比べて減少しています。 真姿の池は年間を通して枯れることなく水が湧き続け、特別に豊かな水量の湧水スポットとなっています。周辺の都市化が進む前、真姿の池の湧水量はもっと多かったことでしょう。 武蔵国分寺は奈良時代、豊かに湧水のある真姿の池近くを選んで建てられています。お鷹の道を訪ねるとき、そうした武蔵国分寺との関係も念頭に置いておくと、散策がますます味わい深いものとなるでしょう。 おたかの道湧水園付近。2019年12月4日撮影(画像:内田宗治) 真姿の池から歩いて1~2分の所におたかの道湧水園があり、園内には旧本多家住宅長屋門や湧水スポットのほか、武蔵国分寺跡資料館もあるので、歴史について詳しく知りたい人はそこを訪れるのもおすすめです。
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